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〈問い〉なぜ、今までその問題が放っておかれたのだろうか。

📓ビジネスデータサイエンスの問題設定力を高める問い…その4

問題設定力を高める問いシリーズ4回目です。
ここまでご紹介した3つの問いをまとめると、「なぜ解くの?」「どこに位置する問題なの?」「解いたらどうなるの?」ということになります。目の前の問題の輪郭を捉えながら、問題の本質に迫っていくわけですね。

今回からお伝えする問いは、問題と言うよりも「今」に着目した問いがしばらく続きます。ということで、今回の問いは

「なぜ、今までその問題が放っておかれたのだろうか。」

というものです。

クライアントから解決してほしいと相談されている問題があったとすると、その問題は今も存在していることなります。これは当たり前の話かもしれません。

それでは、その問題は今までなぜ放っておかれたのでしょうか?

必ずしも技術的な問題だけではない

もしあなたがデータ分析者やエンジニアであれば、この問いに対して次のように想像するかもしれません。

「いろいろやってみたけど解決できなかったので、データ活用を試してみたいのだろう」
「問題が大きくなってきて必要に迫られたのだろう」
「私達の技術力に期待しているのだろう」

これらはすべて、クライアントが私達に技術的な期待を寄せていること、しかも技術的な解決を求めていることを前提としています。

しかし、データ分析や機械学習活用の「相談」が持ち込まれる背景は様々です。以下、エンジニアの思惑とは異なりそうなケースを3つほど取り上げてみました。これらを念頭においた上で、目の前に出された話題の背景を想像してみると新たな発見があるかもしれません。

「相談」という名の調べもの

私は第3次AIブームが始まった頃に研究職からプリセールス(技術営業)に転じた時期がありました。このころ、AIといえばディープラーニングによる画像認識や質問応答のようなイメージがあり、社内外から実に様々な相談がチームに持ち込まれました。

この時期、もっとも多く持ち込まれた相談は「技術内容や事例を教えて欲しい」というものでした。要は情報を集めたいということですね。

ご存知のように、IT分野では数年ごとに目を引く言葉がでてきます。データ関係だけでも、データウェアハウス、BI、ビッグデータ、IoT、AI、DXといった言葉が出てきました。インフラ寄りでは、古くはオープン化やクラサバなどがあり、Web、SaaS、クラウドといった言葉が続きます。
近年では、量子コンピューター、量子アルゴリズム、Web3、メタバース、ChatGPT、生成AIなどが目を引きます。

こうしたビッグワードがでてくると、様々な期待が生まれます。それ自体はとても良いことではないかと思っています。なぜなら、今まで目を向けなかった課題やソリューションに光が当たり、場合によってはビジネスが大きく改善されるからです。

その一方で、新しい言葉が出てくれば、企業や組織の中で調べる必要に迫られることは想像できますね。IT部門はもとより、事業部門においても同様です。

このようなケースであっても、「情報収集です」とはっきり意図がわかるような会話であればそれほど問題にならないでしょう。あなたがデータデータサイエンティストであるなら、専門性を発揮して丁寧にお伝えすればいいわけです。

しかし、私の経験では、「情報収集」あるいは「情報提供」のためだとはっきり示されないケースも多くありました。BtoBのセールスの場面となると、お互いに何らかの思惑を持つものです。

したがって、ミーティングで議論されている問題が、業務的に最重要な問題であるとは限りません。クライアントから見て技術の情報収集のための「例題」かもしれませんし、セールス側が無理やり想定した「仮説」かもしれないのです。

社内教育や研修の一環

さて、先ほどの情報収集と似ているようで少し異なるのが、社内教育含みの相談です。こちらも教育をしてほしいというリクエストなら話が早いのですが、会話の初期段階で明らかにされないこともありました。

例えば、教育プログラムの一環で、グループを組んで新しいビジネスを検討しているようなケースがありました。これは社内からの相談でしたが、話をお聞きすると管理職向けの選抜研修で「データ・AI活用」のビジネス企画を検討しているということでした。その過程でデータ分析に詳しい人に話を聞くことになったというわけです。

