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ペアリングのつくりかた⑧

⑧核となるコンビネーションの決め方


気がつけばもう8章、ペアリングのつくりかたもいよいよ佳境に入って参りました。今回はこれまでお話してきたロジックやテクニックを使い、実際にコースのペアリングを考案する際にとても重要な「核」となるコンビネーションをどう決めるのか、というお話です。極端な話、僕は「核のコンビネーション」と「核を取り巻く流れ」の二つの考え方だけでペアリングをつくっています。というわけで次の9章で触れる「核を取り巻く流れ」とあわせてお考えいただけるとありがたいです。

※いよいよ終盤に差し掛かってきました。毎回たくさんのスキやシェア、投げ銭に励まされています。ちょっとペースが落ちてきたのは単純に書き物の〆切順に書いていくとこれだけ期間が空いてしまっただけで決して途中で飽きてしまったわけではありません。あしからず。今回を含め残り3章プラス番外編(たぶん)1章、お付き合いください。この全10章は今後有料化することにしましたので(恐らく番外編を公開した翌日)、無料のうちにお知り合いには読んでいただけるようお勧めください。※


レストランの変遷・飲と食の近代史 
ペアリングはソムリエの「成功体験」のシェア 
マリアージュとペアリングの相違 
食材×調理×味つけ 狙いどころの考察 
意識するべき総アルコール量 
提供温度のコントロール 
ペアリングで演出する季節感 
⑧核となるコンビネーションの決め方 ⇦イマココ
⑨核を取り巻く流れの決め方
⑩これからのレストラン、これからのソムリエ


ペアリングの「核」とは「竜骨」である

そもそもペアリングにおける「核」とは何ぞや?という話なのだが、「流れ」を意識した第3章でもお話した通り、ペアリングはコースの料理全てに完璧にマッチさせることよりも全体の流れを考慮して料理とコースの流れを「邪魔しない」ことが重要なのである。その「流れ」の中で少なくともひとつ、アイコニックな「料理と飲料の組み合わせ」が存在するはずなのである。これを僕は「核」と呼んでいる。

「核」はコースにおいてその名のとおり中心であり、僕がよく使う例えで言うところの「船で言えば竜骨」である。船を建造する際に最初に設置されるのが船首と船尾を繋ぐ竜骨であり、そこから他の骨組みへと進めていく。船にとって最も重要なパートであることは広く知られるところだが、まさにコースにあわせるペアリングにおいても同様に「最も重要」かつ「最初に組まれる」組み合わせこそが「核」であり「竜骨」であると言えるだろう。

最初に「核」を決める理由

例えば僕がペアリングを考案する際に、コースのはじめに提供される料理から順番にあわせる飲料を決定することはほとんどない。最初に提供される料理(アミューズやスナックに相当するモノ)はレストランにとって自己紹介の意味合いが強く、スタイルやコンセプトをゲストにお知らせするために使われることが多い。そこに最初から「核」となるような組み合わせを持ってくる意味は乏しく、結果的に他の「核」となりえる料理のペアリングから考案して逆算的にその他の料理の組み合わせを決定することが多いのである。これはまた次章「核を取り巻く流れの決め方」でも詳しく述べたい。

必然的に「核」はコースの中盤以降に置かれることが多くなるのだが、一番わかり易いのはメインの肉料理、つまり最後の料理を「核」に設定して遡ってペアリングを考案するやり方だろう。推理小説で言うなら「犯人の動機」や「犯行のトリック」という物語の核を決めておいてから序文を書き出すといった技法である。結末ありき。物語がクライマックスに向かって盛り上がりを見せるように右肩上がりのグラフのようなペアリングを構成するのである。

