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第163回 芥川龍之介賞発表を受けて

昨日第163回芥川龍之介賞が発表されました。

まだ選考委員の選評や受賞者のコメントを
あえて読んでいないのですが、
今回は受賞作が決まったことを受けての所感を書かせてください。
(文藝春秋誌上などで選評を読んでから、またあらためて考察したいと思っています)

ノミネート5作品をは、どれもが素晴らしいと思いました。
どの作品も本当に個性があって素敵だと思いました。
すべて作品の主人公に、思い入れがあります。

わたしの中では、最後に未来に向かって広がっていくような
救いがあった「アウア・エイジ」が一番好きでした。
舞台となった飯田橋や千葉方面の土地勘に、近さを感じたのもあったかもしれません。

そうしたことを除けば、ほぼ横並びだったと思います。

自分がもし選考委員となったとしたらと考えてみると
やはり時代を象徴するようなもの、
あまり文学に興味がない人にも訴えかけられる、ある程度キャッチーなものを
受賞作に求めだろうと思います。
特に今回のようにどの作品もレベルが高いとなった場合にはそうなると思います。

そうした点では「首里の馬」が一つ出ていたと思います。
またそうした点だけで考えていみると、「赤い砂を蹴る」は厳しいと思いました。

「首里の馬」は沖縄が舞台になっていることが大きかったと思います。
個別の書評では触れなかったのですが
「首里」と言う文字を見た時、わたしもを期待しました。
この期待とは沖縄からの何かしらのメッセージでした。
もしかしたらサイードのようなものを期待してたのかもしれません。
ただこの点に関しては、期待はずれでした。
というのも主人公未名子の沖縄に対する思い軽かったからです。
しかしかえってこの軽さが私にとってはリアルでした。
というのも未名子が感じたように、
ある歴史や文化が、自分が思っている以上に評価されていなと感じることは確かにあって、
未名子と同じような発想に至るだろうと思ったからです。
それを地元の人がけっして諸手を挙げて歓迎されるとは限らないと、いうこともあるだろうし、
もっというと、(作品とは別の展開として)歓迎できないけれど、その思い込みが、地元のアピールや、経済的な貢献につながることもあるだろうし、
そしてもしそうした貢献が、地元でも歴史や文化にさほど関心がない人から見れば
利用価値があるものになって、これがいわゆる「創られた伝統」になるかもしれない・・・
作品を読みながらこんな事を考えていました。
未名子がデジタルスキャンに満足したいた事や、クイズに対する姿勢なども、
ポジティブに捉えていることなどもわたしが軽いと感じたところでした。
でも繰り返しますがこの軽さが自分にとってリアルなんです。
きっと自分にも、自分では大したことをやったつもりにとなっているけれども
世の中からみれば、なんて軽いんだと思うこともあると思ったからです。
これが作者の意図だとは思わないのですが、
それでも自分にとってはいろんなことを考えさせくれたから楽しかったのです。

「破局」は陽介を始めとして、各登場人物の個性をかなりデフォルメして、誇張していると感じました。この文体がどのように評価されるのか気になっていました。
いくつかの書評をみてもこの点についてはあまり評価されていなかったと思います。
特にこの作品を女性がどのように評価するのもの興味があります。
というのも麻衣子や灯の描き方と膝のそれとの対比で考えると
感情の動き方が唐突すぎるからと思ったからです。
言い換えれば雑に描いているようにも感じたからです。
なので、なかなか女性からの評価は厳しいのではないかとも考えました。
わたしはこの作品は一種の舞台作品のようにメリハリをはっきりさせているものと思いました。
麻衣子も灯も現実には、まったくいそうにないけれども、
舞台の登場人物のそれと同じように感じていましたから、
あまり違和感なく楽しめていました。
ただこうした点がアレルギーのようなものを生むかもしれないから、
こうした点を見て、受賞は無いかなとも考えていました。

個人的な好き嫌いを除けば「アキちゃん」が結構有力だと思っていました。
社会的に保護されるべきだといわれている存在から、
逆にいわれのない攻撃を受けた時にどうするか、
といった結構難しい問題を扱っていると思ったからです。
ただ構成上、最後のところ、成長したミッカーが、
アキちゃんとのやり取りについての振り返りを、
もう少しボリュームが有ったほうが、
主題がもう少しはっきりしたかもしれないと思いました。
もっともこの考えは私が想像した主題が正しかったらの話ですが。


ここから個人的なことを書きますね。
私は以前別のブログで「文芸誌の旅」を書いていましたが、
久しく遠ざかっていました。

でもずっと書きたいと思っていたところ
第163回芥川賞が目の前にあったので
候補5作品を読んで、媒体もNoteに変えて書いてみようと思っていたところでした。
そうしたら5作品すべてが楽しくて、
あらためて小説を読んでそれについて書くことの楽しみを実感いたしました。

だから本当に
5人の作家と5作品に心から御礼を言いたいと思います。

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