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公社流体力学賞2023(演劇、年間ベスト)

年末恒例の演劇賞、公社流体力学賞。
私が観た作品の中から毎年候補5つを挙げてその中から年間最優秀を選ぶ。選考基準は私が好き。
尚、賞として箔をつけたくなったので賞金を出します。
5248円。5(コ)2(ウ)4(シ)8(ャ)の語呂合わせ。
去年のを貼っておきます。

ゴキブリコンビナート、東京にこにこちゃん、
幻灯劇場、やみ・あがりシアター に続く第5回は誰だ。
公演順に並べます。感想記事を書いてるところはそこのリンク張っておきます。尚、候補回数も書いときます。

劇団ヅッカ『祭典:RAKUDA』(2年連続2回目)
脚本・演出:マツモトタクロウ(会場:早稲田小劇場どらま館)
3/3〜6
昨年、謎の演劇で突如現れた劇団の正式な旗揚げ公演。少女を主役にした映画を撮ると言う青春劇だが、物語が繰り返されつつ徐々に明かされる情報、繰り返される「ハロー・ミスター・モンキー」、繰り返されるまだ死んでいない、突然の役柄交換、。エンタメ的な外見で、リフレインを使った独自の脳内世界を作り出す。前作は習作なのに年間ベストに入ったので、本公演となれば流石の面白さ。


東京にこにこちゃん『またね?ばけものかぞく』(2年連続3回目)
作・演出/萩田頌豊与(会場:座・高円寺)
3/15〜16
1時間演劇のショーケースイベントで上演された中編。田舎に引っ越してきた父娘、娘は少女と仲良くなるが彼女の一家は村八分の扱いを受けていた。陰湿な田舎モノで、個人的な好き嫌いで差別がまかり通る地獄、そしてそこから始まる悲劇。しかし、そこはにこにこちゃん。ナンセンスギャグが乱れ飛び、馬鹿な駐在は不死身だし、最後は巨大な炎の巨人と戦うスペクタクル。超アナログで高度数千メートルからのダイブを表現、人力フルパワーのシーンでトホホと爽快さのミックス。そしてたどり着く家族愛。


排気口/中村ボリ企画 『人足寄場』(初候補)
作・演出/菊地穂波(会場:荻窪小劇場)
4/5~9
民俗学の調査に来た女、現地で協力してくれてる家に怪しい霊能力者がやってくる。この家には悪霊がいるらしいが。
頭のねじが外れた連中による、倫理観ゼロのナンセンスギャグ乱れうち。バカ連発をしていると次第に不気味が漂ってくる。この家に隠された悲劇が明らかになった時にはもう遅い。恐怖は、逃れようのない場所まで来ており邪悪にどっぷり頭まで浸かっている。ソレの姿は現れないが、だからこそあのラストシーン一体どんな姿になっているのか恐ろしい。姿見えぬ声があんなに怖い物だとは。

令和座『大麻を吸おうよ』(初候補)
作・演出/浅間伸一郎 (会場:Performing Gallery & Cafe 絵空箱)
6/9~11
大麻ディーラーの兄に対する妹の歪んだ感情と、大麻が生んだ因縁を描く。
物語としては人間ドラマ、のはずなのだが何だか様子が変。間をたっぷり生かした演出が静かな演劇ではなく奇妙な演劇へと導く。喧嘩っ早い大麻ディーラーが作中一の常識人でツッコミ役、つまり周囲の人物たちがそれだけおかしい。笑いが起きるものの、別にナンセンスコメディという訳ではない。この演劇はどこへ向かっていくのか観劇中分からず、見終わった後ジャンルは一体何なのか分からない。これは令和座というジャンル。

TeXi’s『夢のナカのもくもく』(初候補)
作・演出/テヅカアヤノ
12/26〜31 (会場:北千住 BUoY 2F)
とある学校で、盲目の少女に惹かれる。応援するのは彼女が推しだから。その周りには友人たちがそれぞれの人間関係を抱えていて。
元々、せんがわ劇場演劇コンクールで上演した短編を長編化。という話だったが全くの別物。『春琴抄』をベースに献身というテーマを、学校の中での親密な交友関係として描く。特徴的なのは2つのギャラリーを移動しながら上演し同時進行で進む。観客はギャラリーを移動しながらそれを見る。同じ場所でも2組の会話が同時進行で進む。学校という場所では巻き起こる群像劇をリアルタイムで描く。

