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新規利用者の入居時、施設職員はその方ばかり目を向けてしまう

介護施設は、食事と居室などの生活環境の提供とともに、利用者の状態に合わせた介護サービスを提供する。

ただの賃貸物件ならば、不動産屋が本人と顔合わせするのは見学や入居時の契約くらいである。

しかし、介護施設は入居してからは職員と利用者が毎日のように顔を合わせて、かつご本人の生活空間と心身状態に深く関わることになる。

そのため、本人の状態把握だけでなく関係づくりが重要となる。

このような理由もあるためだろう――― 施設に新しい入居者が入った直後の施設職員の態度は少し違う。

それは「どんな人だろう」という不安感とともに、「一発目だから良い印象を与えよう」という心理が露骨にわかる関わり方をする。

これは別に悪いことではないし、特に入所日はご家族も来所することが多いので、なるべく良い格好をしたいし、良い施設だと思って欲しいという意図から張り切るのは自然だ。

このように書いている私だって、それなりによそ行きの態度をする。但し、それは契約内容を説明するための、いわばビジネスモードという意味だ。

一方、施設職員の中には初顔合わせであり、かつこれから長く付き合うことになる利用者に対して露骨に”いい顔”をする者がいる。

いきなり自分の名前を連呼して覚えてもらおうとしたり、おやつや食事の時間に率先して新しい利用者のところへ配膳や介助に入ろうとする。

そのようなタイプの職員に対して、私(あるいは周囲)が思うことは「いつもそのくらいの積極性をもって仕事をしてくれよ」ということだ。

また、あまりに過度に接触しようとするときは制止することもある。というのも、新しく入居される利用者の中には、入所という事実を理解していないこともあるからだ。

仮に理解していたとしても、もう高齢である利用者が新しい生活環境に変わるわけだから、そのストレスや不安は計り知れないだろう。

そのような心理状態の利用者に対して、不安を軽減させようとする配慮はあっても、自分のことを覚えてもらおうとか、良い印象をもってほしいということを押し付けることは、ある意味での迷惑行為だと思う。

だからこそ「戸惑っているみたいだから、ちょっと一人で落ち着いていただきましょうね」とやんわり止めるわけだ。

何より、施設運営という立場として新しい利用者が入ったときに留意していることは、既存の利用者をほったらかしにしないことだ。

ここまでお伝えしたように、新しい利用者が入居してしばらくは、ご本人に気を使ったり仲良くしようとしたり、どのような介助にすればいいのかなどに注意が向きがちである。

逆に言えば、新しい利用者が入居したタイミングは、既に入居している利用者に注意が向きにくくなることでもある。

申し送りでも新しい利用者の話がメインになる。「移乗はこうしたらどうだろう?」「食事の提供はこうしよう」といった協議が楽しい時期でもある。

しかし、他の利用者の話題が一気に少なくなる。私が「〇〇さんの夜間帯の状況は?」「日中帯のレクの様子は?」と聞くと、「え~と・・・あれ?」みたいな感じになる。

新しい利用者が入居する前日までは、あんなに「〇〇さんは夜間帯に3回ほど居室から出たり戻ったりしてました」など、特に問題行動みたいな言い方を針小棒大に言っていたのにパタリとなくなる。

これは1つの憂慮および危惧すべき事象である。

つまり、新しい利用者が入るタイミングは、他利用者のことに目を向けなくなってしまうということの表れであり、これは事故やトラブルを誘発するリスクがあるであるのだ。(まぁ、普段大袈裟に言っている問題行動みたいな視点は、さほど問題でないという見方もあるが・・・)


――― 新規の利用者が入居することは、結構なイベントである。職員も他利用者も浮足立つだろう。

しかし、介護のプロとしては盲目的になることなく、新しい利用者も既存の利用者も全体を網羅した介護支援を提供することが求められる。

ちなみに、あまりに施設職員が新しい利用者にばかり目を向けている状態が伺えると、私は他利用者にも今までどおりの着眼点と接遇を心掛けるように釘を差すこともある。

ときには、新しい利用者の介助が大変なときに他利用者に対して礼節に欠けた態度をとった場合、「これまで✕✕さんに今のような言い方をしてきたんですか? ・・・そうじゃないですよね? 介助が大変になったのは分かりますが言い方には注意しましょう」と伝える。

もちろん、これは私だって同様だ。職員に注意するということは施設運営である自分への戒めでもある。

とは言え、どんなに新しい利用者も日数が経てばお互いに接し方も落ち着いてくるものである。そのときまでは、他利用者も含めて基本的に同じ接遇・コミュニケーションをとることが望ましいだろう。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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