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ペアリングのつくりかた②

②ペアリングはソムリエの「成功体験」のシェア


前の章ではレストラン、特にファインダイニングにおける歴史と変遷、そして現代支持されているペアリングという手法についてザックリとご紹介しました。今回は「どのように」ペアリングを考えるべきか、というところに焦点を当てたお話となります。が、実際の手法というかテクニック面については④章から解説するとして、ここではまさに「どのように」の部分をしっかりと意識できるようにしてみたいと思います。

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レストランの変遷・飲と食の近代史 
②ペアリングはソムリエの「成功体験」のシェア ⇦イマココ
マリアージュとペアリングの相違
食材×調理×味つけ 狙いどころの考察
意識するべき総アルコール量
提供温度のコントロール
ペアリングで演出する季節感
核となるコンビネーションの決め方
⑨核を取り巻く流れの決め方
⑩これからのレストラン、これからのソムリエ


ペアリングにおけるロジックの重要性

まず大前提として、ペアリングの飲料はコースの料理を邪魔してはいけない。何を当然のことを、と思われるかもしれないがココは絶対に外してはいけないことなので敢えて強調させていただく。また、「相性が良い」という表現ではなく「邪魔をしない」と表現したことにももちろん意味がある。これはまた次章で詳しく述べたい。

基本的にはそれぞれの料理に合わせて提案していくわけだが(時々料理をまたいでひとつのワインを合わせる店があるが個人的にはあまり好きではない)、実際に納得のいく水準でペアリングが供されることは現状極めて稀であると言わざるを得ない。これは何故かというとソムリエが「なんとなく」「自分が好きなワインを」「ぼんやりと」合わせてしまうことが多いからに他ならない。そこに明確な「何故」のロジックやメッセージが無いとどうしてもこの状況に陥りやすい。

そもそも明確なロジックを持っていればシェフから料理の構成を聞いた際にハッキリとペアリングの完成形がイメージできるはずである。どのような要素を持った飲料が必要となるか瞬時に判断できるようになるからだ。実際、僕はペアリングのアイテムはコースのメニュー構成を渡されてから30分程度で決めてしまうことが多い。そのあとに実際に試食を通して微調整をする程度で決定するのが通常のルーティンである。

最近ではソムリエコンクールでも実際に料理を試食してそれにマッチするワインを瞬時に即興かつ口頭で提案するという課題があるようで、個人的にはそれがブラインドでワインを当てることよりも大きな点数配分であることを強く願っている。本来ソムリエの能力として必要とされるのは明らかに前者であるはずだからだ。ぶっちゃけブラインドなんていくら外しても構わないとさえ思う(あまりにも遠い外し方はさすがにマズいが)。

ロジックは一朝一夕では身につかない

そしてそのロジックとは経験によって蓄積されたものに他ならない。わかりやすく言うとソムリエ自身が日常の食事の際「よく合う」と感じたものを提案するようにし、「あまり合わない」とか「ハッキリと合わない」と感じたものを提案しないようにすれば良いのだ。時には合いそうにないものを試すチャレンジも必要となるだろうし、そこから意外な組み合わせが生まれることも少なくはない。ソムリエは自身の食事の時ほど感性のアンテナの感度を高めなくてはならないのである。

極端な話、現在僕が有するロジックはトライ&エラーの積み重ねの結果に過ぎない。さも感性の塊のようにペアリングを楽しむゲストの前では振舞っているが、その脳裏では夥しい数の失敗例を弔っているのである。ペアリングの成り損ないの死屍累々よ、おかげでうまくやり繰りするロジックを手に入れたよ。ありがとう、アーメン。

忘れられない原体験

僕自身の話をすると十数年前の話だが京都から滋賀の山奥に入ったところにある比良山荘での経験が忘れがたい。大勢で貸し切られた会に参加させていただいた折、半信半疑で合わせた組み合わせに驚き、その時の経験は現在の自身のペアリングロジックに大きな影響を与えている。

ちょうど今くらいの季節だったので名物である鮎の焼き物をメインに構成された料理だった。それぞれが思い思いの飲料を持ち寄り楽しむ会だったのだが暑い日だったこともありシャンパーニュをはじめとする泡モノや爽やかかつクリスピーなスタイルの白ワインが大多数であった。もちろんそれらは鮎の焼き物にもフィットしていたのだが一本だけ赤ワインを持ってこられた方がいたので試させていただく事にした。後で聞くとその方も「赤の人はいないんじゃないか」程度の気持ちで持ってきてくれたそうだ。

これがもう信じられないくらいにメチャクチャに合うのである。それまでにいただいていた泡や白が「まあ悪くない」程度の組み合わせだとしたらこの赤はまさに「ドンピシャ」だった。

泡や白は焼きあがってカリッとした皮や頭の食感にはうまく合うものの、ふっくらしっとりと火の入った身は川魚らしく青い香りで、潮を感じさせる白やシャンパーニュとはうまくいかなかった。極めつけは内臓の部位を食べてからこれらのワインを口に含むと生臭さがあがり全く合わない。

その点この時の赤、ボルドーはサンテミリオンのシャトー・カノン1970マグナムは素晴らしかった。熟成由来の滑らかな触感はカリッとしたエントリーの食感をうまく包み込み、青い身の香りをカベルネ・フラン由来のステム香がフォローする。課題であった内臓部に差し掛かった時が真骨頂で、熟成したメルロの土のような香りとしっとりとしたタンニンが抜群にマッチする。「出会いのもの」とされる鮎とビールの組み合わせすら凌駕しかねないコンビネーションだった。

もうおわかりいただけただろうか、表題にもある「ペアリングはソムリエの成功体験のシェア」という言葉の意味が。この時の体験以来、僕はコースに鮎が組み込まれるときには必ず少し熟成した、それでいてタンニンの残る赤ワインを合わせることにしている。まさに僕自身が得た成功体験をゲストの皆さんにシェアしてるわけだ。

後日談として最近では熟成した赤ワインと合わせるところから、「鮎は夏のジビエ」というコメントとともにサーヴするのが僕のスタイルとして定着していることも付け加えておこう。是非マネしてください(笑)。

自分だけのロジックを身につけるために

ロジックを身に着けていないソムリエがまずしなければならないことは毎日の食事の中での経験値を積むことである。成功があればそれ以上の数の失敗も生まれる。それらすべてを自分でキチンと分析し、その成功 / 失敗の原因を考察することでしか自身のロジックは完成しない。

自身の成功体験を増やすことで(もちろん数多の失敗体験も増えるだろうが)、ゲストからの信頼を少しずつ勝ち取っていく。やればやるほど身に着く。経験と筋肉は裏切らないのです。

ではまた次回。

※ある程度書き溜めてからアップするという賢いやり方ができなかったため、次回の更新日は未定です。これまでの経験から相当期間が空くことも想像できますしゴリゴリに筆がノってハイペースで更新される可能性もゼロではありません。また、気晴らし程度の記事やまだアップできてないインポーターさんとの協力記事も挟んでいく予定です。何が言いたいかというとあんまり過度に期待せずにハンター×ハンターの連載再開を待つくらいのノリでいてくれたら助かる、ということです。そこんとこよろしく。

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