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輪廻の風 第3章

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2022年4月の記事一覧

輪廻の風 3-17

「なんだこりゃ!?」
「奴等が来やがったな…!」
「魔族共!来るなら来い!!」

王宮周辺を警備していた兵隊達は、突如黒く染まった地面に困惑していた。

しかし、王都に残った戦士達は、命懸けで国を護ると心に固く誓った屈強な者達。

そのため、一瞬焦りはしたが、すぐさま臨戦態勢へと入った。

「ギャハハハハッ!!」

地面の黒渦の中から、魔族の軍勢が下品な高笑いをしながら、続々と王都へと侵攻してきた

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輪廻の風 3-16

魔族達の襲撃から10日が経過した。

破壊された王都の復興作業は未だ開始されておらず、王都在住の民衆達は地方へと集団避難をしていた。

軍隊や兵団を除隊して避難する者達も後を絶たなかった。

王都に残った数少ない志高き戦士達は、各々次の襲撃に備え、連日の様に血の滲む鍛錬をしていた。

「1071…1072…1073…!」
この10日間、ノヴァは1人で山に篭ってはひたすら厳しい鍛錬を重ねていた。

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輪廻の風 3-15

王宮の周辺に、怪我人の治療用に100を超える仮設テントが設けられていた。

治療を終えたサイゾーは、そのうちの一つのテントの下に敷かれた布団に包まり、療養していた。

左半身に重傷を負ったものの、幸いにも命に別状は無く、後遺症も残らずに済みそうだった。

サイゾーは目を半開きにさせながら、ボケーっとした顔で天井を眺めていた。

するとサイゾーのもとに、何食わぬ顔をしたクマシスが現れた。

「チョリ

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輪廻の風 3-14

魔族が去って数分後、王都ディルゼンに悲しみの雨が降り注いだ。

まるで、犠牲となった人々の血や、悲しみに暮れる遺族達の涙をそっと洗い流そうとする様な、懸命な雨だった。

病院には次々と重症者が運び込まれていったが、病床は足りず現場は逼迫していた。

崩壊した城下町や王宮周辺の瓦礫の山の横に、次々と医療用のテントが設けられたが、それでも足りないくらいだった。

奇跡的に一命を取り留めた者もいたが、殆

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輪廻の風 3-13

この男を知っている。

ルキフェル閣下を目で捉えた瞬間、エンディはそう確信した。

なぜ知っているのかは分からない。
いつ、どこでこの男と会った事があるのかも思い出せない。

それは、気が遠くなるほどの遥か遠い昔の記憶が揺り動かされる様な、不思議な感覚だった。

「お前は…夢に出てきた男だな…?」
エンディは鳥肌が止まらなかった。

2年前、ラーミアと邂逅を果たしたあの日に見た不思議な夢を鮮明に思

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輪廻の風 3-12

ジェイドと交戦中のノヴァとエラルドは、苦戦を強いられていた。

全身を鋼鉄に硬化したエラルドと黒豹化したノヴァを同時に相手にしても、ジェイドはピンピンしていた。

ラベスタは早々に地に伏しており、ノヴァはチラチラとラベスタの安否を確認しながら戦っていた。

「アヒャヒャヒャヒャ!血祭りだぜワッショイ!話にならねえなあてめえら!!」

ジェイドは、冥花軍(ノワールアルメ)の正装である漆黒のローブが多

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輪廻の風 3-11

モスキーノは、2体の魔族の亡骸を、まるでゴミのようにポイっと地面に投げ捨てた。

殺害された2体の魔族は冥花軍(ノワールアルメ)の精鋭メンバーだった。

初めに殺された魔族の名はピエール・ウノピュウ。
マッシュルームを彷彿とさせるような髪型をした男だった。
首に刻まれた花の名は"カンガルーポー"。
花言葉は"不思議"。

ウノピュウ曰く、「不思議とは、それ即ち予想外!」らしい。

モスキーノはウノ

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輪廻の風 3-10

城下町から少し離れた場所に、閑静な住宅街がある。

この場所はギリギリではあるが、幸いにも激戦地帯にはなっていなかった。

それでも住民達は、慌ただしく我先にと、それぞれの住居を後にし、遠くへ遠くへと避難していた。
そして、金目の物は抜かりなく持ち運んでいた。

そんな住宅街の一角に、カインとアマレット、そして産まれたての愛娘ルミノアの住む家がひっそりと佇んでいた。

レンガを基調としたごく普通の

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輪廻の風 3-9

10体の魔族が王都ディルゼンに侵攻してから1分も経過しないうちに、死者は2000人を超えた。

死者は戦士のみならず、多数の一般市民も犠牲となった。

建国から500余年、バレラルク王国の歴史上類を見ない惨劇が起きてしまった。

「うわあぁぁっ…!バ、バケモンだぁ!」
「に、逃げろぉ…!!」

戦士たちの過半数は怖気付き、武器を捨てて命からがら逃げ出していた。

ごく少数の立ち向かおうとする者も、

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輪廻の風 3-8

「エンジェルトランペット?花言葉??」
エンディは警戒心と疑問を抱いていた。

「まさか…その首に刻まれた花の、"花言葉に因んだ能力"を使えるって意味かな?」
アベルが冷静に考察すると、セスタヌート伯爵は「御名答!」と声高らかに言った。

「花言葉は"夢の中"だと…?まさか、幻覚でも見せるつもりか?」
エンディは半信半疑ながらも、嫌な予感がした。

「エグザクトゥマン(その通り)!エンディ!これよ

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