見出し画像

2021年3月に読んだ本

2021年3月に読んだ本

3月は気が触れたのと書いていたのとで少なめですが…。

1 イーユン・リー『黄金の少年、エメラルドの少女』
本作は『千年の祈り』のあとに出た短編集。Amazonで購入。

三人とも、孤独で悲しい人間だ。しかも、互いの悲しみを癒せはしないだろう。でも孤独を包みこむ世界を、丹精こめて作っていくことはできるのだ。

イーユン・リーはやはり短編が面白い。『千年の祈り』を読んだ後に読むといいと思う。どの作品が一番好きか決めがたいほどどれもいいのだが、あえて選ぶなら代理母問題を扱った「獄」かな。イーユン・リーは女の孤独だけでなく男の孤独も、若い人の鬱屈だけでなく、老いた人の悲壮も描けるから凄い。

2 ハン・ガン『そっと 静かに』
ハン・ガンの音楽エッセイ。Amazonで購入。
正直それほど面白くはないので、ハン・ガンが好きな人以外は読む必要はないと思う。これで邦訳されているハン・ガンの本はすべて読んでしまった。もっと読みたい。

3 イーユン・リー『さすらう者たち』
イーユン・リーはじめての長編。Amazonで購入。
面白い。すごい重厚感。イーユン・リーがよく評価されている「市井の人々の生活の描写」が長編だとより際立つ。しかし長く重いので軽い気持ちでは勧められない。短編でハマった人が読めばいいと思う。

4 絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』
ずーっと探してた!ヤリマンのヤリマンによるヤリマンのための小説。絲山秋子のデビュー作。なんと文庫も絶版なのでメルカリで購入。

私は誰とでもしてしまうのだ、好き嫌いはあまり関係ない、淋しいとかじゃない、迷わない、お互いの距離を計りあって苦しいコミュニケーションをするより寝てしまった方が自然だし楽なのだ。お酒を飲んで頃合いで「する?」と一言聞けば断る男なんて滅多なことじゃいない。だからしてしまえばそれきりで、そうやって私の周りからは男友だちが一人ずつ姿を消していくのだった。それはパンをトーストするのと同じくらい単純なことで、理由も名前もない、のっぺらぼうのトーストは食べてしまえば実にあっけらかんと何も残らないのだ。

ずっと探していた自身のヤリマンをあっけらかんと語る小説。そして何と無駄のない文章。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候、出てくる人間全員欠落していて愛おしい。とてもおすすめだが絶版。メルカリで探してください。

5 角田貴広『私たちの知らない痛み』

青山ブックセンターで発見、購入。聞いて驚くなかれ、このぺらぺらの藁半紙で2500円である。誰が買うんだ。
購入した理由は引用している文献の趣味嗜好があまりにも私の好みだったから。そしてちょうど痛みについての創作をしていたから。2500円の価値があったかどうかは分からないが、それなりに面白かったしなるほどと思った。

6 新胡桃『星に帰れよ』
前回の文藝賞優秀作。青山ブックセンターで購入。

それでも私は私の正義に従ったから、清く正しく、美しいはずなのだ。だから何で、こんなにも惨めで、幼くてがらんどうで救いのない物言いになるのか、本気で分からなかった。

この高潔さ、激情、内省の言語化、心当たりがある。16歳でこれを書いて、このあと何を書くんだろうと思った。

7 木下古栗『ポジティブシンキングの末裔』
Amazonで定価の3倍で買ってしまった。木下古栗のデビュー作短編集。おそろしいほど売れなかったとか何とか。
このあとの作品を知っているとこのあとの作品の方が面白いと思うが、デビュー作の時点で今のスタイルを確立している。ここからさらに作風を先鋭化していくと考えると凄い。只者ではない。
古書のためブックオフみたいな汗かいたおっさんだらけの満員電車みたいな匂いがしてかなり嫌だったので、紙袋に香水を撒いてその中に入れておいたら少しはマシになったが、開くとまだブックオフの匂いがする。紙は匂いを吸うな。

8 絲山秋子『袋小路の男』
絲山秋子の作品をもっと読んでいこうと思い、吉祥寺の古書防波堤で購入。
面白い。指一本触れず12年片思いしている女の話。共感してしまう。何なんだ絲山秋子。私のツボを的確に押さえてくるな。

9 水野しず『きんげんだもの』
Amazonで買ってしまった。声を出して笑ってしまう。

紙も紙の匂いがしていい匂い。

10 イーユン・リー『独りでいるより優しくて』
Amazonで購入。ある事件をきっかけに関わった三人の人生が変容していく様子を描いているのだが、十代の時点では普通だった子までその事件によって人生が変容させられていく様からそれほどの事件だったことがよくわかる。イーユン・リーは生きていくための鈍感さや冷酷さなども描くのが上手い。登場人物全員が孤独。私は前作の長編の方が好きだったかな。これで現在邦訳が出ているイーユン・リーは読み切ってしまった。早く新しい本が出るといい。

11 チョン・セラン『屋上で会いましょう』
田原町のReadin’ Writin’で購入。
現代の女性が抱える問題などをテーマにした短編集。私が好きな小説よりは文体など軽い。軽くて明るいものを読みたい人にはいいかも。舞台は現代韓国でとても現実的なのにそこにファンタジーの要素が入り込んでくる。一番好きだったのは唯一男性の一人称で語られる「ハッピー・クッキー・イヤー」。韓国に留学にいている飄々としたところのあるアフリカ人男性という設定が面白いのだと思う。

12 川上未映子『オモロマンティック・ボム』
吉祥寺の古書防波堤で購入。
これで川上未映子の単行本はおそらく全部読んだ。改めてこの人の文体がやっぱり好きだなと思った。

来月はもうちょっと読めるといい。絲山秋子、こんなに面白いんか。知らなかった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?