加藤み子

クィアロマンス、BL、家族間の葛藤などをテーマにした小説を書きます。エッセイや絵や短歌…

加藤み子

クィアロマンス、BL、家族間の葛藤などをテーマにした小説を書きます。エッセイや絵や短歌も好き。小説家になりたい。 HPはこちら : https://www.kato-miko.com/(ここに掲載していない作品などもまとめています)

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「奈落の底」

あらすじ  平成最後の夏。古い風習の残る田舎町で有名酒造店の長男として生まれた朔太郎は、店の後継ぎとして生きる負担から逃げるように東京の大学へ通っていた。ある日、両親から縁談の提案があり帰省すると、次男の操が出迎えてくれる。昔から唯一の心のよりどころだった操を頼り、決められた人生しか歩むことのできない家系を嘆くと、見かねた操から心中を提案され、操以外のものはどうでもいいと思っている朔太郎は承諾するが、心中は失敗し、操だけが死んでしまう。弟の死を受け入れられない日々を送ってい

    • 安寧の死に向かう波

       今の居住地を選択する際、静かさや交通の便、買い物先やジムなどの近さに加えて、図書館やホールがアクセスしやすい場所にあると嬉しいという条件を控えめに挙げていた。結果的にそれは叶ったので、この休日も最寄りの図書館で本を読んだあとに、すぐ隣のホールへ向かって演奏会を堪能した。自分も昔吹いていたから、オーケストラを聞くとどうしても耳がファゴットの音を拾ってしまう。大好きなチャイコフスキーはもちろんのこと、生ではおそらく初めて聞いたマルケスも非常によかった。隣に座っていたご婦人の拍手

      • 死ぬ八重歯

         自分の八重歯が結構好きだったけれど、歯科矯正を続けていたらいつの間にか隣と同じ背の高さをして並ぶようになった。去年もこんな形でしたよみたいな顔をして大人しく立っている。鏡に向かっていーっとしてみるとこれはこれでかわいい。変わりゆくものが変わり終えた後、そこにできた新しい風景を見て「ここって前は何があったっけ」と思うのはいつも自分自身だ。  自分のことを考える時間が増えた。文学フリマが終わり、自分の創作物にもよく向き合うようになった。原稿を抱えているとそれの締切りを第一に据

        • 孤独の泡と青い炎

           かつて好きだった女性に演奏会にぜひ来てと言われて二つ返事で席を取り置いてもらう私、ちょろさが頭上を突き抜けて銀河まで届いてしまいそう。なぜなのか昔好きだった男性のことは全くなんとも思わないが、昔好きだった女性のことは今思い出してもすてきだったと思うし今会ってもなんて魅力的なんだと思う。この違いは何か? 単に恋人という関係に一度なったかどうかの差だろうか。  ずっと大好きなサシャ・スローンが初来日公演をするとInstagramで見て、やったーと思いながら会場のキャパを調べた

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        「奈落の底」

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          「夏死」

           ピッチカートを弾く指先は命綱を断ち切る無情の刃のように、びん、と空気を振動させ、短く響いては少しの余韻だけを残して消えた。湊は顎を浮かせ、肩からバイオリンを離し、窓枠の形に切り取られた青空を見上げた。恐ろしいほど済んだ空は嘘のように蒼く、うっすらと残る飛行機雲だけがそこを横切っていた。  地獄のような暑さをどうにかするために、気休めのように隙間を開けた窓から風が入り込み、それらは前髪を揺らし、その場に未練など露ほどもない態度で去って行った。風はいつだって傍に留まっていてくれ

          悲しみが怒りに勝る瞬間

          ※ 同性愛者に対する差別発言の引用を含みます。  わかってはいる、頭でわかってはいるけれど、自分の置かれた環境内で攻撃的な疎外感を抱くと悲しい。久しぶりに些細で強烈な差別と強烈で些細なアンコンシャスバイアスに直面して帰宅してから落ち込んだ。  今年働き始めた年下の後輩と一緒に仕事をする時間があって、無駄話も含めていろいろな話をしたのだけど、たまたま映画やドラマの話になったときに彼が「最近母がBLを見てるんですけどやめてほしいんですよね」と言った。嫌な予感を抱きながら理由を

          悲しみが怒りに勝る瞬間

          矛盾のない人生

           ゆっくり生きたい。静かに生きたい。毎日おいしいものを食べて、本を読んで、淡いライトの下で自分と向き合って感情を一枚ずつ包むようなそんな日々を過ごしたい。  そうするためには社会に対して怒らねばならず、絶望もセットで無気力に支配されそうになる。  誰かとわかちあいたい。そう思うけれど、自分が自分の親友になってあげたい。そうも思う。他人とめまぐるしく会話したあとの脳内はうるさすぎる。  夜が好きなのは暗いから。誰もが無防備になっている気配がするひんやり静かなあの時間帯が暗いから

          矛盾のない人生

          私は潔白か?

