見出し画像

【認知症介護基礎研修】無資格とは言え、高齢職員にも受講を強いるべきか?などの疑問

■ 2024年 完全義務化となる様々な要件


2021年4月の介護報酬改訂において、ほぼ全ての介護サービス事業所共通の様々な義務要件が制定された。例えば、感染症と自然災害に対する事業継続計画(BCP)や感染予防と虐待防止に対する指針の策定などが挙げられる。
ここで義務化となった要件については3年間の猶予期間があり、2024年4月からは完全義務化となる。もしも整備されていない場合は、運営基準違反という扱いになってしまう。

さて、この時期の義務化の1つに「認知症介護基礎研修の受講」というものがある。これは無資格であり、かつ直接介護に従事する全ての介護職員が対象となる。
高齢化社会で認知症の高齢者も増加している現代において、しかるべき知識を学ぶ機会としては良いと思う。


■ 「受講するだけ」なのにハードルが高い


しかし、”義務”と言われると少し頭を抱える。国は「受講するだけでOK」「オンラインで可能」と思っているかもしれないが、無資格の職員すべてとなると実行に移すのはハードルが高い。

すでに全ての職員に受講を済ませた、あるいは受講を順次進めている事業所は多いと思うが、一方で「ああ、もう時間がない」と焦っている事業所も少なくないだろう。
いずれの事業所も、実行するうえで検討や障害があった(ある)と想定される。

分かりやすいところで言えば、無資格者の人数が多い事業所は研修のための人員配置(シフト)のやり繰りがあるし、後述する受講のためのオンライン環境の準備だって必要だ。そもそも、義務化と言う割に受講費がかかる。

社会的な世情から必要であることは分かるし、無資格者のスキルアップにもなると思うが、義務という前提があるため、どうしても事業所の負担ばかり増えたように感じてしまうのはご理解いただきたい。

その他、以下のような細々した検討や疑問も渦巻いてしまう。


■ 「直接介護に従事」は実態としてグレーゾーン


例えば、無資格で「直接介護に従事する」という職員が対象となるわけだが、そもそも「直接介護に従事する」という定義が曖昧である。
何が曖昧かと言うと、介護施設で掃除や洗濯のために雇用された職員や事務職として雇用された職員であっても、やむを得ず直接介護を行わざるをえないことはある。
例えば、館内の掃除中に歩行が不安定な利用者が居室から出てきたので、そのまま共用スペースまで付き添いしたとか、人手が足りないために「ちょっと見守りしてて」なんて急に要請されることもある。

このような、本来の労働形態では直接介護はしないが、実態として直接介護をする場合も「直接介護に従事する」という対象にあたるのだろうか?

もちろん、人員配置として常勤換算に加えているならば、それは受講対象となるだろう。しかし、それ以外であれば会社との取り決めとしての労働条件通知書や雇用契約書などに準じて良いのだろうか? 

・・・などど考えてしまう。


■ 高齢職員にも義務を負わせる必要はあるのか?


よく労働基準監督署や労働者の待遇に類する話において、年齢によって雇用対象から外すのは控えるように啓発する広告を見かける。
要は「高齢でも現役でまだまだ働ける」「だから年齢を気にせずに積極的に雇用しましょう」と企業に伝えているわけだ。

しかし、実際のところ高齢の部類にあたる職員と面談などすると、「働けるうちは働きたい」「働けるだけありがたい」と言う一方、「入浴介助などの肉体労働はもうキビしい」とか「今さら資格とか勉強とか言われても」という本音が出てくる。
(中には、肉体労働は少なくして雇用は継続してほしい、でも現場が回らなくなるので人員補充してほしい・・・という無茶ぶりを言う人もいる)

何が言いたいのかと言うと、認知症介護基礎研修においては受講するだけで済む話であるが、正直に言えば「引退を過ぎた高齢職員に対してまで、認知症介護基礎研修を受講させる意義はあるのか」と思ってしまうという話だ。

もちろん、肉体的に頑健な人や勉強やスキルアップに積極的な人もいる。しかし、誰もがそうではない。とりあえず生活のために少しでも働ければ良いという人もいるし、余暇として気楽に働ければそれで良いという人だっている。
大変失礼な物言いだが、これらの方々は何かしらの拍子に要介護状態になる可能性は高い。ならば、義務だから研修させるとか強制せずに、細く長く働いていただくほうが健全ではないだろうか?

・・・などと考えてしまう。


■ オンラインだから気軽に・・・というわけにいかない


ここまでは介護職員を中心とした話であったが、面倒くさいことを考えなければ「いっそ、無資格の全職員を受講してしまえ」と開きなれば良いだけの話である。

しかし、オンラインで受講できるとは言え、事業所によっては職場内にその環境を整備をする大変な場合もある。例えば、PCやタブレットなどの備品の手配、Wi-fi環境の構築などがある。

もちろん、わざわざ備品を購入せずとも個人のスマホでもできるが、職員によっては「自分のスマホを使いたくない」ということもある。また、記録のためにタブレット端末があっても、研修中は記録作業ができなくなるので現場の理解も必要になる。

事業所によってはPCだけで業務が十分機能していることもあるが、オンライン研修は別な部屋でやるとなったら、もしかしたらWi-fi環境が必要になるかもしれない。

・・・と、ここまでも何とかなると言えば何とかなる。タブレット端末においてはネットショッピングで1万円を切っているし、Wi-fi機器だってネット環境さえあれば割と簡単に取り付けできる時代だ。

しかし、1番の問題は何かというと「それをする人がいない」ということだ。いくらオンライン用の接続機器があっても、設置したり設定したり、接続できる人がいないとどうしようもない。いわゆる「詰む」という状態だ。

また、いざオンライン研修を実施できたとして、オンラインであるゆえに接続不良やらのトラブルだって想定される。そのような場合、「どうすればいいの!!」とパニックになる職員は少なくない。(というか、実際にあった)

となると、オンライン環境を構築できたとしても、オンライン研修を実施する際に必要に応じてサポートする職員も必要になるという話になる。

こうなると、各事業所向けにICT担当を教育する必要もあろう。(まぁ、これはこれで今後必要になるだろうが・・・)


――― というわけで、義務化となる「認知症介護基礎研修」に対して、いざ実施するとなると色々な検討や障壁が想定される(実際にあった)という話であった。

何だかネガティブな内容ばかりに思えるが、単純に実施するまでが面倒であるだけで、開き直ってしまったり、バタバタしながらも何とかなるということはお伝えしておく。

これから先も無資格の職員が入社してくることは想定されるので、それに向けた整備と思えば良いのかもしれない。あるいは、無資格の職員に対しての資格取得を促すことを目指しても良いと思う。

義務と言って文句を言いたいことは多々あろうが、ひとつのきっかけとしてなるべく前向きに検討したいものである。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?