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ロボットは"人間の仕事や雇用を奪う"ほど万能な存在なのだろうか?

私がロボットの取り扱いをしているAI・ロボット推進チームにやって来たのは、2020年4月のこと。当時、このチームは会社の新規事業として立ち上がったばかりの新しい部署だったが、"新規事業"や"ロボット事業"にどうしても携わりたいという想いから社内公募に立候補したのだ。

私は昔からロボットに漠然とした憧れを抱いていた。これはもしかすると、私だけでなく、多くの日本人にとって共通する感情なのかもしれない。

ドラえもんが私たち日本人に植え付けたロボットのイメージ

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私たち日本人にとって、最も身近なロボットと言えば、国民的アニメである『ドラえもん』ではないだろうか。1979年より放送が始まり、かつて幼少期にアニメを楽しんでいた子どもたちも親世代、祖父母世代となった今、ドラえもんは、多くの日本人にとって親しみのあるロボットだろう。

当の私も幼少時代、週末に放送されているドラえもんを見て育ったものである。ドラえもんがあの手この手を使ってのび太を助ける様を見て育った日本人にとって、『ロボット=何でもできるもの』という印象を持っている人は多いだろう。実際に私も同じように思っていた。

"ロボットが人に取って代わる"という論調が広まった平成時代

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『ロボットが人間の仕事を奪う』
『AIやロボットの進歩によってあらゆる仕事がなくなってしまう』

誰もが一度や二度はこれらの言葉を耳にした経験があるのではなかろうか。

事実、平成時代におけるテクノロジーの進歩はすさまじく、携帯電話が急速に普及した1990年代(平成3年~平成10年)から、ものの10年でiPhoneが日本に初上陸するほどの驚くべきスピード感だった。

そして平成後期に入ると、各調査機関やあらゆる研究者、多くの著名人などが、"ロボットが進化すれば人間の仕事を奪う"などと高らかに主張し、『人間はロボットにできない仕事をしなければならない』という論調が広まった。様々な要因はあれど『10年後の仕事図鑑 』などの書籍がベストセラーとなったのも、こうした世の流れがあったのも一因だろう。

そして、こうした機運を作り出した根底には、"何でもできるドラえもん"の存在が私たちの意識の中にあったのではないだろうか。

ドラえもんのみならず、SF映画に登場するロボットなどは、例外なく万能な存在であり、私たちの中に刷り込まれた『ロボット=何でもできる存在』という意識ゆえに、実在世界におけるテクノロジーの進歩やロボットの登場が焦燥感を生み、こうした機運の高まりに繋がったのではないかと推測する。

ロボット事業に携わり始めた2年前

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さて、冒頭まで話を戻そう。今からおよそ2年前、私は念願が叶って、ロボットを取り扱うAI・ロボット推進チームへの異動が決まった。

当時の私はロボットに触れるのが初めてのいわばロボット初心者だった。人並みにドラえもんを見て育った私は、それこそ人並みに"ロボット=何でもできる存在"だと思っていたし、人並みに"ロボットは人の仕事に取って代わる存在"だと思っていた。

そんな考えとは対照的で矛盾する話だが、実際にロボットが自由自在に動き回る姿や、問いかけに応答する姿を見て感動を覚えたのも確かである。一方で、追加開発さえすれば、ある程度のことは何でもできるだろう、とも。

実際に案内ロボットの提案を始めた

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ロボットの取り扱いがスタートして程なくすると、まず初めに、コミュニケーションを軸とした案内型のLanky(写真右側)の提案を病院、介護施設、博物館、商業施設など、様々な業種・業態に進めた。

この時に意外だったのが、人に取って代わる可能性のあるロボットに対して、誰も嫌悪感を持っていなかったことである。いや、嫌悪感を持っていないと書くと少し語弊があるだろう。

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詳しく話を聞いてみると、『そもそも人が足りていないから、ロボットに仕事を奪われる心配などしなくてもよい』とのことだった。つまり、それほどまでに各業界における人手不足問題は顕著であり、猫の手も借りたいならぬ、ロボットの手も借りたいという状況だったのである。

また、お客様のロボットに対する要求が高かったのも印象的だった。要するに"ドラえもん"のようなロボットを求めるクライアント様が多かったのである。以下にて具体的な要求レベルを記載したいと思う。

・ロボット自身がエレベーターに乗り、多階層を自律走行で移動する
・搭載するカメラで不審な行動を検知し、管理者に通知を送る
・顔認証を活用して入退館管理を行う
・ロボットに声掛けすることで空調管理をする

いずれの項目も技術的な観点から考えると可能である。そう考えるとテクノロジーの進歩は大変すばらしいものがあると感心せざるを得ない。

一方で、これらの要求レベルを満たすとなると、既存システムとの連携や、新たなソフトウェア開発が伴うため、コスト面で折り合いがつかなくなってしまうのである。要は、お金さえ積めばドラえもんに近しいレベルのロボットを作れるけれど、費用対効果で折り合いがつかないのである。

これはある種"ドラえもん"や"SF映画"の弊害だと感じている。私たちは、幼少時代から作品を通じて"ロボット"や"それに近しいもの"に触れてきているため、自然とロボットに求めるレベルが高くなっているのではなかろうか。

こうした事情から、私たちは注力する製品を案内型のLankyから、使いどころがより明確な配膳型のLanky Porterへと移行することになった。

飲食業界に提案を始めた1年前

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前述した理由により、2021年6月頃からは、用途や必要とされる機能がより明確な配膳ロボットを主に飲食業界に向けて提案していくこととなった。

飲食業界においても人手不足は深刻な問題であり、他の業界同様に"ロボットが人に取って代わる可能性"を懸念する人は誰一人として見当たらなかった。むしろ、今ある機能を使ってどのように運用に載せていくか、具体的には、ロボットに任せられる業務範囲はどの部分で、スタッフがしなければならない領域はどこなのか、という観点で話は進み、費用対効果の折り合いもつきやすかった。

また、お店に訪れるお客様の反応も総じてポジティブなものだった。物珍しさからか、ロボットが配送する様子を動画で撮影する人。『あのロボットで運んでほしい!』と、指名を入れる子供たち。ロボットがきっかけで話が盛り上がるグループ。

これらはお客様アンケートにも結果として表れており、ポジティブな意見は多数あれど、ネガティブな意見は全くと言っていいほど見当たらなかった。

ロボット事業に携わって初めて分かったこと

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『ロボットが人間の仕事や雇用を奪う』『ロボットには温もりがない』といった意見を聞くことは多いが、果たしてそれは本当だろうか?

少なくとも私がこの2年間、ロボット業界に身を置いてきた中でこのようなことを感じる機会は一度もなかった。ロボットが人をサポートすることはあっても、人の仕事を奪うまでには至らないのではないだろうか。ロボットに人のような温もりはなくとも、ロボットならではの愛らしさがあるのではないだろうか。

もちろん、今後、想像を超えるスピードで技術革新が起こり、複雑なシステム構築が低価格で実現できるようになれば、話は変わるかもしれない。

だが、近しい未来において、"ドラえもん"のような万能なロボットが生まれることは、まず起こり得ないだろう。私たちにとって大切なのは、『ロボットに仕事を奪われないためにどうするか』ではなく、『どのようにロボットと協働していくか』ではないだろうか。



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