二番風呂の権利 - 日記
「ゆびえするのは嫌だよ。」
小説から顔を上げると、部屋の引き戸の口に榊原が立っていた。
無精髭を生やし、肩までかかる長い髪は波のようにうねっていくらか逆立って皮脂の汚れで光っている。眼鏡は指紋で曇ったまま拭かれていない。上下の揃わないスウェットの上から厚手の半纏を羽織っている。上半身と対照的にスウェットを捲って生の脛を出していた。靴下も履かず、毛やら伸びた爪やらを見せている。寒いなら靴下を履けばいいのに、とわたしは思った。いつもの小汚さだった。
榊原は片手に急須を持っていた