今年もかなりいい年で、惜しかった次点5作品は
お寿司『ヘレンとgesuidou』
コンプソンズ『愛を語るときは静かにしてくれ』
優しい劇団『マイ・エクスプロージョン』

7度『胎内』
ダダルズ『袋破裂』
特にお寿司は本当に数時間前まで候補に入っていた。ところが年末で滑り込んできたTeXi’sとの激闘で悩みに悩んで、惜しくも候補圏外となった(つまり、上半期ベストがそのまま年間ベストになるかもしれなかった)。
いやぁ難しかった。

さて、実は長編以上に豊作だったものがある。そう短編だ。
今年もショーケースやコンクール、短編集でたくさんの短編が上演された。高品質な作品が多い当たり年となったが
なのに、演劇界では短編を評価する仕組みがない
ということで公社賞発表の前にアレやります。

【 短編部門 】
尚、短編賞は賞金3000円。何故3000円かというと
短編⇒TANPEN⇒ANEN⇒SANEN⇒SANZEN⇒3000 だから。
劇団どろんこプロレス、中陣剛佑、幻灯劇場、盛夏火 
に続く劇団はどこか。

例によってトップ5のランキング形式でお送りする。
のだが、激戦過ぎて最初に5位が同率で2作品ある。


● 同率5位 
かきあげ団
「団長さんの犯罪撲滅コンテンポラリーダンスと団員の厚紙配り」 
(オルギア視聴覚室vol.6)
団長が財布を盗まれた時の経験を団員が読み上げ、その横で団長が無言の謎ダンス。東京小劇場のナンセンス裏番長、待望の新作は想像の斜め上の謎パフォーマンス。切実な体験なのに、どこかずれている団長の言葉と無感情で読み上げる団員の謎ケミストリー。
最後に団員名刺配ります、島崎和歌子の。

● 同率5位 
三枚組絵シリーズ「洋間」
(『洋間たち』)
友人に会いに行く計画を立てる。友人の家にある洋間とその家にいる人の話。
三つの短編から繋がりを作るユニット。今ここにいない人の話から、正体の分からない奇妙が立ち上がる。他人の家って外から見ると不思議なことがあったりして、案外理由を聞いたら大したことないのかもしれないが正体が明かされないのでずっと不思議でモヤモヤ。家にいる女の人のイメージがずっとこびりつく。

● 4位
中村ナツ子の深淵 「幸せな結末」
オルギア視聴覚室vol.6)
元AV製作者(企画立案など)で、現在ラジオDJも行う女優の中村ナツ子。彼女のラジオ公開収録をアシスタント男性と共に行う。AV制作時の面白エピソードを語る中村だが、アシスタントのリアクションが明らかにおかしい。すると彼が独白をし始める。
最初の中村についての説明は本当。だから、最初は本当にただの中村の実体験下ネタトーク。それがまさかの感動作へと変貌する。作中の伏線を回収し、想像通りの結末へ。でも、その結末へ行く理由が明かされた瞬間もう涙が止まらない。ラジオと大瀧詠一へ捧げる。

● 3位
演劇ユニットせのび 「リバー」
(せんがわ劇場演劇コンクール)
仙川駅からせんがわ劇場へタクシーへ移動する女性。そこで思い出すのは地元の記憶。たわいのない友人との会話、そして震災の傷跡。
岩手県の劇団が、今年若手演劇人三冠すべてに選出。無冠で終わったが、これは受賞なしがあり得ない傑作。枠になっている布が次々と変化し、被害を受けた東北の地へ変貌する。舞台の上だけでなく舞台の下まで隅々まで使って、描かれるのは記憶の質感。人の記憶は不定形で流動的に次々変化していく。これを布などの物質的表現で再現してしまう。記憶を物質化してんだよ、凄いよ。

● 2位
令和座 「ゲルニカの聖水」
(劇的な葬儀)
履歴書を持ってバーへ面接に来た女。しかし、奇妙な男がオーナーを務めるその店では、常識の通用しない出来事が起こる。
長編に続き短編で2作目のTOP5入り。今年は令和座の年だった。沈黙を生かしつつも、何が起こるか全く理解できない極上のナンセンスコメディ。雰囲気はシリアス、でも起きている現象はおかしくて笑いが起きる。令和座のインパクトある間をたっぷり使った演出に、オーナーを演じるおらんだのタダモノではない存在感が乗って破壊力。

