輪廻の風 3-11


モスキーノは、2体の魔族の亡骸を、まるでゴミのようにポイっと地面に投げ捨てた。

殺害された2体の魔族は冥花軍(ノワールアルメ)の精鋭メンバーだった。

初めに殺された魔族の名はピエール・ウノピュウ。
マッシュルームを彷彿とさせるような髪型をした男だった。
首に刻まれた花の名は"カンガルーポー"。
花言葉は"不思議"。

ウノピュウ曰く、「不思議とは、それ即ち予想外!」らしい。

モスキーノはウノピュウと対峙した際、すぐさまウノピュウの人体を凍結させようと試みた。
しかし、ウノピュウの人体は凍結せず、モスキーノの放った冷気は無効化されてしまった。

「あれ〜?何でだろう〜??」
モスキーノはその際、呑気な口調でそう言った。

「お前が今何を考えているか当ててやろう…自慢の能力が俺に効かなくて、"予想外"だと!そう思っているんだろう?」

ウノピュウがそう言い放つと、突如モスキーノの右肩と脇腹に斬り傷が生じた。

傷は浅く、致命傷には至らなかったとはいえ、モスキーノは不思議に思っていた。

ウノピュウはただ立っているだけで何もしていなかったし、遠方から何者かに攻撃を仕掛けられたような形跡もないのに、突然自身の体に斬り傷が発生したからだ。

「なぜ突然傷を負ったか不思議に思っているか?そう、これも…予想外!予言する…これからお前の身には、立ち所に予想外な出来事が起こり続けるだろう!そしてお前は、最期に"予想外な死"を迎えるだろう!」

これが、ウノピュウが生前最後に放った一言だった。

モスキーノはウノピュウの頭上に氷の刃を創り出した。
その刃はウノピュウの頭蓋を砕き割り、モスキーノは華麗なる勝利を収めた。

その直後にモスキーノの前に立ちはだかったのが、ピスキウム大司教だった。

まるで知の優れた位の高い僧のような風貌の男だった。

首に刻まれた花の名は"スノードロップ"。
花言葉は"貴方の死を望みます"。

その能力は、念じた相手を確実に死に至らしめるという恐るべきものだった。

ピスキウム大司教を討ち取ろうと試みた兵士たちが、続々と原因不明の突然死に見舞われる光景を見たモスキーノは、「ねえねえ、それ何の能力?」と興味深そうに尋ねた。

するとピスキウム大司教は、待ってましたと言わんばかりに、ペラペラと自身の能力についてモスキーノに喋り始めた。

それだけには留まらず、自身の能力がいかに素晴らしいか、自身が魔族としてどれほどの功績をあげてきたか等、長々と自慢話を始めてしまったのだ。

それこそが、自身の能力を絶対無敵と驕り高ぶったピスキウム大司教の敗因であり、過信ゆえの愚行となってしまった。

能力の詳細を聞いたモスキーノは"なら念じられる前に殺しちゃえばいい。"と咄嗟の判断を下し、同じく氷の刃を創り出し、ピスキウム大司教の喉を斬り裂いたのだ。

そして2体の亡骸を戦利品として回収し、次の標的をルキフェル閣下に定め、現在に至る。

「初めまして。バレラルク王国王族特務国土防衛軍将帥、氷の天生士ベアナイト・モスキーノさんですね?」

「そうだよ!よく知ってるねえ〜!」

「我が同志を2体も…。ウノピュウさんはともかく、ピスキウム大司教さんまで殺されてしまうとは予想外でした。これではこちらの戦局が大きく傾いてしまいますね。」
ルキフェル閣下は、ピスキウム大司教の能力を高く評価していた様な口ぶりで言った。

「こいつら全然話にならなかったよ〜?」
モスキーノは満面の笑みを浮かべ、煽り口調で言った。

「流石ですね。貴方を5人の要警戒人物の1人に指定した私の判断は、間違っていなかった様です。ところでモスキーノさん、何をそんなにお怒りなんですか?」
ルキフェル閣下は見抜いていた。

一見するとヘラヘラしている様に見えるモスキーノの、その笑顔の裏に隠された強い怒りを。

到底笑顔などでは隠し切れない程の、強い怨念の様なものを感じっとっていたのだ。

モスキーノは、図星を突かれたにも関わらず、それでも頑なに笑顔を絶やさなかった。

「ここへくる途中ね、部下から報告を受けたんだ…ポナパルトが死んだって。まあ、仕方のない事なんだけどさ!俺たち戦士は常に死と隣り合わせな訳だし!国を護るために戦って死ぬなんて、戦士としての本懐だしね!きっと天国でポナパルトも言ってるよ…"本望だぜ!"ってね!」モスキーノは笑顔でハキハキとした口調で言った。

「とどのつまり、何が言いたいんですか?」
ルキフェル閣下が尋ねた。

「ポナパルトはね…チャランポランな俺をいつも叱ってくれたんだ。あいつに叱られるとね、背筋がピンと伸びて気が引き締まるんだよ。まあ、少しうざいんだけどね!あいつが死んだ今、誰が俺を叱ってくれるんだろう??」

「随分と後ろ向きな考え方ですね。自分を叱ってくれる人が居なくなってしまった時こそ、自分自身を見つめ直し成長できる良い機会なのでは?」

「ははっ、耳が痛いなあ。」
モスキーノは困り顔で言った。

「ポナパルトさん以外にも、この国ではたくさんの戦闘員が殉死してしまいましたね。しかしそれは、命懸けで我らに抗った末の、名誉ある死です。讃えてあげるべきだと思いますけどね。」
ルキフェル閣下がそう言い終えると、モスキーノの顔から笑顔が消えた。

「無抵抗の市民まで虐殺しておいて、よく言うよ…。ねえ…こんな事してただで済むと思ってるの?絶対に許さねえからな。てめえら全員1匹残らず、俺の手で地獄に叩き堕としてやるよ。」モスキーノは血走った目で、強い怒りと狂気に満ち溢れた表情でルキフェル閣下を睨みつけていた。

常にニコニコと笑顔を絶やさず、おちゃらけた口調のモスキーノは、敵を前にすると突然悍ましい表情へと豹変し、口調も荒々しくなる。
この裏表の激しさは、2年経った今でも健在であった。

モスキーノは、辺り一帯全ての物質の機能を停止させてしまうほどの凄まじい冷気を全身から放出させた。

「素晴らしい御力ですね。貴方と御手合わせ出来ることを、光栄に思います。」

ルキフェル閣下は涼しい顔をしながら、ゆっくりと剣を抜いた。

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