見出し画像

30

「春の見本」
春がもともともっている
いろを下地に
四月の花粉と上昇気流と
土壌のにおいと水蒸気が
透過性のあるブルーのなかで
撹拌され
そらのあちこちに
気泡性の眠剤が生成されて
浮かんでいる

春のおそらの見本に
丁度いいなと
現地採用の助手は
ぱしゃぱしゃと写真をとる
異国のカタカナの大学からきた
フロラ先生は時々立ち止まり
うんうんふんふん言いながら
(四季のカタログ監修を任されている)
せっせとはたらいている

四月の日光は
やわらかいひかりのおびになって
樹木のあいだから
なんぼんもすとんと着地する

(今どき
 いちまいの絵のようなサンプルは珍しい)

(三月から脱皮したかぜは
 まだどこかでとぐろを巻いて
 居残っているな)

採集した三角フラスコの景色は
ピンクいろにぼうっと発光し
春特有の眠気と粘性を帯びた
有機物が流体になって沈澱している






この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,225件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?