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「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」講談社 2023年/「相転移・臨界現象とくりこみ群」(共著)丸善出版 2017年

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熱力学・統計力学 第24章問題の解答・解説

いよいよ量子統計である。詳細な計算は第25、26章で行うが、その前にまずは大枠を理解する。Fermi分布関数とBose分布関数が導入され、さまざまな量が系統的に計算できるようになる。エントロピーの非負問題も解決する。古典極限も再現できる。よいことばかりである。計算がややこしいのが難と言えば難だが、見方を変えれば、解きごたえがあって楽しい。 問題数が少ないのは、少しでも応用を考えると第25、26章の内容になってしまうからである。実際のところ[24-3]はそういう問題なのだが、

    • 熱力学・統計力学 熱力学第二法則とは

      できないことの法則 熱力学の法則においてもっとも重要なのは熱力学第二法則であることは誰しも認めるところだろう。他の法則体系にはみられない熱力学の独特な性質はこの法則によるものである。 熱力学の法則にはさまざまな表し方がある。もっとも簡単なのは、「第二種永久機関は存在しない」だろうか。第二種永久機関とは何なのかこれだけではわからないのでよい説明ではないが、法則の本質を端的に捉えている。 一般向けには、冷めた水が再び熱くなることはないのは熱力学第二法則によるものである、など

      • 熱力学・統計力学 第23章問題の解答・解説

        量子系における同種粒子を扱う章である。本章で理解してほしい点は三つある。各節で議論している。 1.分配関数を$${N!}$$で割ることの意味づけ。従来の教科書では、本書で言うと第13章のところで議論される。一応もっともらしい説明がなされるのだが、よく考えると厳密に正しくないし、何がどう正しくないのかまで説明している教科書はほとんどない。本書では、第13章の議論は単につじつま合わせというくらいにとどめておいて、識別不能性の問題はここに詳しく書くことにした。図23.1の議論を理

        • 熱力学・統計力学 第22章問題の解答・解説

          「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」第22章「グランドカノニカル分布」章末問題の詳細な解答と解説。 量子統計を扱うための第一歩としてグランドカノニカル分布を導入する。アンサンブルをどのように変えるかはすでに第II、III部でいくつかの例を扱ってきた([14-4]、18.4節など)。グランドカノニカル分布はそのような例の一つとなる。化学ポテンシャルを変数としてもつ熱力学関数$${J(T,V,\mu)}$$を扱いたいという気はあまりしないが、量子統計を扱う際は必須となる。ただし

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          物理における数学の理不尽なまでの有効性あるいは非有効性

          物理と数学 物理を学んでいると、あるいは研究していると、数学の威力に感銘を受けることが多々ある。多くのひとにとって、その最初の体験は、力学の運動方程式(微分方程式)を扱ったときであろう。たった一つの方程式を解くことで物体の落下や惑星の軌道、大学入試で出されるようなややこしい設定など、ありとあらゆる運動を記述できるのは、驚くほかない。 "The unreasonable effectiveness of mathematics in the natural sciences

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          熱力学・統計力学 熱力学極限とは

          統計力学を扱うと、熱力学極限という概念を考える必要が生じる。系の大きさを無限大にする極限である。いろいろと誤解の余地がある概念なのであれこれ書こうと思ったのだが、図を描いた方が早い。ということで、以下の図である。 熱力学において、熱力学関数が存在することは要請によるものである。熱力学で熱力学極限を議論する必要はほとんどない(本書「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」では熱力学を扱う第一部にも少しだけ議論を入れた(29、30ページ))。マクロ系を記述するとはいえ、用いる示量変数

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          公開1周年のアクセスログ

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          熱力学・統計力学 第21章問題解説

          「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」第21章章末問題の解説。解答例はこちらを参照。 第21章は電磁場、光子気体の統計力学である。20章と同様に、統計力学では必須のテーマである。ただ、統計力学の範疇に収まるものでもないため、書く方としては非常に扱いに困る問題である。 内容的には、三つのポイントがある。 (1) 電磁場のエネルギー密度を扱うこと 通常の熱力学系では熱容量を測定することによって系のエネルギーを捉えているが、電磁場の場合は、放射測定があるため、エネルギーを直接的

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          相転移・臨界現象とくりこみ群 アウトテイクス