このような場合、研修や教育の内容にもよりますが、問題解決のアウトプットよりも問題発見やその解決のプロセスそのものが重要になります。目の前で議論されている問題は例題もしくは新しいアイデアであり、それを下敷きに学ぶことが目的となります。

このようなケースでは、専門家としての立ち位置を少し変える必要があります。エンジニアとして問題を解決するのではなく、その方法論や事例を分かりやすく伝えながら、相談者が考え方や新しい視点を身につけられるようにしなくてはなりません。

データ分析業務とは少し違ったスキルが必要になるわけですが、私はポジティブに捉えています。教えることで教えられるというのはよく言ったもので、自分で問題解決をしない場面でこそ専門性を問われるように感じる時もあります。

実は重要な問題ではない可能性もある

3点目は問題の質そのものについての議論です。
端的に言うと、今まで問題が放っておかれた理由が「その問題が重要ではない」という場合もあるということです。

ここで問題の重要性を考えるとき、誰にとっての問題か考えることが大切です。

例として、以前にも出てきた「見積の誤り検知」という話を考えてみましょう。これは誰にとっての問題だと思いますか?

何となく見積作業をしている人と答えそうになりますが、少し引いて考えるといろいろ想定できます。ざっと考えてみると、以下のような観点が思い当たります。

  1. 見積作業をしている人。

  2. 見積結果を確認したり、承認したりする人。

  3. 見積結果を受け取って後の工程を実施する人や部門。

  4. 監査的な立場にある人。

  5. 見積に責任を持つ部門のトップ。

  6. 会社のトップ。

もっとも重要なのは見積作業をしている人とその周辺ですね。作業改善が目的であるなら、現場の問題を把握して初めて一歩目を踏み出せるからです。

もし現場にない課題であるなら、問題の定義そのものが間違っているのかもしれません。また、問題があっても低コストで回避できているのであれば、問題解決にコストを振り向けることにNoGO判断がなされるでしょう。いずれにしても、問題を議論する場にその作業を担っている人や責任を持つ人がいないとしたら、これらを見極めることは難しいはずです。

その一方で、現場として確かに問題があったとしても、マネジメントレベルでみたときに優先事項でないという場合もあります。今回の例では、コスト削減よりも市場開拓が優先されるようなときです。コストをかけた問題解決には、必ず経営的な視点がもとめられるのです。

企業には組織中の問題を見つけて解決することに長けた人が集まっています。もし長年放っておかれた問題があったとしたら、それよりも優先すべき事項があるのかもしれません。

取扱注意の問いでもある

本記事では問題の様々な背景をあげてきました。すべてを網羅できているわけではありませんが、データ分析者への期待には様々な形があることはお伝えできたと思います。

今回取り上げた「なぜ、今までその問題が放っておかれたのだろうか。」という問いは、こうした背景に目を向ける上で効果的です。しかし、この問いは劇薬でもあります。言い方次第ではとても攻撃的な問いになってしまうからです。

例えば、あなたが腰痛を抱えていて我慢しながら仕事を続けていたとしましょう。忙しい日が続きなかなか病院に行けず、市販の貼り薬や痛み止めを飲んで凌いでいました。そして、仕事の合間をやっと見つけて病院に駆け込んだとき、開口一番「なぜこうなるまで放っておいたの?」と怒られたらどう感じるでしょうか。こっちにも事情があるんだよ、痛いところ診てくれよと思うのではないでしょうか。

このケースと今回議論した内容は違う話ではあります。しかし、「なぜ放っておいたの?」という問いは、このような攻撃性を持つことを念頭においておきましょう。

したがって、今回の問いは、まずは聞き手である自分自身に向けられるものです。そして、別の形で問いかながら現状を探るのがよいでしょう。「別の形の問い」については次回以降にお伝えします。


残り26個、頑張っていきましょう!


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