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〈問い〉それは、ビジネス全体の中でどの部分に位置するだろうか

📓ビジネスデータサイエンスの問題設定力を高める問い…その2

問題設定力を高める問いシリーズ2回目です。
前回は、問題の根っこを捕まえるために、目の前に提示された問題や話題に対して「なぜ」を考えてみましょう、という話でした。

この「なぜ」という問いは強力なもので、問題追及のすべてといってもよいかもしれません。しかし、クライアント、データサイエンティストを問わず、議論が浅い段階では応えるのが難しい問いでもあります。

そこで、「なぜ」とは少し違った角度から考えてみるための問いをあげていきたいと思います。

まずその一つ目は、

「それは、ビジネス全体の中でどの部分に位置するだろうか」

という問いです。”それ”には、クライアントからのリクエストであったり、目の前で展開されている話題そのものが入ります。

具体的にいうと、

「その『誤り検知』は、ビジネス全体の中でどの部分に位置するだろうか」
「その『適正配置』というのは、ビジネス全体の中でどの部分に位置するだろうか」

という感じです。この問いの意義と効果について考えてみましょう。


まずは対象業務を正確に捉える

目の前で展開される話題というのは、仕事のある部分を切り取ってなされていることが多いものです。そこで、まずはその話題が仕事上の何を意味しているのか正確に把握することが大切になります。

例えば、「人材の適正配置」という話題を考えてみましょう。

人事分野で配置といえば、新卒採用の初期配置、定期異動の配置、昇格に伴う配置、事業部主体の配置、事業部整理のための再配置などが考えられます。また、後継者育成含みでサクセッサーを育てるために戦略的な抜擢・配置を行うこともあるでしょう。

このように、「配置」という言葉一つとっても、どの業務なのか具体的に捉えておくことが必要になります。なぜなら、新卒採用の配置と、後継者育成では全く問題が変わってくるからです。

これは当たり前じゃないかと思われるかもしれません。

しかし、人は往々にして自分たちの環境や経験が普遍的だと考えがちです。それはクライアント、データサイエンティストを問いません。

そのため、面倒だと思ったとしても、丁寧に確認することが重要だと考えています。

また、この問いは「目の前の話題や自分の認識の外に何かあるかもしれない」という気づきを与えるもので、私は重宝しています。

目の前の話題は「点」である

さて、ここまでは話題の捉え方について述べてきました。
では、話題を上手く捉えられたらもう大丈夫かというとそうでもありません。なぜなら、その話題というのは、クライアントの業務全体でみると「点」でしかないからです。

確かに具体的な問題設定を行うには課題にシャープに迫っていく必要があります。その意味で最終的には「点」であっても構いません。

しかし、その「点」はクライアントにとってどの程度重要なものなのでしょうか? それはコストを解決すべき問題なのでしょうか。

いや、わざわざデータサイエンティストを引っ張り出して時間をかけて話をしているのだから重要な話題に違いない、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

果たして本当にそうでしょうか?

ここで昔話。
私がピープルアナリティクスの世界に足を踏み入れたとき、はじめに取り組んだタスクは、休職リスク予測というテーマでした。

様々な情報を利用して休職リスクを予測するAIを開発することができれば、早期にケアができ、従業員も会社もハッピーになるだろうというものです。ひとりで数十社を訪問してヒアリングしたところ、3割程度のお客様がこのテーマに関心をもってくださいました。

そこで、技術開発を進めながらリーン的なアプローチで顧客開拓を行い、ローンチの一歩手前まで行きました。

しかし、いざビジネスにしようとしたとき、どのクライアントも本番運用のためにコストをかけるような意思決定を下すことはありませんでした。本当に1社もなかったのです。

上手くいかなかった原因はいろいろありますが、突き詰めると改善を試みた業務の位置づけや特性を正確に捉えてなかったことにありました。

今振り返れば顧客のニーズを捉えてなかったということがよくわかります。しかし、いくつかの実証プロジェクトを回している間、顧客の反応は悪いものではなかったので判断が遅れてしまったのです。

さて、ここでの教訓は「取り組んでいるテーマの重要性は早い段階で確かめよ」ということです。そのためには、「点」である目の前の問題がビジネスの中でどこに位置しどの程度重要であるのか、つまりクライアントにとって偏頭痛級の問題なのか見極めることが大切です。

これを確かめるために、「それは重要なことでしょうか? 」とストレートに確認してもまず上手くいきません。相談事や議論をしているテーマそのものに早い段階で疑義を投げ入れるのは、あらゆる意味で難しいのです。

