【Goodpatch卒業エントリー】Experience Designと向き合った8年間
どうも、Goodpatchの國光です。
という自己紹介をするのもこれで最後かもしれません。
2016年1月にGoodpatchに入社して約8年。
2024年4月9日に大好きなGoodpatchを退職して次の挑戦に向かうことを決めました。
Goodpatchに入社してから経験したことや学んだことを残しておきたいという想いから、このnoteをしたためています。
退職を決めた今でもお世辞抜きに全力でおすすめできるくらいGoodpatchは本当に良い会社なので、Goodpatchに興味がある方からUXデザイン・UIデザイン・事業づくりなどへ興味のある方までご覧いただければと思います。
そもそもなぜGoodpatchに入社したのか?
私は元々グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、前職ではWebデザイナー兼ディレクターを務めていました。
様々な仕事を経験するうちに、クライアントやユーザーとの距離がどうしても離れてしまうデザイナーを取り巻く環境を変える力もなく、デザイナーを辞めようか、と考えたこともありました。そこから紆余曲折あり、「ユーザーに本当に求められる“残る”デザインに自分の人生を使っていきたい」という想いが徐々に強くなっていきました。
そんな中、当時まだあまり一般的ではなかった“UXデザイン”の概念を知り、そこからGoodpatchに巡り合いました。
Goodpatchは当時「UIの会社」「Prottの会社」という市場認知が強かったのですが、実際に社員の方と話してみるとユーザーやクライアントのことを第一に考え日々高い熱量でコミットしている方ばかりで、こんな会社が日本にあるのかと衝撃を受けたのを覚えています。
デジタルサービスが一般的になってきた時代に「残る」デザインとはどういうことなのか悩んでいた自分にとって、Goodpatchという環境はとても魅力的に映りました。この環境でユーザーのためによりビジネスの源流からサービスやプロダクトに携わりたい気持ちが強くなり、UXデザイナーとして入社することを決意しました。
そしてGoodpatchへ
入社前、私はビジネスやUXデザインの知識がほとんどありませんでした。しかし、運よく入社が決まり浮き足立っていた入社日前夜。
CEOの土屋さんから次のようなメッセージが同期全員に送られてきました。
このメッセージを読んで、自分の甘えに気付かされました。当然のように会社に受け入れられ、様々な経験を用意してもらえる立場だという甘えた意識がどこかにあったのかもしれません。
土屋さんのメッセージの通り、Goodpatchは今このタイミングこそが変革期であり、一人ひとりが成長することでしか次のステージに進めないことを改めて認識し、気が引き締まりました。
(とはいえ、実際に入社してからしばらくして甘えが残っていたことを後に知ることになります…😇)
大きく成長をさせてもらったクライアントワーク期
Goodpatchのクライアントワークは特殊です。
今でこそ共創という考え方は一般的になってきましたが、2016年に入社した当時からクライアントと対等なパートナーとして、その事業のコアメンバーになるくらいの覚悟を持ってクライアントの組織や事業にディープダイブして苦楽を共にするスタイルで熱量を持って働く人が多くとても影響されました。
私が入社してから担当したプロジェクトは多岐に渡ります。スタートアップから大企業、BtoBからBtoC、新規事業から大規模リニューアル、UXデザインからBXデザインまで、様々なプロジェクトを経験しました。
これらのプロジェクトを通じて、事業や組織に不可欠な観点や実践知を培うことができましたし、経営者や事業責任者の方々からはその視座・視野・視点、マインドセットなど数多くのことを学ばせていただきました。
もちろん、すべてのプロジェクトが順調に進んだわけではありません。
実際にリアルな現場に深くコミットしたからこそ、理論や理想論では前に進まない状況を数多く経験しましたし、むしろ大きな失敗や挫折から学ぶことの方が多かったです。
そして何より、クライアントの方々やGoodpatchのメンバーと事業やユーザーのことを深く考え、常に自分の能力以上が求められる日々は最高にエキサイティングで楽しい時間でした!!
