黒田夜雨

詩人。『もう死ねない朝が来る』(七月堂、2018年)、『光の吐瀉物、祈りに春を』(七月…

黒田夜雨

詩人。『もう死ねない朝が来る』(七月堂、2018年)、『光の吐瀉物、祈りに春を』(七月堂、2023年)

マガジン

  • 読書月報

    親の仇のように本を読む。その記録、報告書。実際敵討ちなのである。高校時代鬱で読めやんかった分を取り返すように。一冊の本は自殺の遅延である。

  • 秀作集

    割りかしよく書けている、読んでほしいnoteです。

  • 中尊寺のほおずき、金剛三昧院の梨のコンポート

    世の中には美味しいものについて書かれた食エッセイがたくさんある。不味いものより美味しいものを食べたいのと同じように、不味いものを不味そうに書いたエッセイより、美味しいものを美味しそうに書いたエッセイを読みたい。それはそうだろう。しかしここでは不味いものを不味そうに書いていく。これは食べ物の悪口エッセイだ。

最近の記事

私以外の誰にも必要とされていない言葉を書き続けること

ここ数年頓に思うのは、やはりちゃんと正当な努力をしなければならないということ。正攻法で勝てるタイプじゃなくても、いや、じゃないなら一層、正攻法で勝てるタイプのうん十倍も努力しなきゃいけないんだなと思う。結局キャリアを積んでいくと基礎力というか実力の差が出てくる。一流の人間はみんなどこかでこういうタイプの鍛錬をしていると思う。例外もいるかもしれないが、そんな言い訳をしているからいつまで経っても駄目なのだ。 村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』の名言の一つに「自分が最も欲しいも

    • 悪意の塊

      最高の恋愛は30前に、そのトラウマのあと金なし仕事なし家庭なしの三十路男は一回り歳下の女を食い漁り、40で尽きる。これが高円寺スタイルだとしたら、渋谷スタイルは金も仕事も家庭もある。けど無力感はそう変わらない。うん、でしょうね、わざわざ聞かなくても分かる。金の使い方を知っているということ、それが実家が太いということなのかもしれない。つまりベンチャー成金は金の使い方を知らない。この違いはなかなか手痛いなと思った。残酷といえば残酷だな。中年になってからジムに通い出し、衰えてきた男

      • 白物家電は抱けない

        「どした?話聞こうか?」じゃないが女の悩みを積極的に聞こうとする男は大抵性欲。弱っているところをつけこもうとしてくる奴もまた弱っている。てめえもさっさと人生を台無しにしちまえばいいのだ。扇風機程度の知能しかないくせに、何がマイナスイオンだ。冷蔵庫みたいな男に感情を抱けと言われても困る。空っぽのくせに図体だけデカい。どちらにしろ白物家電は抱けない。生理的に受け付けない。「近づいたら動き出すエスカレーターみたいな人って苦手なの」と書いたのは乗代雄介、十七、八より。私の穴が目的なの

        • 2023年12月に読んだ本

          もはやここまで溜めてしまうともう訳が分からん。 1 永井みみ『ジョニ黒』★★★★☆ 井戸川射子と同種の筆力を感じる。ストーリーというストーリーはない小説を書けるのは羨ましい。次作も楽しみ。 2 岩浪れんじ『コーポ・ア・コーポ⑥』★★★★★ 6巻で完結らしい。最後のページにさらっと書いてあるこの漫画のモデルにもなっているという著者の話がえげつない。映画化までしてよかったね。面白い漫画でした。 3 小池正博編『はじめまして現代川柳』★★★★☆ 短歌の「私」に疲れた。詩

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        記事

          内省の天才

          たまにふっと、自分はすごい、よくやっている、信じられないくらい、これ以上ないくらいよくやっている、ということに気づき、感動する。こうやって今普通にここにいられていることがすごい、すごいとしか言いようがない。私は私のまんまこんなところまで来れたのだ。本当にすごいことだ。これが本当にすごいことであるのを私は知っている。みんな生きているだけで偉いと私は思わないが、私は生きているだけで偉い。私が生きているだけで偉いことを私は知っている。少なくとも私だけは知っているのだ。こんなに心強い

          内省の天才

          ストーリーテラーとしての才能

          ストーリーテラーとしての才能がないと言わざるを得ないだろう。みんながみんなそんなものを持ち合わせている必要はないにしても、あんな陳腐な物語に酔っ払うとはあまりにひどい。良質な物語を知らないとしか思えない。いくら何でも素養がなさすぎる。 私は自分が主人公の物語に酔っている人も、そういう主人公に群がって一緒になって酔っている人も嫌いだ。反吐が出るほど嫌いだ。私はあくまでも物語の作者だから、自分で作った物語に酔ってはいけない。もちろん、陳腐なパクりもんを語ることも許されない。

          ストーリーテラーとしての才能

          正しすぎてぞっとする

          変わってしまった人にも、あまりにも変わらない人にも苛々する。私は5年前より、3年前より、全部マシになっていて、そんなことを実感するタイミングってあんまりないけど、そんなことを実感し、ちょっとぞっとした。私はやはり間違っていなかったと確信する瞬間、うん、やっぱりちょっとぞっとする。 友達でも恋人でも、付き合っても付き合わなくても、セックスしてもしなくても、近づきすぎた人間とは別れる運命にある。これで正しかったのだと改めて分かる、分かってしまう、月日が経つ前から経った後のことが

