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「休憩する暇がない」の意外な理由、施設職員へのヒアリングで分かったこと

日本の労働基準法では1日あたりの勤務時間が6時間を超えると、雇用主は働き手に対して休憩を与えることが義務付けられている。
休憩の与え方に決まりはあり、あくまで労働時間内で設定するもので、勤務開始前と勤務終了直前に休憩を充てることはできない。つまり、「出勤してすぐ休憩をする」「休憩なしで働いたので1時間早めに帰る」はNGだ。
一方、まとまった休憩がとれない場合は休憩時間を分割することはできるという融通性はある。もちろん、雇用主や管理職は休憩中の職員に対して、業務指示や打ち合わせのようなことをしてはいけない。

雇用主や管理職などの立場からすれば「休みもなく、身を粉にして働くのが社会人だろう」という世代の人たちもいるだろうが、そのような時代ではないので、心の中で思う程度で留めたほうが良い。

このように書いている私は、休憩時間はしっかり確保する。さらに仕事の合間にも定期的にデスクを離れたり、可能な限り2時間以上の仕事は入れないようにしている。会議はタイマーをセットして60分以内で終わらせる。急ぎでない限り、メールもその都度返信しないし、そもそも出勤後の1~2時間はパソコンをつけない。もちろん仕事をするときは集中して行う。

現場の介護職員へも同様である。通院同行などの病院の待ち時間などで終了時間が不明な場合を除き、介護サービスの予定も2時間を上限として、必ず業務の間にブレイクを設けている。喫煙は推奨していないし敷地内の喫煙はご時世では厳禁だが、はるばるコンビニまで行ってでも吸いたければ業務に支障のない限り何も言わない。

休憩と言えば、困ったタイプの職員がいる。
それは「休憩時間にも仕事をする」「休まずに働く」という職員だ。

休憩時間はどう過ごそうと構わないという理屈ならば、このような時間の使い方も容認されてしかるべしと思われるかもしれない。しかし、いわば「休憩をとらずに仕事をする」というあり方は2つの理由で問題がある。

1つは、仕事のパフォーマンスが落ちるということだ。
自分では集中しているつもりでも、同じ作業を続けたり連続して複数の仕事を続けていると、ミスや事故につながることがある。仕事をたくさん処理することと、仕事の質を保てることは話が違う。
自分の役割を全うしようと休憩をとらずに仕事を続る姿勢は認めるが、それで求められるクオリティを維持できないならば、それは仕事をしていないと同じである。極論すれば、その仕事はなかったことにして休憩したほうが、他の仕事のクオリティを確保できるようになる。

もう1つは、労働基準法に抵触するからだ。
休憩をとらずに仕事をするという人がいることは、外部から見たときに「この職場は休憩をとらせていない」と見られてしまう。そこで行政機関等の立ち入りとなったら、指導や罰則となってしまう。そこには個人の意向なんてものは考慮されず、職場が休憩をとらせていないという事実しかない。
大袈裟に思われるかもしれないが、特に現代ではデジタル機器は身の回りに当たり前にあり、媒体によってはやり取りした日時も残る。何かのきっかけで休憩をとっていない状態が露見すれば、当人やその職場は無自覚でも問題になるということは覚えておいたほうが良い。

ここまでの内容で休憩をとることの大切さは、仕事の質と法的な理由からご理解いただけたと思う・・・と言いたいところだが、休憩をとらない人に対してこのような理由を伝えたところで、次のような言い分を言う。

「休憩する時間がないんです!」
「休憩していると仕事が間に合わないんです!!」

一見すると理解できそうな言い分である。おそらく上司や取引先などからの急な指示や要請に応じたり、忙しくならないうちに書類作成を片付けたいといった心情は私もよく分かる。
しかし、申し訳ないが「休憩する時間がない」というのは、私からすれば言い訳に過ぎない。前述の休憩をしないことの弊害から考えても、職場に貢献しているように見えて、実は自己満足の仕事と言っても良いだろう。

・・・いや、少し言い過ぎた。しかし実際、この手の人の周囲を見ると大抵の人は休憩をとっているように見受けられる。しかも、繁忙期でもないのに「休憩する時間がない」と言っている当人だけ忙しそうで、周囲は「あの人はいつも何で忙しそうにしているのだろう」と首をかしげるものだ。

さて、この「休憩する時間がない」というのは、介護施設においても耳にする。各施設において色々な事情があるのだろうが、そこは何とも言えない。
しかし、私が管轄している介護事業所と同一法人内の介護施設においても上記のような話が聞かれたため、介護職員に個別に聞き取りしたことがある。
具体的には「休憩する時間がない」と「普通に休憩をとっている」の2パターンの職員それぞれに対して、業務内容や時間配分、業務で気になる点を確認していった。

そこで分かったことは、「休憩をする時間がない」という職員と「普通に休憩をとっている」という職員を比較すると、業務量や時間配分にさほど差はないということだった。つまり、理屈のうえではそれぞれ同じ業務状況であれば、「休憩をす時間がない」という職員も一応は休憩できるはずなのだ。

ここからさらに(休憩できるはずとは言わずに)「休憩する時間がない」という職員に勤務状況を詳しく聞いたところ、「休憩する時間がない」という職員たちは「自らの意思で休憩をとっていない」という結論に達した。
それは休憩する時間がないという理由が次のようなものだったからだ。

「介助が必要な入居者さんが立ち上がったとき、対応する必要があるから」「電話が鳴ったときに、誰かいたほうがいいから」
「急に介助が重なることがあるので、早めに記録を終わらせたい」
「休憩室よりも入居者さんと一緒にいるのが楽しいから」

一番最後は介護好きな人に見えるが、これは表面的な理由であって、不安が先立って現場にいるという選択をしているようにも思える。

一見すると職場環境や業務量が過多に見えるが、どちらかと言うと「自分の中で湧き上がる大変な状況への不安に対して、安心感を得たいから休憩せずに現場にいる」と思われる。そこから転じて「自分の意思で休憩せずに仕事をしている」という話になるのだ。

ここで「休憩もとれないほど人手不足なの?」「その人しか現場にいないの?」と疑問に思われた方もいるかもしれない。私も思ったので確認したところ、「休憩する時間がない」という職員の休憩の時間帯、他に1~2人の職員配置がなされていたのだ。
しかも、シフト作成担当も、その辺を踏まえている休憩時間を予定しているのに、当人はまるで自分一人しかいないかのような言い分をするのだ。
このことから、「自分ひとりで何とかしよう」としていることもまた、休憩をとらずに仕事をしている原因につながっていると思われる。

仕事に対して真摯であることは大切だし評価されるべきだ。
しかし、仕事は顧客や社会のために提供されるものであり、自分の不安を解消するために頑張るものではない。ましてや個人営業でなく、他の職員も含めての総合力として成されるものである。

休憩をしない人に「休憩しろ」というのもストレスだろう。このような人に対しては、1時間とかまとめて休憩を設定するのではなく、まずは分割して慣れてもらってはどうだろう? 冒頭でもお伝えしたように、勤務時間中であれば休憩の分割は容認されている。休憩をとることの大切さを身に付けてもらうためにも、この制度を利用してみても良いのではないか。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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