一つずつプロジェクトを振り返るとかなり長くなってしまうので、UXデザイナー視点で学んだことを少し抽象化して振り返ってみようと思います。
1. UXデザインの対象はプロダクトだけではない
UXデザインというとデジタルプロダクトの中の操作体験を考える仕事という風にまだまだ捉えられています。しかし、本質的には「人が価値に触れる前後の体験や環境のすべて」がUXデザインの対象です。
一つ例を挙げると、以前担当したハンズさんのプロジェクトでは、元々セミセルフレジの画面内のUXデザインとUIデザインが主なスコープでした。
しかし、フィールドワークを行いながら現状どのような状況があるのかを紐解くと、実際セミセルフレジが置かれる想定の環境は店舗によってもフロアによっても様々ですし、レジのUIに触れる可能性のある人もお年寄りからお子様、そして従業員まで幅広いユーザーが想定されました。
そこで、セミセルフレジが導入されることでハンズのお客様だけではなく従業員側にもどのような変化が起こるのかを含む「レジ周辺の全ての体験」を店舗の方と話し合いながら設計を進めました。
その時のデザインの観点は以下のスライドにまとめていますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
これはほんの一例ですが、UXデザインはデジタルプロダクト・サービス・事業、そして組織に至るまで活用可能なケイパビリティです。
経営者や事業責任者の方とお話しする中で、UXデザイン的な観点から事業づくりや組織づくりに携われる人材が圧倒的に足りていないという課題も肌身で感じました。
2. 行動が起こりやすい“環境”をデザインする
UXデザインについてクライアントの方にお伝えしてきたことの一つが、UXデザインは「行動のデザイン」ではなく「行動が起こりやすい“環境”のデザイン」だという考え方です。
ユーザーの行動はそう簡単に誘導できるものではありません。
誘導しようとしてしまうとビジネス的な論理が勝ってしまい、ユーザーにとって悪い体験になることで結果的にビジネスの成功が遠のいてしまうこともあります。
ビジネスとユーザー体験をうまく接続するためにも、行動自体を直接引き起こそうとするのではなく、ユーザーの行動を阻害せずユーザーにとってもビジネスにとっても良い行動・良い体験が起こりやすい環境をデザインすることが重要だと、数々の失敗から学びました。
行動を阻害しない環境のデザイン(-→0)
行動が起こりやすい環境のデザイン(0→+)
3. ビジネスとユーザーの距離が競争力に直結する
以下は企業活動における市場やユーザーとの概念的な距離を図解したものです。この図のように、企業や事業のビジネス観点とユーザー観点は離れていることがほとんどだと感じています。
企業や事業提供者にとって良いビジネスと、ユーザーにとって良いビジネスは全く異なります。
ビジネスモデルがコモディティ化しAIのような技術革新が起こっている現代において、ユーザー体験を中心に据えた強いビジネスをつくれるかどうかが企業の競争力に直結します。
私はクライアントワークを通じて、このビジネス観点とユーザー観点の橋渡し役としてのUXデザイナーの重要性を強く感じました。
異なる観点や能力を持ったチームを束ね、意思決定の中核にビジネスとユーザーそれぞれの観点が組み込まれた組織を作ることは、これからの時代において最早不可欠になっているのではないでしょうか。
組織崩壊を経験して学んだカルチャーと主語の大切さ
社外の方にも広く認知されているGoodpatchの組織崩壊。
私は組織崩壊前夜のような時期に入社し、組織崩壊からカルチャーを取り戻して最高の組織になっていく過程を肌身で感じました。正直なところ、当時のことを振り返ると、もっと組織のためにできたことがあったのでは、もっと土屋さんの力になれたのではという反省点や後悔が多く残っています。
それと同時に、同期入社でPRからカルチャーの再構築まで前線で引っ張ってくれたhacoちゃんが、当時社内でよく言っていた「主語がWeなら大丈夫」という言葉を今でもよく思い出します。
一度大きく組織崩壊したGoodpatchがカルチャーを取り戻すまでの過程で、経営陣の覚悟を目の当たりにして、メンバーの主語がWeに変わっていくのを体感しました。個人個人の中にあるそれぞれのGoodpatch像に向いていた内向きなベクトルが、カルチャーが再構築されていく中で共通のGoodpatch像に向かっていきました。
組織もカルチャーも一人では絶対に作れません。
この経験から、組織づくりにおいても事業づくりにおいても人が集まって何かコトを起こす時には「主語がWeになっているか?」ということをとても大事にするようになりました。
圧倒的なコミットもマインドシェアも全ては主語がWeになっていく過程で発生します。これから自分が主体的に組織やチームを作るときは、メンバーそれぞれのIとWeとの重なりが最大化する組織やチームを作っていきたいと思っています。
IPOでちょっと泣いた
コロナ真っ只中の2020年5月27日。
