見出し画像

BioJapan 2023 見たこと、感じたこと

10月11−13日の3日間、ライフサイエンス業界では日本最大のBioJapanがパシフィコ横浜で行われた。おそらく2009年頃から断続的に参加しているので、毎回この業界の変化を感じる場所ではあるが、今年感じたこと等々について書き留めておく。

京大ブースは大盛況!

京大の基本方針を全面に出して、産学連携をアピール!

筆者は昨年4年ぶりに京大に復帰したものの、一人チームで細々と水面下での活動を行ってきた。今年は京大が一丸となってブース展示を行うということで、調整役として活動全般の取りまとめを担当した。

研究すごいですよー、とか、病院も頑張ってますよー、とPRはするものの、当然「え?京大って独立心旺盛なのがウリでしょ、まとめるの?そもそもまとまるの?」と言う声も多く、ある意味驚きと共に受け止められた。ブースの設計はできるだけ多くの人にポスターを見て交流してもらえるように外壁は設けず、敢えて人が通り抜けることのできる構造とした。これが奏功し、同じエリアの他大学に比べると明らかに来場者数は稼げた。一方で当然企業や大規模コンソーシアムの様な予算をかけた演出はできなかったので、上の写真のようなアイキャッチ程度となった。

概況

肝心のBioJapanだが、印象としては、

  1. 過去最大の盛り上がり? 2022年はコロナ前に戻った感じだったが、2023年は関係なく各社、各大学人数をかけて交流を活性化させている印象が強まった。

  2. 資金調達は右肩上がり 資金調達環境が明らかに活性化している。支援しているスタートアップが次々と9億円調達、13億円調達、20億円調達に至っている。だいたい目立つスタートアップの半分以上は運営したプログラムの参加者というのも嬉しいが、逆に言うと全然知らないスタートアップももっとでてこないといけない。まだまだ期待値の5分の1程度。

  3. もっとデジタル系を! 意外にデジタル・情報関係の展示は少なかった。病院関係は直前に東京で開催されたメディカルジャパンがメインだし、AIやデータサイエンス系の業界からライフサイエンス業界が於いていかれている証拠とも言えるかもしれない。

という感じだ。ブースに立ち寄る人たちも、冷やかしのほうが多いか?と思ったら、具体的な相談もしくは、「こう言ったことをやりたいのだが、どうやれば情報が得られるか?」と言う感じの具体的なリクエストが多かった。



人材の層を暑くするためにも、コミュニティ・エコシステム拡充は急務

次のステップには人材の拡充が必要

スタートアップも大企業も元気なのだが、明らかなのは双方ともに人材不足だ。大企業側もスタートアップと直接組むには特にファイナンスの面で工夫が必要となるが、BioJapanに来るのはR&Dの「技術探索」部隊。ちなみに筆者がグローバル企業とある程度話を進めていったあとには、Transaction担当や、R&D担当との議論でもファイナンスの上での提携のメリットまで議論する。日本企業では会社が用意した「技術導入プログラム」にちょうど合う物を探す傾向があり、事業をゴリゴリ作り込む人材のこの分野への参画を期待する。一方でスタートアップ側にも、技術的なメリットを伝えることは徐々にできつつあるが、相手となる大企業や投資家の言外の目的(あるいは、担当者すら気づいていない経営陣の課題)まで知っておきたい。これは出来たてホヤホヤのScientistのチームがわかっている必要はないが、せめてVCやアドバイザーレベルでは持っておきたい情報or提携戦略の上で必要となる。このあたりの人材の層+議論の質を上げるスキルを持つ教育が必要だ。
さらに、資金調達できたスタートアップの課題は「使える人材」。事業計画はできたものの、その次に実行するチーム体制を整えるのが難しい。特に安全性や規制対応については人材エージェントも知識が乏しく、どちらかというと口コミで動いている業界なので、ここでもネットワーク、エコシステムの充実が望まれる。

デジタルからこんなに距離があって良いのか?

開催時期の問題があるとはいえ、ライフサイエンスとデジタル/データサイエンスが、距離が大きいことを象徴するような状況だったように感じる。実は6月のBIO2023@Bostonでも同様にデジタル関係の話題が冷え込んでおり、現地の参加者とも悩ましい現実を共有したところだった。実際には様々な局面でデータ連携、画像解析などの技術が取り入れられているものの、未だに統計処理されたバルクデータでの議論が多く、ビジネス/研究双方にわたって思考の飛躍、もしくは飛躍の準備ができているようには感じられない。次回からは、過去の事例と既存インフラの話だけではなく、社会全体を考えたときのライフサイエンスビジネスの立ち位置についてのセッションをやっても面白いかもしれない。他の分野のDXの専門家を連れてきても業態が違うと課題も違うので、全く違うアプローチが必要と強く感じた。

日本の産業界が次のステージを模索する必要がある!

