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北田のショートショート

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オリジナルショートショートを書く練習
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超ショートショートSF 便利な世界

超ショートショートSF 便利な世界

朝、チャイムの音が鳴って、目が覚めた。
寝ぼけながらもベッドの脇に置いていたマスクを素早く着け、インターホンに応じる。
宅配のお兄さんだった。荷物を受け取って「ありがとうございます」とお礼を言うころには、やっと頭も冴えてきていた。
部屋に戻って段ボール箱を開けると、先日ネットで注文した小説だった。

そういえば、と考えた。

最近はロボットではなく生身の人間の配達員が増えてきた。
おそらくだけど、

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ショートショート 時空旅行夢

ショートショート 時空旅行夢

 31歳。昔から、人の思いやりとか気持ちをないがしろにしてきてしまったと思う。でも恩返しをする当てもない。そんなことを考えてしまうのは、夢を見るようになったからだ。

 いわゆる明晰夢というやつ。そこでは私は幽霊で、誰の目に映っていないようだ。まだ幼い私の目にも…。そう、それは私の人生の夢。小学生のころ、親にさせられたおかっぱ頭がかわいらしい。髪型に対して私はたぶん何も思っていなかったが、今は普通

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【ショートショート】走る男

【ショートショート】走る男

町に来たその男は走っていた。走って町に来た。
町は港町だった。船が往来する穏やかな海を見渡せる山がちな地形に、木造の家々が密集し、生活道路は曲がりくねっていた。漁港には漁師と猫。狭い道路には散歩するお年寄りと猫。小学校と中学校が並んで一つずつ建っていた。

男は町の西側から走ってきた。
Tシャツに短パン姿で、スニーカー。アスリートというよりは、運動不足の解消にジョギングをするような格好だったが、そ

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ショートショート ある昼下がりの会話

ショートショート ある昼下がりの会話

 その日はいい天気だった。休日のランチタイムも過ぎた、予定をうっかり入れ忘れようものなら手持ち無沙汰になってしまう(だがそれがまたいい)時間帯。大通りから一本入った裏道、日光の届かないオープンテラス席で、トクはアイスコーヒーをちびちびと飲んでいた。手にした端末で新聞を読む。「鎖国政策で身体ガジェット価格高騰」「性別撤廃法改正へ 身体的特徴記入廃止」「『俺は男だ』全裸でスクランブル交差点」最後の見出

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ショートショート 博士と少年、宇宙を旅する

ショートショート 博士と少年、宇宙を旅する

今夜も博士のところへ行くんだ。
僕はノートとペンとお母さんが作ってくれたサンドイッチを持って、丘の上の研究所を目指して走っていた。
もう、あれは完成しているかな。
先週行ったときは、博士はいろんな大きさのレンズやいろんな種類のセンサーを組み立てていた。もったいつけてちゃんと教えてくれなかったけど、僕には分かっていた。あれは「望遠鏡」だ。

草が生い茂る丘に着き、てっぺんまで一気に駆け上った。
博士

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ショートショート 会社員は何の夢を見るか

ショートショート 会社員は何の夢を見るか

彼は夢に悩まされていた。
夢というのは将来なりたいものの話ではない。
(もっとも、将来、今の会社に勤めたまま何も成し遂げられずに年を取っていく人生に意味はあるのかーといった悩みはほかの人たちと同じように持っていたが)
毎晩、いや、正確には目覚める直前、つまり毎朝見る夢。
妙にリアルな夢だった。

新しく大口の契約が取れた。難しい取引先だったが、じっくり時間をかけて外堀を埋め、会社の業績を大きく伸ば

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