私はどちらかというと突っ込みが早い方だったので、様々な場面で失敗を繰り返してきたのですが、その話は別の機会に。

まずは、対象とする仕事そのものを深く理解することが何よりも肝要です。

今回の問いは、議論している仕事を深く理解し、ひいてはクライアントの悩みを理解する上で一歩目になるでしょう。

「横」と「縦」で位置を探す

私がテーマのビジネス上の位置を探るときに意識するのは「横」と「縦」です。それぞれ堀り下げてみましょう。

プロセス軸でみる「横」

「横」というのは業務の流れ、ビジネスの流れです。プロセスといってもいいですね。

大きな視点では、ビジネスシステムやバリューチェーンのどこに位置する話題だろうか?ということを考えながら質問を考えます。MBAの教科書に出てくるよう定番のフレームワークを頭に置きつつ、ビジネスシステム上、どの部分になるのか確認をしていきます。

例えば、前回の記事で取り上げた「見積の誤り検知」という問題を考えてみます。みなさんは、「見積」というと頭に何が浮かぶでしょうか?

営業で顧客に出す見積でしょうか。
それとも、サプライヤから調達する際に受け取る見積でしょうか。
あるいは、開発プロジェクトの概算費用の見積でしょうか。

シンプルな話として、何の見積かを明らかにすることがまずは重要です。話題のイデックスとして、ビジネスシステムやバリューチェーンのフレームを頭の中に抱えておくと役立ちます。

その上で、その見積作業が対象業務の流れの中でどこに位置するものか、詳細を知りたくなってきます。

ここでトップダウン的に洗い出すのがベターなのですが、そういった会話が難しい場合は、今話題にしている業務の前と後ろから確認する方法も有効です。例えば次のような観点です。

  • その見積はどのような情報をもとに実施されるのだろうか。

  • 見積後はどのような流れになるのだろうか。

こうした業務の紐解きというのはお互い手がかかるもので大変ですが、多くの気づきが得られます。それはデータサイエンティストだけでなく、クライアントに対しても何らかのシグナルを与え、重要課題への扉が開くこともしばしばあります。

「縦」で組織構造との関連を考える

組織は階層構造を持っています。ざっくりいうと経営層→管理職→スタッフというようなものです。「縦」というのは、この階層構造の中で話題の位置づけを確認するということです。

ここで、再び「人材の最適配置」の問題を考えてみましょう。
この話題で気になるのは、適正な配置とは何かということと、その意思決定は誰がやっているのかということです。

この詳細な議論に入る前に、そもそも「誰にとって適正なのか」ということを考えておくことは有用です。

例えば経営者にとっての「適正配置」とは何でしょうか? 組織パフォーマンスがあがることでしょうか。それとも人的資本経営に関連して、外部からの資金調達によいインパクトを与えることでしょうか。

一方、各部門の部門長にとってはどうか、あるいは、人事部門にとってはどうか…と考えていくことが可能です。あるいは、一般従業員にフォーカスして、「強みを活かしてやりがいをもって仕事をしてほしい」という話もあるかもしれません。

このように、問題として取り上げている話題が組織のどの層に向けたものであるか確認することも大切です。

また、どの層にフォーカスした話題であったとしても、別の層から見たときにどのようなメリット・デメリットがあるのか、考えておく必要があります。

つまり、この「縦」の話というのは、問題のターゲットを明確にすることに加えて、組織全体への関連性を見ることに繋がります。これがないと問題の真のインパクトを想定することができません。

そして、どのような層に対する施策であったとしても、最終的に経営課題に何かしらつながらなければ、そのプロジェクトは止まってしまいます。データ活用、DXという錦の御旗は実にもろいものなのです。
そのストーリーを確認するためにも、「縦」の視点というのは重要だと考えています。

ビジネスを深く知ると、「なぜ」が芽生える

今回取り上げた

「それは、ビジネス全体の中でどの部分に位置するだろうか」

という問いは、目の前の問題の位置づけを捉えるためのものでした。それは対象とする業務、クライアントを深く理解するための一歩となります。

また、前回の「なぜ」という問いと比べると、具体的であるため幾分考えやすい質問でもあります。

この問いを通して、問題や話題の前後・上下の広がりが見えてくると、間接的にではありますが、もともとの問題が小さいのなのか、本質的なものなのか見えてくることもあります。

このとき、改めて「なぜ、この問題を解くべきなのだろう」という疑問が出てくるというわけです。

これは回り道に見えるかもしれませんが、その回り道が相互理解を促し、気づきを得る機会を与えるものだと実感しています。


残り28個、頑張っていきましょう!


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