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#3 言いたいことを言ってるだけの世の中じゃ/『すべてがPRになる』

 こんにちは。前回の更新からすっかり時間が空いてしまいました。予告していた「レピュテーション」はあまりに深く、考え始めると筆がなかなか進みませんでした。そんなわけで、テーマを変更してお送りします。今回は「ニュースのつくりかた」です。

君の言っていることはすべて正しいけど、面白くない

 これは、博報堂が発行する雑誌『広告|恋する芸術と科学』2013年5月号のキャッチコピー。書店で目にした当時、僕は新入社員として仕事でのコミュニケーションに悩んでいた頃で、まさに自分のことを言い当てられているようでドキリとしたものです。上司やクライアントに言葉を尽くして説明しても、伝わらない日々。そんなときに、このコピーに出会って気づきました。正しいことを主張しても必ずしも伝わるわけではないと。そこで日常のコミュニケーションにもPRで身につけたニュースのつくりかたを応用し始めてから状況が好転し始めました。

トレンドをつかむ爆笑問題の漫才

 ニュースをつくるスキルの一つに「トレンドをつかむ」ことが挙げられます。トレンドとは、ファッションなどに限らず広い意味での「なぜいま?」に応える文脈のことです。コミュニケーションにおいては「なぜいま?」が無意識に要請されます。この要請に応えるだけで、あなたの発する言葉はニュースになる可能性があります。
 トレンドを掴むスキルに長けているのがお笑い芸人、特に爆笑問題のお二人だと思います。彼らは政治・芸能・スポーツと多岐にわたる時事ネタを軽やかに笑いに変換していきます。漫才というフォーマットに時事ネタでフロー性の価値を付与して、観衆を飽きさせません。またフジテレビ系列『ワイドナショー』での松本人志さんの発言も度々ニュースになりますが、同番組は極めて“PR的”だと感心してみています。マクロの意味では時事ネタ、ミクロの意味では“天丼”(同じギャグやボケを二度、三度と繰り返して笑いをとる手法)と、一流のお笑い芸人さんは巧みにトレンドをつかんで笑い(≒ニュース)をつくっているといえます。

ライザップのCMに見る、内の対立軸のつくり方

 トレンドを掴むことに加え、もう一つのスキルは「対立軸をつくる」ことです。この対立軸には「内と外」がありますが、日常で応用しやすいのは「内の対立軸」つまり自分のBefore/Afterを示すことです。ここで思い出すのがプライベートジム「ライザップ」のCM。重低音の中で弛んだ体の人物が浮かない顔をして現れ、数秒後には高音のBGMと共に鍛えられた先の人物が明るい表情でポーズを決める。短い時間の中でサービスのベネフィットを端的に表現した素晴らしいCMです。食品によくある「当社比○○%増量」というのも、わかりやすい例。人は絶対値より相対値の方が理解しやすいんですね。周囲を説得する際も、今までの自分からどれだけの変化が見込めるのか具体的に示すことでコミュニケーション効率がグッと上がります。

外の対立軸をつくる天才・トランプ大統領

 自分自身のBefore/Afterを示す「内の対立軸」に加え、他者との軋轢を厭わず「外の対立軸」をつくるスキルもあります。これはテレビをはじめとしたマスメディアが頻繁に使う構造で、広報の実務においても自ら競合との対立軸を明示することで企画化を図ることがあります。多くのビジネス系メディアでも「打倒○○」という見出しが踊っています。最近では携帯大手キャリア3社が新SNSサービスを開始するニュースが「打倒LINE」の位置付けで報道されていきました。
 このスキルに長けた著名人といえばトランプ米大統領でしょう。論点を聴衆にわかりやすくするため(もしくは誘導するため)さかんに他国を敵に据えた主張を繰り返します。多くの人にとって、自分の存在は関係の中でしか規定できないとも言えます。この他者との対立の中でアイデンティティを明確にする手法は、戦時中のプロパガンダでも用いられてきました。波紋を呼ぶものの、伝家の宝刀として持っておきたいスキルです。

言いたいことが伝わらない時代に

 かつて僕が悩んでいた新入社員時代の頃よりも、さらに伝わりづらい時代になってきました。情報洪水を極める中で、日常でも上述した①トレンドをつかむ②対立軸(内/外)をつくるといった二点を意識するだけで発することにニュースバリューが付与され、コミュニケーション効率を高めることができます。PRは汎用的なスキル(もしくは態度)であると少しでも実感いただけたらうれしいです。次回は「レピュテーション」もしくは「ブランド」をテーマにする予定です。それでは、また!



 

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