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《意味》、ナラティブ、イノベーション、そして心理的安全性/第3回(最終回)《創造的な対話》と心理的安全性

江頭 春可 さん、長谷川 一英 さん、馬越 美香 さんのnote記事を参考に、《意味》を起点にしたイノベーションとそれを可能にする条件を考えていく連載の第3回。今回は、馬越 美香 さんの『基本全ては上司次第』を参照しつつ、《創造的な対話》と心理的安全性の関係を考えていきます。

馬越さんの記事は、こちらです:

この連載の第1回・第2回は、こちらです:

1.対話を阻害するメンタルブロック

『「意味」のイノベーション』を引き起こし、それをモノやサービスのイノベーションにつなげる《創造的な対話》が、今ほど求められている時代はないでしょう。

ところが、現実には、私たちは、《創造的な対話》どころか、それ以前の普通の対話(お互いの思いと考えを率直に交換し合うこと)さえ、避けることが多いのです。それは、私たちに、対話に対するメンタルブロックのようなものが染み付いているからです。

馬越さんは、メンタルブロックの例を挙げています。

「こんなことを言ったら折角まとまりかけた議論を紛糾させてしまうのではないか」と忖度して発言を控える
自分なんかの発言は価値がない」と思いこんでしまったり、「もし否定されたら」カッコ悪いとか評価が下がると思って黙ってしまう
〔『基本全ては上司次第』から抜粋。太字部は、楠瀬が太字化〕

「否定されたら」、「評価が下がる」――このように感じるのは、他人の目を恐れているからです。また、「自分の発言は価値がない」と感じるのは、自分自身がそう評価しているというより、〝他人が私を評価してくれることはない”という想定からきていて、それは他人に対する気後れを意味します。「忖度」は他人の意向を探ることですが、なぜ探るのかと言えば、他人と対立するのを恐れているからです。

つまり、対話に対するメンタルブロックは、《私と他者の関係性》から生じているのです。

2.対話を促進する心理的安全性


対話に対するメンタルブロックが《私と他者の関係性》から生じているなら、関係性を変えれば対話が促進される可能性があります。

馬越さんは、次のように言っています。

どんな発言をしても許される状態 → だから色んな意見が言える
どんな行動をしても許される状態 → だから色んなことに挑戦できる

〔『基本全ては上司次第』から引用。太字部は、楠瀬が太字化〕
〔どんな発言、どんな行動といっても、誹謗中傷する発言や犯罪行為につながりかねない行動は別であると、馬越さんは但し書きをつけています〕

〝許される”を、私は《あるがままに受容される》と解釈します。あるがままの自分を相手が受容してくれる関係性にあれば、他者の目を恐れず他者に気後れせず他者と対立する恐れを感じず意見が言え、挑戦ができるのです。このような状態を、馬越さんは「心理的安全性の確保された状態」と呼んでいます。

馬越さんは、「心理的安全性の確保された状態」ではパフォーマンスが上がること指摘し、その理由を二つ挙げています。

色んな意見が出てくることはすなわち多様性の確保につながります。似たような意見の人で物事を決めていると一見議論はスムーズに進みスピード感でいうと効率が良いようにも見えます。けれども、希少な少数派の意見を聞くことから得られる思いがけない発見や大事な視点を見逃しているかもしれない。〔『基本全ては上司次第』から抜粋。太字部は、原文のママ〕
心理的安全性が確保されているのなら、安心して失敗できます。言い換えれば、失敗してもいいんだから、良い結果につながる可能性のあることに挑戦できます。〔『基本全ては上司次第』から引用。太字部は、原文のママ〕

「心理的安全性が確保された状態」では多様性がこれまで見逃されていた視点への気づきを促し、挑戦が新しい可能性を開くというのです。

このような「心理的安全性の確保された状態」を作り出すのは、マネジャーやリーダーの責任であると、馬越さんは言います。

よく、会議などでみんなが発言してくれないとか、積極性に欠けるとかいうマネジャーやリーダーがいます。もちろん、そういう行動をするのは部下であり参加者であるわけですから、その人達の資質や態度による部分はゼロとはいいませんが、私は「心理的安全性の確保された状態」という場の雰囲気を作るのは、むしろマネジャーやリーダーの責任が大きいのではないかと思っています。〔『基本全ては上司次第』から引用。太字部は、原文のママ〕