突然CEOの土屋さんから全社員に集まってくれというメッセージがSlackで流れ、不穏な空気を感じながらリモートで土屋さんが話し出すのを待っていた時のことを今でも覚えています。そして土屋さんの「上場承認された」という言葉を聞いて、組織崩壊からそこに至るまでのあれこれを想い出してちょっと泣きました。(実はだいぶ泣きました)
そして、Goodpatchは2020年6月30日にIPOを果たすまでに至りました。
POとして事業立ち上げに挑戦し失敗した経験
クライアントワークを約6年経験した後、実はGoodpatch社内で新規事業の立ち上げに挑戦をしていました。
事業領域は「ナレッジマネジメント」です。
結果としては、クローズドβ版の価値検証を経て終了という判断になってしまい無力さを痛感しましたが、この挑戦を信頼して後押ししてくれた経営陣には本当に感謝しかありません。
いざ事業を作る立場になった時、Goodpatchの経営陣やこれまでクライアントワークで携わってきた経営者・事業責任者の方の偉大さを実感しました。
これまで本当の意味で0から考えたことがなかったビジネスについての考え方や、経営視点での新規事業への投資判断など、自分がデザイナーという立場に甘んじて経営や事業戦略などの理解がいかに足りていなかったのかを痛感しました。
この挑戦を経て得たナレッジは以下のnoteに残していますが、noteでは語れなかった事業立ち上げの3つの失敗について少し触れようと思います。
1. 失敗を避けたことが最大の失敗
事業を形にするところにフォーカスしようとしていたはずが、予算や裁量を突然手にしたことで思考が「失敗しないこと」に引っ張られてしまっていたのを今だからこそメタ認知できます。
しかし当時はそんな意識もなくずるずると失敗しない方向へ意思決定の先送りを繰り返してしまい、かえってそれが最大の失敗要因になっていました。
何にフォーカスし何を捨てるのかという意思決定の本質的な部分を見失い、結局何も成果が出ないまま時間だけが過ぎていきました。
この失敗を経た今だからこそ、メンバーとしてサポートする立場と実際に意思決定する立場の大きな違いを実感しています。
2. 「売れるようにしてから作る」の真逆をいってしまった
事業領域の選定もビジネス的なロジックからというよりも、以下のような要因から自分達が解決したい課題ドリブンでの事業検証をスタートしてしまいました。
クライアントワークをしていた時の自分であれば、まず何もない状態でもユーザーニーズをすぐに確かめにいく動きをしたはずなのですが、失敗しないことにいつの間にか引っ張られ、初動で失敗を犯しました。
要するに、実際にバーニングニーズがあるかどうかが不確かなまま、身近にある自分たちのニーズを満たすものを作り始めてしまったのです。
当時はこんなことを考えていたように思います。
しかし、自分たちのニーズはナレッジマネジメントの好循環が生まれた後の組織で発生しているニーズなので、全くバーニングニーズではないですしそもそもこのフェーズに進んでいる組織自体少ないことに後になって気づきました。
もし過去に戻れるなら、迷わずに馬田さんのスライドを当時の自分に見せると思います…。
3. 重要度と緊急度の高い課題ではなかった
一方でこの事業検証の期間は真剣にナレッジマネジメントや事業づくりに向き合ったのも事実です。頭から火が出るくらい毎日ナレッジマネジメントのことを考え続け、様々な組織の話を収集し、藁にもすがる思いでナレッジマネジメントや組織学習などの文献を読み漁りました。
実際に様々な組織の方にヒアリングをする中で得た気付きがあります。
それは「ナレッジマネジメントは9割の経営者が重要な経営イシューだと捉えているが緊急度は低い(高くならない)」という事実です。
要するに売上に直結しない上に効果が計りづらいためバーニングニーズになりづらい領域であり、目に見える効果が出るまで時間がかかるため取り組み始めるハードルも高いのです。なので、ほとんどの組織において決済者不在で予算がついていない状況がありました。
次にtoB系の新規事業検証をするなら、まず決裁権と予算を持った人の大きな課題やニーズをとことん深掘りして簡易的な提案資料だけで売れる状態まで持っていき、ギリギリまでプロダクトを作らずに価値提供をするというプロセスを間違いなく取ると思います。
事業探索と長期休暇
新規事業立ち上げを断念した後は、自社事業であるReDesignerのチームでダイレクトリクルーティング領域の初期リサーチを数ヶ月担当していました。
いざ飛び込んでみると、ReDesignerのチームは熱量が非常に高く、全員がビジネスコミットをしながらユーザーのことを真に考えているチームでした。同じGoodpatchの中でも少し異なるカルチャーを感じてとても刺激を受けましたし、果たして自分が事業を立ち上げられたとしてもこんな強いチームが作れたのか?と本気で思うくらい強い衝撃を受けました。
私は家庭の事情で長期休暇に入ってしまったため、本リリースされたダイレクトリクルーティング機能には携わっていないのですが、1つ嬉しいことがありました。
それは、クライアントワーク時代にラクスルさんとのプロジェクトでご一緒したデザイナーの安積さんがReDesignerのデザイナーとしてGoodpatchに入社してくれたことです!!
