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175. 旅と友 後編

宿のカーテンは厚い。
7時の目覚ましで起きると部屋はまだ真っ暗だったのでジャジャジャと重いカーテンを引っ張るとカッと冬の朝日が降り注いだ。
今日も大変良くできた天気だ。

お腹はそこまで空いてないが朝ごはんをモリモリ食べ、宿の温泉には入らず出発。

ロープウェイで大涌谷へ。
昔社員旅行で行ったことがあるが、驚くほどの大雨かつひどい風で震えながら人気のない食堂で黒玉子を食べたのが唯一の思い出。
あと同僚の女の子がすべって転んでお尻をおもくそ打ってかわいそうだったこと。

ロープウェイはスイスイユラユラと進み、換気のために空いてる窓からヒョーと音を立てて風が吹き込んでいた。右手前方にそびえる富士山、振り返れば街と海、そして山を越えたところに広がる地獄のような硫黄地帯。

あれ、今なら温泉だとか火山とかいろいろわかってるけど、大昔の人は普通に地獄だと思ったたんだろう…草木は枯れ異様な匂いの黄色い結晶が高熱の蒸気ととともに吹き出すってな。

あまりに完璧なロープウェイライドを終え、大涌谷で土産物と地獄を間近に見、2日目のメイン姥子へ向かう。

秀明館という湯治場をご存知だろうか。

友人が以前に一度行ったことがあるから再訪したいと言っていたので。へぇ〜いいよ〜(でも私正直言うとあんまり温泉長いこと入るの得意じゃないんやけど)と思っていた、ら、
行ってよかった!!行ってよかった×億千万!!

ものすごい静寂。静寂とお湯とセンス。以上。

ポンプを使わずに湧き出る温泉がそのままゴツゴツ岩の湯船に溢れ、木製の楼の高い天井を見上げれば窓の外には紅葉した葉っぱが揺れるのが見える。
とにかくただただお湯に浸かり、四畳半ほどの小綺麗な座敷に戻りゴロゴロしてまた湯に入りに行くを繰り返すだけの2時間1人2000円。

え、マジで一日いれる。
本とお弁当を持ち込んでここに一日いれたらだいぶ天国が近いと思う。
子どもが大きくなって遊んでくれなくなったら夫と行こう。


天国の後は芦ノ湖へ向かい船で対岸へ渡る。
釣りのボートが寒そうでよい。
船乗り場のいかにもなレストランで適当に高いハンバーグランチなどを食べた。
こういうランチの妥協、みたいなのが出来るかどうかも旅の相手としては重要だよね。


箱根の関所跡を見て磔獄門になった人のリストなどを眺め、友人は箱根細工の小箱を買った。
前からなんとなく欲しかったとのことで、2人で中に何を入れるか考えた。

バスで箱根湯本まで戻るとなんと小田急ロマンスカーが運休!がっくり。旅をロマンで締めくくりたかったのに。

お土産を買って小田原で最後にお茶を飲んだ。
友人は今から新幹線乗らなあかんしな、とスパゲティを頼み「大盛り無料ですがどうしますか?」と聞かれ、じゃあ大盛りでと言っていた。


また年末会えるかね、と新幹線まで送り別れた。
彼女との旅で、機嫌が常に一定で朗らかである人の尊みを改めて思う。
それはもう天賦の才。私もかくありたい。

ロマンスカーが運休してると夫に伝えると「長男がなんの電車に乗るのか気にしてる」との返事が来た。

20時に家に着くと、夫が2階から「洗濯物畳んでたら寝てもうてた」と降りてきて、いまからご飯やねん、と冷蔵庫にあった麻婆豆腐の残りをレンチンし、しまったご飯がない、とサトウのご飯をこれまたレンチンしていた。
子らは美味しそうに食べていた。

ありがとうありがとうとお土産を渡してまたみんなで行こうねと約束した。

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