           友達がよく見ると話していたある人のvlogを見てみたら「みんな他人のことは考えずに自分のことだけに集中したらいいのに。世界平和を祈る」みたいなことを言っていて、誰もが自分のことしか考えずにいたら世界平和なんてとうてい叶いませんよと画面の前で静かに思う。  あなたが今学生をやっていられるのは女性らの勉学の機会を獲得するために戦った先人たちがいたからで、あなたが今その水で何気なく食器を洗えるのは今のところ行政が上下水道を管轄しているからで、あなたが今ガザの人々が飢餓で苦しんでい

          私は潔白か?

          哀れなるわたしたち

           人数が三桁いる職場の同期のグループチャットを私が久しぶりに動かした。  私は別に全同期を代表してなにかの連絡をするような、先頭に立って飲み会の呼びかけをするような人物では全然ないけれど、今JVCがガザへの緊急物品支援企画をブックオフと連携してやっているから、どうせ賛同するなら一緒にやってくれる人を一人でも多く募ってやろうと思い、声をかけた。 【ガザ緊急物品支援】古本・不要品を送っていただけませんか?  結果、私を含めて5人集まった。  荷物はもう出荷し終えてあり、先日領

          哀れなるわたしたち

          それもまた人生

           眼科へ行き歯医者へ行き、体の故障を修理しながら命をやっているなあと思う。舌禍免疫療法での花粉症の治療は毎朝やわい錠剤を飲むだけ、低容量ピルを寝る前に飲む習慣はすっかりベテランで飲み忘れることはもうない。  体。  これはただの容れ物だろうか? それとも私自身なのだろうか。ヤドカリのヤドの部分がこれに当たるのか、それともこれも含めた一体が私なのか。  どちらかの見方を選べと言われたら私は感覚的に前者を取る。でもこれは私の所有物のはずなのに、私はこれの詳細を知らないし、これは

          それもまた人生

          今日も鍋

           お風呂が湧くまでの時間に洗面所にしゃがんで本を読む。二階から夫のくしゃみが聞こえてくる。目の前にあるドラム式洗濯機に、家用眼鏡をかけた私の姿が少し歪曲して写っている。  この共同生活を始めて四、五年が経った(記念日などにこだわらないタイプなので正確な数字がわからない)。  夫とは一度も喧嘩をしたことがない。そう話すと驚かれることが多いが、たまたま二人とも怒号を飛ばすような言い合いが嫌で面倒なだけで、二人とも物事への執着が薄くて譲るのが苦でないだけで、低空飛行で冷静に話し合

          祖母の安否がわからない

           夢を見る。一時期、いくら寝ても全く夢を見ない(または見たけど忘れている)状態がしばらく続いていたが、最近は起床時の気分に響くほどしっかりと夢を見る。  実家や通っていた小学校にいることが多い。登場人物が今の職場の人などでも、なぜか場所はいつも故郷の建物だ。  最もよく出てくるのは弟、母、旧友。たまに今の知り合い。ごく稀に好きな作家や推し。  こんなに強烈な感情を抱いているのに父は全然出てこない。あまりにも痛めつけられたからか。あるいは封印?  私が父の暴力に耐えられず実

          祖母の安否がわからない

          カヌレ

           カヌレのことを、なに? と思っている。お菓子、いや食べ物の中で今のところ唯一、なに? と思っている。  関東の平凡な田舎出身の私の、小学生の頃の泥くさい環境にはカヌレなんて洒落た言葉は存在していなかったし、県外の高校に通っていた時代はカヌレを好んで買うような友人も別にいなかった。大学生になって学部の友人と遊んだ帰り、なにかのビルの二階あたりに入っていた上品な洋菓子屋の陳列でそれを見て、友人がかわいいとかおいしそうとか声を上げている隣でなに? と思った。それ以来、ずっとなに?

          「かわいいと言われたかったのだっけ」

           ショートヘアにした。  胸くらいまであったロングヘアをばっさり切って、耳のラインで若干マッシュっぽいシルエットになるように、短くセットしてパーマもかけてもらった。美容師さんはもう何年もお世話になっている方で、私の好みも髪質も性格もよくご存知なので、何も言わなくてもフェミニンになりすぎずボーイッシュにもなりすぎない中間みたいなところを綺麗に狙い撃ちしてくれた。二年ぶりのベリーショートだ。  昨年あたりから、容姿についてとやかく言われるのが徹底的に嫌になっていて、それは褒め言

          「かわいいと言われたかったのだっけ」