安積さんはその時すでに別の会社で活躍されていたのですが、ふとしたきっかけで声をかけさせてもらってからトントン拍子に話が進み、最終的には次の活躍の場にGoodpatch・ReDesignerという環境を選んでくれました。
安積さんが入社されてからReDesignerチームは新体制となり、ユーザーのことを考え抜いて作られた新設計のスカウト体験など、これまでになかった深いインサイトを突いたダイレクトリクルーティングサービスを提供しています。
デザイナーやPdM、エンジニアの方など、ユーザーのことを真に考えた環境に身を置きたいと思っている方はぜひReDesignerをご利用ください!(宣伝)
8年分の感謝を添えて💐
「ユーザーに本当に求められる“残る”デザインに自分の人生を使っていきたい」という想いで入社してから約8年。Goodpatchというデザイナーとして本当に求めていたことが実現できる環境で最高の仲間たちと出会うことができました。
Goodpatchが大事にしてきた価値観や思想が、今では私自身のコアな価値観や観点としてDNAレベルで刻み込まれています。
Goodpatchで過ごした8年間は、間違いなく僕の人生の転換期となりました。デザイナーを辞めようと思ったこともある自分がまたこんなにデザインを好きになり、デザインの力を証明するためにデザイン以外のことにも興味を持てているなんて、8年前の自分はきっと想像もしなかったと思います。
それも全て、多くの機会を用意してくれた土屋さんやGoodpatchという環境のおかげであり、信頼して仕事を任せてくださったクライアントの方々のおかげであり、デザインの力を信じて集まり切磋琢磨し合った仲間のおかげです!!!本当にありがとうございました!!!!!!!
人生のあのタイミングでGoodpatchに入れて本当に良かった。
Goodpatchでかけがえのない8年間を過ごせて本当に幸せでした。
これからの挑戦に向けて
組織と事業のコアに「体験」を組み込みたい
次の挑戦を決める前から考えていることがあります。
ユーザー視点や体験の観点を持った経営者は世の中に確実に増えてきていると思いますし、デザイナーでなくてもユーザー体験を日々考えて尽力している方も数多く存在します。
一方で、技術革新が起こっている現代において、世の中には簡単に誰でもそれなりのものが作れる環境が更に充実してきました。
その結果、本当に良い体験は増えているでしょうか?
組織や意思決定の中枢に、ユーザーや体験の観点は本当に組み込まれているでしょうか?
ビジネスパーソンとして、ビジネスで勝つことを悪いことだとは思いません。むしろ勝つまでやることでしか新しい価値は社会に実装されていきません。しかしデザイナーとしては、ビジネス優位になりすぎることでEvilな体験や意図せず悪い体験が世の中に増えてしまう危うさも同時に感じています。
だからこそ、短期視点と長期視点を行き来しながら事業と組織におけるすべての「体験価値」を最大化しバランスをとり続けることが重要だと感じています。
Goodpatchという稀有な環境で培った経験を活かして、更に高い壁にぶつかりながらも良い事業や良い組織を作り出すところへコミットし、Experience Designを軸として全ての体験を良くしていくことに自分の人生をフルベットしていきたいと思っています。
最後に:人生は思っているよりも短い
人生は多分自分が思っているよりもずっと短いと思います。
全力でコトに向かえる時間は更に限られています。
今このタイミングだからこそできることに全力を尽くしたい。
今このタイミングでしか集まらない仲間と共にこれまでにない大きな価値をつくりたい。
今ここにある火を絶やしたくない。
そんな想いで最後まで悩みに悩み抜いて決めた次の挑戦については、近々またXやnoteなどでご報告させていただく予定です!!
9000文字もある駄文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!!
これからもよろしくお願いします!!!
記事を最後まで読んでくださってありがとうございます。とても嬉しいです!