コースの最後に「核」(この場合はピークという言い方もできる)を持ってくる場合、じわじわと盛り上げて最後にベストのコンビネーションを当てられるため、ペアリング考案の初心者にはオススメのやり方と言える。逆に中盤に「核」を持ってきた場合、ピークが中盤に訪れるため山型のグラフのような構成のペアリングとなる。下手をすると尻すぼみのような印象をゲストに与えてしまうためリスキーなやり方と言えるだろう。しかし上手くハマった場合により高い満足度を得られるのもこちらの手法である。

このように食事のどのタイミングに「核」「ピーク」を持ってくるかを最初に決めておくことでそのコースに対するペアリングの全体像をグラフのように頭の中で描くことが可能となるのである。コース自体にもこのグラフを当てはめることでどこで盛り上げるのが面白いのかを意識しながらペアリング考案に取り掛かれることもメリットと言えるだろう。

「核」とその前後のペアリングの関係性

「流れ」を意識するという第3章でも触れたが、コースの中のひとつひとつの料理にあわせる飲料との組み合わせはもちろん重要。だが時としてそれ以上に重要なのが前後の流れ・前後の組み合わせである。そのよろしくない例えとして(これは本当にあった話だが)少量多皿な構成の近代的ダイニング(さすがに店名は控えたい)での食事の際の話をしよう。

クラシックなフォワグラのソテー・ソースペリグーの温前菜に対して少し熟成したメドック格付けの赤をあわせたその後、手長海老のカクテル・ソースヴィネグレットの冷前菜に対して南アフリカの上質なシュナン・ブランを提供された。もちろんどちらも少量ずつで料理とワインの組み合わせ(横軸)としては素晴らしかったものの、コースやペアリングの流れ(縦軸)としてはいささか乱暴だったと言わざるを得ない。実際にそのタイミングで狂ってしまったリズムは最後まで取り返されることはなく、料理もワインも悪くなかったのに残念な食後感で店を後にすることとなった。

次章「核を取り巻く流れの決め方」でも触れるが(というより次章はこの話がメインになるが)、コースの構成は提供する料理の順番というものが非常に重要な意味合いを持つことになる。冷たい料理と温かい料理、柔らかい食感と硬い食感、味の強い料理と味の優しい料理、シンプルな料理と複雑な料理などなど。それらのピースをコースのどこに配置して流れを生み出すのか、それはシェフの仕事。その流れに淀みがないかをチェックし、必要であれば意見を伝え、より良いものにする。そしてその流れを尊重したうえでコースがより輝けるようなペアリングを構成するのがソムリエの仕事である。

構成や流れの淀み、もっと踏み込むと一つの皿で足りない要素(食材・食感・香りetc)がもし存在するのならばそれを提案(指摘ではない←これ超重要)し、より精度を高めていくことこそがレストランというチームで仕事する、そしてソムリエとして働くことの醍醐味だと僕は考える。自分一人でレストランの質は向上できない。だがまず自分が向上しなければ他のメンバーやチームとしての向上もない。結局はひとりひとりが「向上」と「チーム」の両方を意識しなければいけないということだ。

ペアリングにおける「核」は前述のとおりその時点でそのレストランが最も自信を持って提供している組み合わせである。「組み合わせ」である以上、キッチンとサービスどちらの力が欠けてもうまくはいかない。「核」とはすなわちそのレストランの「現在地」である。

ではまた次回。

P.S.
たまにワンオペで信じられない精度のペアリングを繰り出すシェフがいるが彼らは例外だからここでは論じないこととする。奴らはバケモノだ。
They sometimes look crazy but I really respect them.

※なんと前章から約一ヵ月も間が空いてしまいました。このnoteを書き出して以来、ワイン関連の書き物の依頼が増え(本当にありがたく思っております)、〆切順に逆算していくとどうしてもこのnoteが後回しになってしまいました。決して飽きてきたわけではございません。なんなら10章完結予定だったところを番外編として少なくとも1章書き出してしまう有様です。こちらも楽しみにお待ちください。今回も気に入っていただけた方はいいね!やスキ、フォローにシェアに投げ銭をよろしくお願いします。※

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