見終わった瞬間に、今年の短編賞は令和座だなと確信したし、ちょっとリーディングの準備もした。しかし、ある作品を見た瞬間最強と思われていた令和座は倒され新たなる最強の年間1位が誕生した。
それは             
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● 1位 ダダルズ「不安」
(『ダダルズ袋7月号』)
不安がたまると体の中にいるおじさんが上に上がってきてしまうので、不安を取り除くために占いへ行くが。
まず、テキストが面白い。生きづらさが主題の作品だが、その生きづらさが殻の中にいるおっさんとして表現され、上手く生きられない自分をマリオ―カートでわざと壁に激突させるキノピオとして表現する。ワードのチョイスが一つ一つ突飛でありガロ漫画を彷彿とさせる。しかし、きちんと観客が光景を想像できる表現力で、会場に笑いが爆発する。
それに加え、主宰で作・演出・出演を務める大石恵美の存在感。ユーモアに包んだ生きづらさを生々しいマシンガントークで観客に向けて射撃。その毒舌は必死の叫びだからこそ、ナンセンスな世界観が増幅する。

という訳で、短編賞はダダルズでした。

公社流体力学、演劇クロスレビューという無名の若手をレビューする批評企画を行なっているが毎年恒例の年末企画、
この若手劇団を見よ! 2023@東京 を今年もやりました。
レビュアー3人による、2023年の若手劇団総括。

さて公社流体力学は、演劇は空間芸術であるので空間芸術も演劇といえる、という思想を持っている。そういう意味で演劇として語りたい展覧会は
chim↑pom『ナラッキー』新宿王城ビル)
は、ビル一つを丸々美術館に改造し、ビルの中のサーチライトが天井を突き破り天高くまで貫くまでを自らビルを歩くことによって、“体験”。このビル、新宿という町の歴史やカルチャーが詰め込まれたこのビルには物語が詰め込まれている。
大巻伸嗣『Interface of Being 真空のゆらぎ』(国立新美術館)
は、8mはあろう巨大なランタンの中を上下する照明によって展示室の中を照らす。すると床に詩が現れては消滅を繰り返す。これを過ぎると、数十メートルはある大きな展示室横いっぱいに布が広がる。送風機によって揺れる布によって、六本木の室内に荒波が出現する。大巻はダンス公演の舞台美術を手掛けているため、特別企画として展示の中でダンサーが躍る。私が観たときは白井剛が、花嫁の滑降して布の荒波の中へ進んでいき、脱皮する。布によって姿が現れたり消えたり、その状態で踊る白井は幻想的で今見ているものが現実なのか感覚がつかめない。照明がより強い力を与えており、美術展示ではなく完全に舞台照明だった。

2023年も芸能界はパワハラ・セクハラ問題に揺れて、演劇界も同じ。公社に一生行かない劇場が出来た。芸術監督はさっさと問題解決しなさいよ。何のための監督なのか。

公社流体力学は、ミッシェリーの魔法‐1928年、ラジオジャック‐を上演。iPadを使った演劇史エンターテイメント演劇。最終的には肉体国司をするパワー演劇になったわけだ。それは、原作が東京にこにこちゃんの萩田さんの演劇史小説だから。やはりにこにこちゃんよろしくエネルギーが爆発する演劇になることに。
ただ、2023年は私生活の事情によってこの公演のみでイベントも行えなかった。ほとんど活動ができなかった。
この私生活の事情とは何か。
それは2024年上演の最新作『上演したら死ぬ演劇』で明かされます。
この事情、オカルト関連です。


さて、そんなこんなでいよいよ結論。
2023年。その作品を見たときからこれは年間ベストだと確信した。
それは、リフレイン青春劇か、爆発する陰湿な田舎か、ナンセンスから湧き上がる恐怖か、ジャンル分け不能の怪作か、回遊型群像劇か

           受賞作は、
             
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           令和座
         『大麻を吸おうよ』

今年の主役は、令和座でした。

そんな令和座とダダルズには賞金を差し上げます。

公社流体力学賞授賞式
1/27(会場:ときわ座)
公社流体力学が選んだ 2023年一番面白かった作品に賞金をあげちゃう。
一番面白い作品を公社流体力学でリーディングあなたが見逃した傑作をリバイバル上演。


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