1980年代以来、バイオ/ヘルスケアへの新規参入は定期的にブームがあったので、多くの企業がそれなりにどうやってこの分野の事業を進めるのか?というのは、技術的なところではある程度の理解はある。化学メーカーや装置メーカーは既に一定のプレゼンスをバイオ業界でも持っており、実は世界的に使われている素材や機器を持っているところもある。しかし現場で聞こえてくるのは「親会社は売上しか見ない」「長い開発期間を我慢してくれない」などの悩みだ。これに対しては「カーブアウトやJVなど、新規事業としてユニット化し、財務活動の範囲で試してみてはどうか?と言う提案を数名と議論した。そもそもこの手の議論に慣れている方々ではなかったが、少なくとも危機感は共有できたと感じている。とにかく、同じ座組、同じメンツのママでは成長しない。

グローバル視点での日本の立ち位置

ある意味未曾有の円安の中、数多くの海外企業、団体がこぞって来日した。彼らは安くなった日本の技術を買い漁りに来ているのだろうか?答えはNoだ。日本発の技術をうまく事業化した経験を持つ投資家や企業はこの手のイベント外で動いているので会場内では目立たない。目立ったのは日本市場への参入を希望する企業だった。彼らとしては市場として日本を見ている、というけれども、日本の規制や市場の特徴についてはソコソコしか知らない。一応日本の代理店と契約しているところもあるが、とりあえず任せているだけで日本市場に重点を置いているとは思えない。おそらく、①参入コストが安く、取っ掛かりが良い、②円安なので、ついでに1週間位仕事を絡めて観光ができる、と言う動機も大きいのだろうと推察する。
筆者は京都ベースなので、彼らも京都での用務は積極的に作りたいという感じを受けた。第1段階としては諸手を挙げて喜べないが、こうやって作った機会をどうやってWin-winな提携まで育てていけるか?一旦、周回遅れとなっている日本としてはかなり真剣に考え、対応策を寝るべきだ。簡単に言うと、来年はBioJapanの翌週に関西でイベントを開催すべきだ。


得意なことを輸出、無いものは輸入すれば良い(もちろん経済安全保障の対策はしつつ)

アカデミア側もリアルな特徴付けを!

今回、筑波大学から京都大学へ異動して2回目の参加となったが、官民ファンドを持つ東大、京大、阪大、東北大、次に有名私立大宅(特に慶應)、ある程度の規模感を持つ総合大学(旧帝大、金沢、筑波)、そしてそれ以外の地方大学がある。これとは別で単科大学として東京医科歯科大学を中心とするMed-U Netなどが存在している。これらの中で、一見いずれもうまく行っているように見えるが、実際には殆どの大学でスタートアップやJVを実施する時の体制は脆弱であり、すべての機能は属人的な努力にかかっている。また、京都は大学も多いので学術的な研究成果は多くあるが、実用化に向けてのインフラは貧弱であり、場所もない。逆に神戸や川崎市などは埋立地を活用したいが、学術的なパワーは限定される。
こう言った組織、地域ごとの課題を考えると、現在政府が提供している「自治体、大学」を主体として手挙げをさせて補助金をわたし、最終的には「自律化」を求めるという絵は全く実像とは乖離している。各機関、大学は人材の取り合いをしているが、そもそも日本国中でそれを満たす人材プールはないし、お付き合いできる大企業は首都圏と関西に集中している。選択と集中の悪い側面だと言われるかもしれないが、地域や大学を繋いだ仕組みづくりを真剣に考える必要がある。COVID-19ワクチンも

  1. 基礎技術はフィラデルフィア

  2. 事業化の検討はマサチューセッツ州・ケンブリッジエリア/ドイツ・マインツ

  3. 商業化はマサチューセッツ州・ケンブリッジ

  4. 工業生産はマサチューセッツ州/ベルギー

となっている。「一気通貫」「シームレス」という一見わかりやすい概念から脱却し、貿易国ならではの商業的な能力を発揮するところではないか?そのためにも、自分たちができるとこ、できないことを分け、「やらなくて良いこと」をはっきりさせるべきだ。日本中に同じ設備をあまねく設置して、無駄に終わらせたCPF(再生医療用の細胞調製設備)の二の足を踏んではならない。

最後に

パンデミック期間中の「展示会はもうデジタルでいいよね」という雰囲気から一変、リアルでの活動を余すことなく活用できたイベントだった。ただ、これに合わせて何らかの重大な発表や、Real Dealに繋がる重要なマイルストーンとはなっていない。これはBioJapanに限ったことではないが、この国にはライフサイエンス事業をどう育て、日本の未来の医療やバイオ業界全体のビジョンを考えるようなBig Pictureがない。先週、創薬ベンチャーエコシステム強化事業の#2で書いたように、いくつかの未来を提示し、それに向けての産業育成という考え方はかなり重要なように思う(本来白書がそういう文書だと思うが、それが機能していないと言えるかもしれない。
そんな未来を考えてみたい方、ご連絡ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?