          復刻シリーズ第?弾。 拙著「相転移・臨界現象とくりこみ群」は東工大で行った大学院講義に基づいている。講義は2011年度から2014年度まで4期行った。各期の14回程度を全く同じにするのもつまらないから、2、3回分は年度ごとに異なるテーマを選択した。非平衡統計力学(Brown運動とか)、スピングラス、モンテカルロで詳細つりあいを破る方法、量子スピン系(教科書14章よりもう少し専門的なものも含む)、微分方程式のくりこみ群解析(13章に書いた。全く不十分なので書き加えたいが、スペ

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          熱力学・統計力学 第20章問題解説

          「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」第20章章末問題の解説。解答例はこちらを参照。 本章では統計力学の典型的な応用例である格子振動を扱っている。統計力学の教科書であればまず間違いなく議論される例である。情報理論など、他の分野を志向しながら統計力学を勉強する方は少なくないと思うが、そういう方にとってはあまり興味のない内容かもしれない。ただ、それほど難しい問題でもないし、非自明な性質も得られるので読んで損はないと思う。大自由度系で起こる集団励起、集団運動は物理系でなくてもありえ

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          論文紹介 断熱ゲージポテンシャルとKrylov部分空間法

          共同研究者の研究室に滞在して行った研究の第二弾。 ここに書いたように、もうひとつの共同研究で共同研究者にKrylov部分空間法について教わった。非常に汎用的な方法であり、何か他に転用できるのではないかと思った。もちろん、Krylov部分空間法は数値計算でもっとも有名な汎用アルゴリズムの一つであり、さまざまな問題に応用されている。20世紀のトップ10アルゴリズムの一つともなっている。そういうのとは別の意味で使えるのではないかと思った。 Krylov部分空間法とは、状態空間を

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          熱力学・統計力学 第19章問題解説

          「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」第19章章末問題の解説。解答例はこちらを参照。 本章はスピン系の統計力学の入門編である。統計力学がもっとも活かされて精密な理解が進んでいる分野である。Ising模型は事実上、統計物理学の標準模型となっている。数理的な面白さも相まって、はまる人が多い。 スピン系の問題はいくらでも作れる。面白いテクニックや計算できる題材はたくさんある。以下の解説も長くなってしまった。書いていると語りたいことがいろいろ出てくる。ただ、動機や本来の目的を忘れて

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          熱力学・統計力学 第18章問題解説

          「熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相」第18章章末問題の解説。解答例はこちらを参照。 18章は応用編の導入という位置づけである。いくつか、相互作用のある系の扱い方を議論した。物理現象を本格的に記述するというにはほど遠いが、どういう問題や扱い方がありえるか、とっかかりになる議論を扱った。前半と後半で内容が違うので戸惑うかもしれない。講義ノートの時点では章を分けていたが、出版時にいろいろ考えて一つにまとめた。いろいろな方向性やアプローチがあるのだと捉えていただきたい。その代わりと

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          熱力学・統計力学 エネルギー論と運動論

          熱力学とエネルギー論 熱力学を大学であらためて学ぶと、力学や電磁気学とかなり異なる雰囲気にとまどってしまう。Newton方程式(Euler-Lagrange方程式)やMaxwell方程式のような印象的な微分方程式は出てこないし、微分方程式をいじることもまったくないわけではないが、限定的である。 そうなる理由は、熱力学が運動論ではなくエネルギー論に基づく体系であるからである。 運動論とはその名の通り、物体の運動を扱う。その場合、状態の時間発展を問題にする。時間発展の規則は

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          電磁気学基礎(大学1年生向け)

          以前公開していた電磁気学基礎の講義テキストを再公開する。 ・内容は理工系の大学1年生向けのものである。実際に講義で使用した。専門的な内容・技術的に込み入った内容は扱われておらず、物理学専攻者向けのテキストとしては不十分である。 ・できるだけ平易に記述することをこころがけたが、難度は高いと思われる。受講者にとって、前半部分はともかく後半はかなり難しかったようである。 ・各章に「まとめと考察」の節を入れている。電磁気学(物理)とはどういうふうに考えていくものなのかをあれこれ

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          相転移・臨界現象とくりこみ群 正誤表

          「相転移・臨界現象とくりこみ群」の2023年12月時点での正誤表を公開する。 第5刷(2021年8月)以前 • p. 307 (14.62) 式: $${Z = \mathrm{Tr}\,(\cdots) = \cdots \to Z = \mathrm{Tr}\,\exp(\cdots) = \cdots}$$ $${\exp}$$が抜けている • p. 340 最後の段落二つめの文: 「式(C.1) に$${1/\sqrt{N}}$$をつけない代わりに式(C.1)

          相転移・臨界現象とくりこみ群 正誤表