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春のサンラータン

「誕生日に何が食べたい?」

翌週に誕生日を控えた夫にリクエストをきく。
私たち夫婦はお祝いの日、家で食べたいものを作って食べる。

「サンラータンがいい。あの、サンラータンね。」

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サンラータン、サンラータン。
我が家でいうサンラータンとは、とあるスープの専門店で春に販売されるサンラータンのこと。通称:春サンラー。

私が大好きなスープ。
4月ごろに季節限定で食べられる、まさに春の訪れを告げるようなスープなのだ。

スープの面に浮かぶふわふわの黄色い卵
鮮やかででつややかな緑色のきぬさや
淡くて優しい雰囲気をまとった筍
ほんのり塩気を感じさせる豚肉が入っていて食べ応えも満点
まろやかに酸がきいている透きとおったスープには少しとろみがついていて全体を包み込んでいるような味がする

本っ当に美味しいスープ。
毎年、販売されるのが待ち遠しくて。販売期間が短いからこそ、その時がくればここぞとばかりに食べに行った。

ただ。

結婚を機に引っ越しをして以来、そのお店があるエリアが生活圏から遠のいてしまった。最寄りのお店までは県をまたいで1時間以上かかるうえに、昨年の春はコロナがあって、さらに足取りが重くなってお店に行くのは叶わなかった。

でも、やっぱり食べたい。
春サンラーを食べて、春を感じたい。

そんなことを思っていたら何かが届いたのだろうか、公式サイトでレシピが公開された。これは・・・!と思い、すぐにレシピを印刷して、材料を買いに行った。春サンラーの材料は、ごくごく普通のスーパーで揃えられるものだったからありがたかった。

出汁をとる。食材を切る。調味料を計量する。
私のするひとつひとつが、大好きな春サンラーを作っているのだと思うとワクワクした。

正直、過去にも家でそれっぽいものを作ってみたことがあった。でも、どうしても「まろやかな酸」、スープの味をきめていると感じさせるあの味を再現することができなかった。

公式レシピには、私がオリジナルで作る時には分からなかった調味料が表記されていた。それを知って「なるほど、あなたがあの味を・・・!」とひざをうつ。

味見をしてみると想像以上にお店で食べていたあの、春サンラーの味がして思わず目を見開いた。

胸いっぱいに幸福感が広がって、料理に対してちょっと自信が湧いた。

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レシピは4人分。分量通りにつくると、夫婦ふたりで食べるには少し多かった。鍋いっぱいに入った春サンラーに顔のニヤニヤが止まらない。

お店で食べる春サンラーをイメージしながら、いつもより少し丁寧に盛り付けをして食卓にスープを並べる。「ん~~~、美味しいね!!!」と、嬉しそうに夫が食べてくれて、私も嬉しくなった。

「最高だよねー!」と言いながら、ここぞとばかりに春サンラーの隠し味について語ったのだった。

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初めて春サンラーを作ってから10カ月、年が明けてすぐのこと。
夫の誕生日に、文字通りニコニコしながら春サンラーを作った。

大好きなスープを家で自信をもって作れるようになった
自分の好物が、家族の好物になった
ちょっと特別な日に、家族で食べたいものになった

心がポカポカして、いつもより一足早い春が私の心に訪れた気がした。

食後に鍋にスープが残っているのを確認して「明日もまた、このサンラータンが食べられると思うと幸せだねー!」なんて夫が言ってくれるものだから、嬉しくって嬉しくって「明日も一緒に食べようね!」と弾んだ声で言葉を返した。

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作ってもらって食べるだけだった料理のレシピを知るのはとても楽しい。調味料ひとつとっても、発見があって面白い。ましてや、それが自分の大好きなものだと仕上げられた時の喜びはひとしおだ。

そして、美味しいねえ、と一緒に食べてくれる家族がいることは何にも代えがたい大きな歓びにもなる。

これからも、自分や家族の好物が食べたいものから作りたいものになった時には、初めてのレシピであっても軽やかに挑戦していきたい。

そのたびに、春を迎えるような気持ちでキッチンに立ち、食卓には美味しくてあたたかな料理を並べたい。

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