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大子町の介護改革:DX推進が停滞している理由から学べること

世の中のテクノロジーの進化にともない、介護業界においても様々な技術革新が進んでいる。科学的根拠に基づいた介護サービスの提供、昨今の感染拡大による試行錯誤から生まれた思考の変革もあった。
だからといって高齢者の増加は止まるわけはなく、一方で介護する側は常に人手不足の状態だ。(コスト面は別として)技術的によってカバーできることは、どんどん使い倒していって欲しいと思う。

そのような中、2021年度、茨城県の大子町にて町ぐるみの介護DX推進プロジェクトが打ち出された。これは「自治体×ヘルステックベンチャー共創プログラム」という、介護人材の危機的な不足に備えるにあたり介護事業所のDXを推進する取り組みの1つだ。

それぞれ製品・サービスをもって高齢化率45%の大子町の課題解決に名乗りを上げた中から、6社のベンチャー企業が選定された。高齢化率からも早期かつ将来的な対策が必要なことが伺える、町ぐるみのプロジェクトである。介護事業所へのアンケートでも、人材確保対策・介護のイメージ改善のためにICTの推進を町へ期待する声が多く上がったそうだ。
町全体が抱える課題は明確で、それに対して各ベンチャー企業の製品・サービスによるソリューションがマッチすれば、高齢化問題と介護に大きな進歩
を期待された。

ここまでは関東経済産業局や大子町からも公開されている確認できるため、詳しくは各Webサイトから上記の各ワードで検索して参照いただきたい。

さて、それから一年度、大子町のDX推進はどうなっているか?
この状況は『日経ヘルスケア 2022.8 No.394』のコラムに掲載されていた。
以降はその記事を元に話を進めていく。

結論から言えば、DX推進は進んでいない。
・・・と言っても、あくまでその時点の状況の話であることに留意いただきたい。それ以降に進展したこともあるだろうし、問題点も見直されていることも予めお伝えしておく。また、高齢化45%の地域の問題が、たかだか一年で大きく変化するほど甘くはないとも分かっている。このDX推進の取り組みに対して私が非難しているわけでないこともご理解いただきたい。

本記事でお伝えしたいのは、DX推進が進んでいない現状(結果)ではなく、「なぜDX推進が進んでいないのか?」という理由である。
これは今後ICTやDXを推進しようとしている介護事業所にも参考になると思う。また、今回のようなデジタル分野に限らず、働き方や職場改善といった事業所の構造を、何かしらの分析法や製品・サービスによって解決しようとするときの参考にもなると思う。

さて、記事によると前述のようにDX推進は進んでいない経過として、まず最初に各ベンチャー企業が介護事業所にソリューションを提案したが、介護事業所側にICT活用への抵抗や温度差が生まれたとのこと。ベンチャー企業側としては課題は明確なので、提案に対して積極的に乗ってもらえると考えていたため困惑したようだ。
しかし、大子町の担当者から「最初にソリューションを紹介したのが、失敗だったと思う」と振り返っている。

どうやら、介護事業者側が各ベンチャーの製品・サービスや導入実績を紹介したところ、「新しいことを覚えなければいけない」という警戒心が生まれ、導入に抵抗が強まってしまったようだ。
そして2021年度に導入されたのは、24時間医療相談・夜間オンコール代行サービスの1つだけという結果に終わった。しかも、これはサービスのPRというよりも介護施設の退職という差し迫ったニーズによるものだ。

このような経過から「本来の手順は、現場が困っていること・やりたいと思っていることをうまく引き出し、それらに沿ったソリューションを示すことだった」という反省点が生まれた。
以降も取り組みは継続しており、訪問介護サービスの業務効率化、タブレット端末の導入、アクティブシニアの協力など、視点を変えて進行している。


・・・といったように、雑誌のコラムを簡易的にまとめたが、大切なところが抜けていたら今のうちに謝罪しておく。本記事に興味がある方は日経ヘルスケアをご購入いただくか、大子町の本件の活動を検索していただくと様々な記事がでてくるので、そちらも参照いただければ幸いだ。(別に出版社や大子町からPRを依頼されているわけではない)

さて、ここからは私の考えをまとめていきたい。
大子町のDX推進が停滞した背景と原因から、「ユーザ側の課題分析が表面的なままだと、どんなに優れたソリューションも受け入れられない」ということが伺えた。これは私自身の経験や立場なども踏まえての所感である。

どういう意味かと言うと、一見すると高齢率45%の町で介護の担い手の人手不足や業務効率化がポイントになっているようだが、おそらく本質的な問題はそこではなかったのだろう。町の担当者の見立て通り、ソリューションを提供する側はもっと潜在的ニーズの汲み取るためのプロセスを行うべきだったのだろう。
一方、介護事業所側も「ここが問題である」というところまで具体的に分析できていなかったような印象も伺える。もしも、そこが明確になっているのであれば、「新しいことを覚えなければいけない」という警戒心・抵抗感よりも先に「いや、そういうものを求めているわけではない」「私たちは●●を解決できる製品・サービスを求めている」という言い方になるはずだ。
本当に解決したい問題だったら、多少は努力してでも何とかしたいと思うものなのに、オペレーションに面倒臭さを抱いたのは根本のニーズとマッチしなかったのだろう。

私も何かしらの経営指針を出す前に、各事業所の管理者や自事業所の介護職員へのヒアリングや意見交換をしている。そこから役員とも協議して方向性を打ち出すものの、現場サイドから「いや、それは困る」「話していたことと違う」などと言われてしまうことがある。また、そのようなときは決まって「人手を増やせば解決する」「今使用しているモノ・サービスが使いにくいのが原因」と、「これさえあればいい」「使いやすいものがあればいい」といった表面的な話で終わってしまうものだ。
それくらい、潜在的ニーズをくみ取ってのソリューションに仕上げることは難しいと身を持って実感しているからこそ、大子町の取り組みも介護事業所もベンチャー企業の苦悩も共感できる。「新しいことを覚えなければいけない」と思って抵抗したくなる気持ちも分かるし、何なら私もしてしまう。

しかし、周囲からの反発は大切だ。それにより「ああ、そういうことが言いたかったのか」「では、どういう意味?」と新たな視点を得る機会にもなる。課題分析やソリューションの構築というのは、実は反発や抵抗があってこそ本当のスタートではないかと思っている。

改めてお伝えするが、私は大子町のDX推進の取り組みを非難するわけではない。というのも、課題分析やソリューション構築はこれからが本格的になるだろうと思っているからだ。これからもトライ&エラーだろうし、町の住民からも介護事業所から不満も言われるだろうが、この辺りの辛さを分かっている立場として陰ながら、あるいは何かしらで応援したい。

・・・と思って、まずは大子町のふるさと納税のサイトを眺めている。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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