          正しすぎてぞっとする

          愛というより癖の問題

          毒を以て毒を制すみたいな、最近あった嫌なこと全部霞むくらいには存在自体がトラウマである。飲む、歩く、話す、その人が懐かしいというよりその人といる自分が懐かしいなと思った。つまり、それは完全に過去のことだ。そして、もういらない。 それは愛というより癖の問題だ。手癖で作るからおんなじような曲ばかりできる。本人も気づききれない部分でなんか似ている。今までの作品を全部覚えさせたらAIでも作れそう。要は人格をやるだけなら心なんて別にいらないということ。そこに心込めた気になったってそれは

          愛というより癖の問題

          それは罷り通らない

          1回やると2回やっても3回やっても変わらないので何度もやるようになる。なので1回やったらもう駄目ということにする。もう駄目というのが具体的にどういうことになるかはその時々だが、これまで通りというわけにはいかないという意である。許すとか許さないとかそういう話ではない。でもやはりそれは「罷り通らない」。 許す許さないが感情、もう少し丁寧に限定すると気分、の話だとしたら、それは風が吹けば覆る可能性があるかもしれないが、罷り通る罷り通らないはもっと理性的な話で、「罷り通るべきでない

          それは罷り通らない

          表現者の甘え

          物書きや画家は基本自分一人で作品を作っているので、自分の作品に言い訳がしづらい。言い訳するのは自分一人でやってない人が多い気がする。私がよく聞くのはバンドや演劇、お笑いの人だ。作品の不出来を自分以外の人のせいにするくらいなら、一人でやれることを一人でやればいいのでは、と思ってしまう。少なくとも一度、一人芝居とか弾き語りとかしたらいいんですよ。いつも人と一緒にしか人前に立たない人は一人のつらさがわかると思う。一人でやっていると他人のせいにはできない。 いまだに見るのだが、「今

          表現者の甘え

          2023年11月に読んだ本

          1 稲垣栄洋『面白くて眠れなくなる植物学』★★★★☆ YouTubeのゲームさんぽで見つけた面白おじさん。アブは黄色い花が好きで、ハチは紫色の花が好き。アブは春早くに行動し始めるのと、ハチより頭が悪くのべつ幕無しに蜜を吸うので、黄色い花を咲かせる菜の花などは他の花より一足早く一面に咲く。紫の花は頭のいいハチだけに蜜を吸わせるために複雑な構造をしている。とか、そういう雑学的な話がいっぱい書いてあって面白い。 2 井戸川射子『共に明るい』★★★★☆ 井戸川射子、とてもよい。

          2023年11月に読んだ本

          「何が」変わっているのか、変わっているから「どう」なのか

          「誰々って変わってるよね」「え別に変わってなくない?」というような会話を、私は今までうん万回としてきた気がするが、結論変わっているかいないかでは人の何をも言い表せない。ゆえにこの類いの会話は不毛だ。無意味。 人はどんな人も多かれ少なかれ「普通」なところと「普通でない」ところを併せ持っている。もう少し何について言及しているのか限定してくれないと、何が言いたいのか分からない。何も言えてない発言に適当に同調するだけの会話って堪らなく苛々する。 しかし日常会話において誰々って変わ

          「何が」変わっているのか、変わっているから「どう」なのか

          この星に生まれて

          話したら楽になるかと思いきや、逆にしんどなってあかん、あかんわ。やっぱり一睡もできず10時八王子の仕事へ、こんな日に限って10時八王子、仕事としては別にそんなにキツないねんけど昨日は死ぬほど暑くて、頭おかしなってるときに三鷹は通過するのだってNGやし、でもちゃんとこなした。で、昼過ぎ帰ってきて、ほんの数時間の外出で全身汗疹なっててタイみたいやね、シャワー浴びて、仕事めっちゃあったから仕事して、ちょっとだけ寝て、ミーティングして、もうちょっとだけ寝て、仕事して、1個はあきらめて

          この星に生まれて

          バグの肉汁

          傷つけば傷つくほど、逆に気持ちよくなってしまう。そういうところがいつからか私にはあって、それがなかったら到底生きてこられなかった、まず絶対に10代は越えられなかったと思うのだが、そのおそらく10代に構築された生きるための最強「享楽システム」が暴走して、私は20代何度か死にかけた。 もう本当に傷つきすぎてこんなのとても無理だ、死んでしまう、となって数日経つと何かもう逆に気持ちよくなってきてしまう。「好き♡」みたいなイカれた慕情が肉汁のように身体から溢れ出てくるんである。ヤバいと

          バグの肉汁

          2023年10月に読んだ本

          あまりに溜めすぎて心の枷になっているので消化していく。 1 キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』カン・バンファ、ユン・ジヨン訳★★★★★ キム・チョヨプの第二短編集。第一短編集同様、とてもよかった。今の時代の小説だなと思う。他者と共同体の問題が扱われており、常に弱い立場にあるもの、マイノリティへの目線がある。特に印象的だったのは「ローラ」。自分の生まれ持った身体に違和感を感じている人たちの話で、たとえば彼らは腕が2本あることに違和を感じており、1本の方が自然、な

          2023年10月に読んだ本

          30を越えられない衝動なんて所詮その程度のものだったということよ

          熱が出た。20代前半までほとんど風邪を引くことなんてなかったしあっても熱は出なかったのに、1年半前も熱を出した。コロナ禍に入ってから2回目、就職してから2回目、 たぶん20代で2回目。1日でおさまったけど歳なのかもしれない。 この程度のことで20代の人間に「歳かもしれない」などと言われたら腹が立たないか? 私はイライラする。最近「本当に」多いのだが、20代後半ないし30代になって衰えてきたという話、マジで大嫌いなので金輪際しないでほしい。わかる〜orわかるわ…って言ってほし

          30を越えられない衝動なんて所詮その程度のものだったということよ