見出し画像

2021年5月に読んだ本

2021年5月に読んだ本

画像1

1 東浩紀『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』
東浩紀の博論。よく引用や参考文献に出てくるので読んだが、難しかった。買ったのはたしか吉祥寺の古書百年。

2 ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』
岸本佐知子の訳書、帯の「ダメ人間たちの優しさや尊厳を笑いとともに描く傑作短編集」というコピーに魅かれて荻窪のTitleで購入。
面白かった。登場人物たちのダメさが切ない。アメリカの小説は伝統や歴史の重みがない分、個人が自己責任でアメリカンドリームを夢見てやらかしがちな気がする。個人的には「センブリカ・ガール日記」が一番好きだったかな。言葉遣いが汚いのがいいね。

3 多和田葉子『ゴットハルト鉄道』
多和田葉子を一冊読んでみたくて川上未映子がはじめての小説を書く前に写経したと言っていた「ゴットハルト鉄道」をずっと探していたところ、単行本初版を西荻窪・音羽堂にて2000円で発見、購入。
表題作「ゴットハルト鉄道」はそうでもないが、他の2編の収録作「無精卵」「隅田川の皺男」は真綿で首を絞められているような息苦しさを感じた。この息苦しさ、古井由吉の『杳子・妻隠』を読んだときに感じたものと同質だ。

4 ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』
『十二月の十日』が面白かったのでAmazonで買ってみた。
設定は滑稽なのだけどテーマがジェノサイド、あんまり笑えない。

5 ヴィクトリア・マス『狂女たちの舞踏会』
19世紀末パリの精神病院が舞台の小説ということで、フーコーの『狂気の歴史』で卒論を書いた私としては読まないわけにはいかない。西荻窪・今野書店にて購入。
患者と医師・看護師に明確な線引きなどあるわけもなく、主に服装で分けられているだけであること、パリ中でここ以上に最悪な場所はないと言われているような精神病院でもここから出たくない人もいること、マイノリティの中のマイノリティの声も拾いながらさまざまな角度から丁寧に書かれた面白い小説だった。これがデビュー作とのこと。早く新作が読みたいこれからが楽しみな作家。

6 森茉莉『贅沢貧乏』
ずっと読んでみたいと思っていた森茉莉のエッセイを荻窪のブックオフで購入。
森茉莉は森鴎外の娘。子どものまま大人になった稀有な人。しかし生活能力は皆無。面白い。貧乏でも一人暮らしは誰にも怒られず自分の好きなものを好きなだけ楽しめる、ワンルームファンタジー、夢の暮らしなのだということを思い出させてくれる好著だった。

自分の好きな食事を造ること、自分の体につけるものを清潔にしておくこと、下手なお洒落をすること、自分のいる部屋を、厳密に選んだもので飾ること、楽しい空想の為に歩くこと、何かを観ること、これらのこと以外では魔利は動かない。

7 山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』
わかる人にはわかる~ってなる話なんだと思う。ロードサイド短編集。荻窪のTitleで購入。地方に生まれなくて本当によかったとまた思ってしまった。
冒頭に書いたように、読み始めはどれも共感に寄せた短編なのかと思ったのだが、最後に性別が変わる語り手や丸一年昏睡する女、めちゃめちゃに喘ぐアメリカ人などわりと突拍子もない人間も出てくる。でもやはり全体としては普通の人はどんなことを思い感じながら生きているのかを勉強するための本という印象。会話の感じが特にリアル。しかし24歳で博論を書いていてしかも半年書けないくらいで病み散らかしているという設定の語り手が出てくるのは現実味がないのでどうなんだと思った。もうちょっと調べて書くか校正で拾ってあげてくれ。

8 モナ・アワド『ファットガールをめぐる13の物語』
めちゃめちゃ面白かった。ひとりのファットガールをめぐる13の短編集。連続した話でかつクロニクルに並べられているので長編としても読めるが、一つ一つの話は独立しているので短編としても読める。西荻窪・今野書店で購入。
この物語では全体を通して、とにかく体型をめぐるこもごもがとても丁寧かつ的確に描かれている。私がこの本で一番好きなところは、主人公であるファットガール・エリザベスが痩せても幸せにならないし、また太っても幸せにならないところ。この13の物語は、ありのままを肯定すればいいなんて簡単に言うことはできないくらい「自分の身体は自分に一番近い他者なのだ」ということを改めて突きつけてくる。体形の話以外にも、同族嫌悪を抱きながらも愛してやまない母親や、長い付き合いで同じくファットガールである女友達との関係、自己肯定感の低かった学生時代から結婚、離婚を含む男遍歴など、一人の女性の半生としても非常に読み応えがある。オススメ。自分にとって本当の本当に自分らしく生きるって本当に難しい。

9 ヴァージニア・ウルフ『自分一人の部屋』
フェミニズムの名著ですね。女性にもお金と時間、それと自分一人の部屋が必要だ、それがないといいものは書けないという話。西荻窪・今野書店で購入。今まで闘ってきてくれた先人たちがいたからこそ、今のような生活があることを思う。今だって女性差別はまだまだ残っているのでよりよい未来を創りたいね。

10 瀬戸夏子『はつなつみずうみ分光器』
二十一世紀の短歌史。紀伊國屋書店新宿本店で購入。
詩にもこういうのあったらいいのにね。55冊の歌集が紹介されていてなかなか読み応えがある。特に気になったのは吉川宏志、中澤系、染野太郎。

11 米原万里『ガセネッタ&シモネッタ』
ロシア語の同時通訳者のエッセイ集。Twitterで見かけて気になりAmazonで購入。
翻訳とは違い訳を熟考できない同時通訳ならではの話やロシア語およびロシアに関する話、同時通訳界の話などどれも異世界の話で面白い。人と違う職業を選ぶ人はやはり少し変わった人が多いのもわかる。

2、5、8、特におすすめ。私の中の外国文学ブームは終わらない。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?