見出し画像

自治体システム統一の実現可能性はあるのか

菅首相は自治体ごとで異なる行政システムを2025年末までに統一するよう指示した、と先日大きく報じられていましたが、実際に実現可能性があるのかどうか、考えてみたいと思います。

まず自治体行政システムとは何か

自治体行政システムには、大きく3つの基幹業務システムが存在しています。

①住民記録
 
住民票の管理や発行などの処理を行うシステム。住民基本台帳システムと呼ばれることもあり、住基システムや住記システムと略されることもある。
②税務
 住民税や固定資産税、法人住民税など自治体が徴収する租税の管理システム。
③福祉
 
介護保険や障碍者福祉、児童手当や就学など、社会福祉に関する業務をサポートするシステム

自治体システム

この3つがいわゆる自治体の基幹業務システムと呼ばれ、各自治体の保有するシステムボリュームとしても大きな割合を占めております。また上の図のように、基幹業務の下にいくつもの業務がぶら下がっているイメージとなります。

例えば転出転入届であれば①住民記録システム、固定資産税の支払いであれは②税務情報システム、介護保険申請であれば③福祉情報システムがその住民サービスを担うシステムとなります。このように、住民が実際に受ける行政サービスとそれを受け付ける業務フローやプロセスがあり、それを支えているのが自治体行政システムとなります。

なぜ統一しなければならないのか?

①行政サービスの均一化
②IT人材の不足
③投下資金の削減

①行政サービスの均一化

最も分かり易い例を挙げるとすると、上半期に実施された特別定額給付金事業です。

ほとんどの方が申請されて、既に10万円を給付されているかと思いますが、実際に事業開始がされてから、申請書が届いて送り返して口座に振り込まれるまで何日間かかったか覚えていますか?

Twitter等でも話題になりましたが、自治体ごとで対応のスピードに差があり、早い人では5月に振り込まれたり、私は6月29日に振り込まれていました。

このように国の施策ではあるものの、住民票を置いている自治体によって、申請書の到着から振り込まれるタイミングまで、きちんと均一化されたサービスを受けることができない現状があります。勿論システムだけの問題ではありませんが、仮に全国で統一された住基システムあるいは、仕様の統一された住基システムであれば、一斉に給付金事務システムを国が出すことで、自治体間の対応差は少なくなるでしょう。

②IT人材の不足

総務省自治行政局行政経営支援室の、地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会によると、現在、情報システムの職員が5人以下の自治体が全体の約3分の2を占めていると言われています。特に小規模な自治体では既に人材がひっ迫しており、現状を維持するだけでも手一杯となっているところもあるようです。

また2040年ごろには団塊ジュニア世代は退職してしまい、ますます地方公務員の確保が困難な状況に陥るようです。

自治体システム2

つまり、このままいくと自治体の情報システム職員が足りずに自前でシステムの導入や維持メンテナンスをしていくことができなくなる、ということです。

統一あるいは共同利用の道を歩むことで、この人材面における課題はクリアしていけるでしょう。事実、既に共同クラウド化を進めている幾つかの自治体では、その人的効果も表れており、菅首相の号令なくとも規模の小さな自治体では導入が進んでいるのが実態です。

③投下資金の削減

こちらについては言わずもがな、かと思います。クラウドサービスと同様に、一社占有よりも複数社共有の方が圧倒的にコストメリットは出てくるでしょう。

それに業務のフローやプロセスは違えど、最終的に同じデータを登録することになるのですから、みんなで同じものを使う方がいいに決まっています。

しかし場合によっては、コストメリットが発揮されないケースも出てきます。共同化を行うということは、利用する自治体すべてが同じシステムを使わなければならない、また先ほどの業務フローやプロセスも共通化する必要があるということ。ここで市区町村同士で折り合いがつかず、別々に個別カスタマイズを加えるようなことになってしまっては、コストメリットは薄れてしまうでしょう。

つまり、個別のカスタマイズを抑制できない限り、共同利用のメリットを最大限発揮できないと言えるでしょう。

本当に統一なんてできるのか?

全国自治体で統一された仕組みを利用することが理想ですが、現実的には非常にハードルは高く、難しいことだと思っています。

日本には1,741の自治体があります。

最小規模:東京都青ヶ島村は人口178人
最大規模:神奈川県横浜市は人口3,724,844人
(2020年8月1日時点の法定人口)

これだけ規模の違う自治体同士で同じシステムを利用することができるでしょうか?別の例えをすると、不動産業界最大手の三井不動産と町の不動産屋さんが同じシステムソフトを使っていることなんてあり得るでしょうか?

もちろん基幹業務は前述している通り①住民記録②納税③福祉の3点であることに違いは無いのですが、受付処理する件数も、絡み合う様々な条件も、仕事のやり方も全く異なります。民間企業と同じく、行っている業務の根幹は同じであっても、組織の規模によって使われるシステムは違ってきます

それでは菅首相の「自治体システムの統一」は所詮、絵に書いた餅となるのでしょうか?

今後の自治体システムはどうなるのか

菅首相の号令以前から、総務省主導で自治体システムの共同利用は促進されています。「自治体クラウド導入団体支援事業」という形で、複数自治体でのクラウドシステムの共同利用助成事業があり、既に平成30年3月時点において、379もの団体が自治体クラウドを導入しています。

また、仕様の統一ということで以前から検討も進められてきておりますが、どのような形で各自治体へアプローチしていくのか、政府のスタンスが今後問われてくるフェーズになってきています。

このスタンスが重要であり、菅首相の号令通りとするのかどうか。今後注目すべき点だと思っています。

つまり自治体に対してある程度強制力を持って、標準仕様に沿ったシステム利用・構築を促すのか、あるいはアドバイス程度に留めて、あくまでガイドライン的な位置づけとするのかどうか、です。

自治体システム3

ここからは「恐らくの話」となりますが、菅首相もここまで書いてきたような内容は当然承知の上での号令なので、本当に1,741の自治体が全く同じシステムを共同利用できるものだなんて考えていないでしょう。

あくまで号令はパフォーマンスであり、上述した自治体クラウドの導入を促進させるための強い意思の表れ、関係各所への発破なのだと思います。

9月11日には自治体システム等標準化検討会から、住民記録システム標準仕様書が発表されています。これがどこまでの精度を持ったものなのか、強制力を持ったものなのかは私も理解しきれておりませんが、仕様を統一するだけでも小さくも大きな前進なのではないでしょうか。


今回のnoteのお題目である「自治体システム統一の実現可能性はあるのか」についてですが、可能性は無い。しかし、仕様の統一は政府のスタンス次第な部分はありますが、今よりは加速していくと思われます。

また、横浜市はじめとする規模の大きな自治体は引き続き単独利用のシステムが使われ、規模の小さな自治体では共同利用自治体クラウドが更に広がっていくと考えています。

編集後記

実際のところ私自身は民間企業が担当の営業となるので、あまり行政システム関しては無知なところがありました。

社内関係者から教えてもらったり、総務省等のHPを参考にして記事にしています。もしも間違っている点がありましたら、お知らせいただけると助かります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?