私も、心理的安全性を確保するのはマネジャーやリーダーの責任であると考えています。それは、メンバー同士の関係性を変えるのに強力なリーダーシップが必要だからです。

3.心理的安全性をつくるリーダーシップ


ここで、いったん馬越さんの論考から離れ、石井 遼介 氏 の著書『心理的安全性のつくりかた』を参照したいと思います。

石井氏は、チーム内の心理的安全性はチームが経てきた歴史に規定されることを、心理的安全性の低い営業チームを例に挙げて説明しています。同氏の考え方を私なりに解釈し図式化したのが、下の画像です。右肩のページは、『心理的安全性のつくりかた』の関連するページです。

チーム内の関係性・カルチャーと心理的安全性

関係性とカルチャーはメンバーの行動と補強し合う関係なので、一度根付いた関係性とカルチャーは時間が経つにつれ一層強化され、チームにより深く根付いていきます。
それでは、上の図に示した営業チームでは、心理的安全性を高めることはできないのでしょうか? 「できる」と石井氏は言います。同氏の考え方を私なりに解釈し図式化したのが、次の画像です。

チーム内の関係性・カルチャーを変える方法

関係性とカルチャーは目に見えない心の中の事象なので、これを変えることは困難です。しかし、行動は目に見える具体的な事象なので、適切に指導すれば、心理的安全性を高める行動へと変えさせることができます。関係性とカルチャーは行動と双方向の関係にあるので、行動を変えさせることで関係性とカルチャーを変えることができ、関係性とカルチャーが変わることで、チームの心理的安全性はさらに高まるのです。
ですから、心理的安全性を確保する上で、リーダーやマネジャーのリーダーシップが決定的に重要なのです。

ここで、馬越さんの論考に戻ります。馬越さんは、チームの心理的安全性を高めるためにリーダーやマネジャーがとるべき行動として、率先垂範と承認を挙げています。

まず自分が率先してそういう姿勢〈楠瀬注:心理的安全性を確信している人間がとる姿勢〉を示すことです。全ての場面で自分が一番優れていたり物事を知っているという状態は少ないはずです。どこか他人の知恵や見解が優れているところがあると思います。そういうところに、あえて初歩的な質問をしてみたり誰かの教えを請うてみる。そして、もう一つは、そういう行動〈楠瀬注:心理的安全性が保証されている場合に期待される行動〉をとった人をみんなの前で明示的に認める。ちょっとズレた質問や意見を言ってしまった人でも受け止める・讃える、みんなの理解を助けてくれたわけだから。そして可能であれば上手に拾って議論を進行させてあげる。
〔『基本全ては上司次第』から引用。楠瀬の解釈を〈楠瀬注〉として付記。太字部は、楠瀬が太字化〕

このような率先垂範と承認行動は、メンバーに行動を変えさせるために不可欠なものであると考えます。


終わりに


3回にわたって《意味》を起点にしたイノベーションとそれを可能にする条件を考えてきました。私たちは、今、VUCAと呼ばれる時代のまっただなかにいます。

V(Volatility:変動性)・U(Uncertainty:不確実性)・C(Complexity:複雑性)・A(Ambiguity:曖昧性)が支配する現代にあって、世界の事象・事物の意味は大きく揺らいでいます。

心理的安全性が確保された場で《意味》を読み換え、『「意味」のイノベーション』を起こし、そこからモノとサービスのイノベーションを産みだす。それが、VUCAの時代という海図なき荒海を渡る上で最も有効な航法のひとつであると確信しています。


ここまで3回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。



『《意味》、ナラティブ、イノベーション、そして心理的安全性』おわり


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