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ferm LIVING Stories vol.58 作家 Malene の家

今回ストーリーを語ってくれたのは、コペンハーゲン在住の Malene Lei Raben さん。作家であり、弁護士であり、庭を愛するガーデナーでもある彼女を訪ねて足を踏み入れた美しい庭は、別世界へと通じる魔法の場所でした。

〜 Malene Lei Rabenの庭 〜

多彩な顔を持つ Malene Lei Raben が、コペンハーゲン中心部にあるオアシスのような庭を案内してくれた。

Malene Lei Raben / 作家、弁護士、ガーデナー

コペンハーゲン2つの中心地に挟まれた静かな通り、カールスバーグの元醸造所の裏手には、小さな別荘や1800年代に建てられた家が並んでいる。2階建ての赤レンガの家に住むのは、Malene Lei Raben。作家であり、弁護士であり、庭を愛するガーデナーだ。


日差しの暑い夏の日、Malene は私たちを自宅の庭に迎えいれてくれた。
厚い生垣が通りの景色と庭とを隔てており、木の扉を開けて屋外のスペースに足を踏み入れると、まるで別の世界に来たかのような気分になる。
桜やリンゴ、大きなアカシアの木が、色とりどりの草花で埋め尽くされたコテージ風の花壇の間に点在する、「自然の小宇宙」が広がっているのだ。

家庭菜園には、じゃがいも、キャベツ、玉ねぎ、かぼちゃ、ラズベリーなど、おいしい植物がたくさん植えられている。
常緑樹や生垣の刈り込みによって森の中の庭と野原はミニチュア化され、それぞれのセクションの間には曲がりくねった砂利道が通っている。


その日の庭の状態をチェックしながら、Malene は私たちを出迎える。
庭を案内しながら彼女は、いくつかの色はミツバチの力による交配で決まるのだとさまざまな種類の花を指差し、説明してくれる。
ミツバチ以外にも、昆虫や鳥、コウモリまでもがここでは生き生きと暮らしている。後者は新入りで、Malene はそれぞれの種が庭全体の健康に貢献しているのだと、とても喜んでいる。ただし外来種のナメクジは別で、前の晩に外来種のナメクジが庭に遊びに来ていて驚いたという。

生い茂る緑の中を散歩していると Malene は大切そうに茂みや花壇の花を摘み取り、小さなヤシの木ほどの大きさもある腕いっぱいのルバーブと格闘している。彼女はにこやかにこれを「ガーデン・クロスフィット」と名付けた。


パラソルの日陰に座り、軽食をいただいた。ジャグには摘みたての野草のブーケが添えられている。


(Malene)
大抵の人にとっては庭の手入れってストレスなんでしょうけど、私には癒しと喜びを与えてくれるクリエイティブな空間。大地との繋がりなのです。庭が成長し、私も成長する。自然の中に身を置けば置くほど、生物の多様性や生態系、そして美しさを学ぶことでしょう。


なかなか想像しづらいのだが、これだけ熱心なガーデナーである Malene も常に自然に囲まれてきたわけではない。
彼女いわく、20年前に Villa Albion に引っ越してくる前は、園芸の才能などなかったのだそう。彼女の最新作のタイトルにもなっている『Havemenneske』(ガーデンパーソン)になるための旅路は、彼女が自分の人生を通して開拓してきたものだ。


(Malene)
小さい頃はオペラ歌手になりたかったんです。だけど結局、母親のあとを継いで弁護士になりました。


弁護士からCOO、いくつもの大手メディア企業のマネージング・ディレクターといった輝かしいポジションを歴任するほか、テレビやフリーランスの論評作家としても活躍していた。


(Malene)
私の仕事は、クリエイティブな人たちの仕事を円滑にすること。でも、私自身がクリエイティブになりたかったんです。


2017年、Malene は専業作家になるという夢を追うため快適な会社勤めに別れを告げた。


(Malene)
会社員としての自分のキャリアにうんざりしたんです。フルタイムの仕事を捨てて一歩踏み出すということは、地位や安定にさよならして不確実性を受け入れるということ。まるで子供になって、一から歩き方を学ぶようなものです。けれど、緊張はしませんでした。それ以前の方が、居心地の悪い殻に閉じこもっていて、もっと緊張していましたね。解雇など、タフでボス的な存在に順応しなければならなかったので。今の私は、100%本来の「自分」です。


Malene が作家としてデビューしたのは2019年のことだ。
自伝的小説『Fruen』は、彼女が過ごした1970年代のフラワーパワー時代について書かれている。


(Malene)
最初はもっとフィクションの小説を書こうとしたんです。けれど、そのアイディアをすべて捨てて、はじめから書きなおしました。真実であり、誠実であり、良いものにしようと思ったら、書くのは本当に難しいこと。あなた自身の声に忠実でなければいけません。恥や自己批判を捨て去らなければいけないのです。そういうものを会社に持ち込んだら、もう負けなんですよ。自分の味方になるしかない。私はこれまで、自分の味方にならないように過ごしてきてしまいました。世界中の人はあなたを批判することができます。でも、あなた自身がそれをするべきじゃない。あなたの声には意味があるのだと、信じてあげてください。


Malene は最初の本を出版し評論家たちから大きな賞賛を受けたのち、新たな小説に着手しはじめた。だが、そこにコロナが蔓延。彼女の表現がぴったりなように『Alle gik udenfor(みんな出て行った)』。そして、次回作の構想は生まれたのだ。


(Malene)
庭の重要性はさらに増しました。
そこでは、安全で、生きていることを感じられたのです。自分が世界的なパンデミックの真っ只中にいるということを、忘れることができました。ただ、どうしてこんなにも魅力的なのかが私にはわからない。なので、その理由を探ってみたんです。観葉植物を枯らす人から外で過ごす人になるには、どうすればいいのでしょう?ガーデナーになるまでの道のり、つまり実践と感情の旅を探求したかったのです。


Malene は最新作で、ガーデニングの新しい楽しみ方を提案している。従来の実践的なアプローチをテーマに扱う代わりに(そんなものはすでにたくさんある。しかも良いものが!)、小説のようなガーデニング本を書くことにしたのだ。Malene は人と庭の歴史的な発展と文化的関係について調査し、私たちと自然との関係が長年にわたってどのように変化してきたのか観察している。


(Malene)
庭は、都市と自然の中間にあるものです。かつては野生動物や敵から身を守るためのものでしたが、現在人は、騒音や都市といった近代社会から身を守り、野生動物を保護するためにも利用しています。今、私たちは自然から遠ざかってしまっています。けれど庭では自然の中に没頭し、私たち人間も自然の一部に過ぎないことを発見するのです。


いかがでしたでしょうか。
風にそよぐ木々のざわめきや草花の香りが、画像越しでも感じられそうなほど生き生きとした彼女の庭。深い愛情を感じるこの庭はまるで別世界で、一度足を踏み入れたら、もう帰りたくない、なんて思ってしまいそうです。赤レンガのおうちとのバランスも見事ですよね。

なんとも気持ちの良さそうなあのハンモック、寝転がってウトウトとまどろんでみたいです。階段からテラスにかけてポットやプラントボックスを使って植物をグラデーションのように配置しているのも素敵。家と庭の一体感をより感じます。

そして、なにより印象的だったのが「自分の声には意味があり、重要なのだと信じてあげてほしい」というMaleneさんの言葉。すごくパワーがありますよね。庭はきっと彼女にとって自分の心に耳をすませる場所であり、自分自身を勇気づける場所であり、これから生きる未来が詰まった場所なのだろうと感じました。

それでは次回もお楽しみに。

Maleneの庭に登場したアイテムはこちら
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