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そんなに慌てなさんな

「え? 降りようとしている時に、ボタン押されちゃうの?」
「いや、たぶんボタンに触れているだけで、降りかけたら押すんじゃないかな?」
「どっちにしても、すごく嫌な感じだよ。」
「さっさと降りろって言われてるようなもんだよね。」
皆、うんうん頷きます。

八月の最後の日、 のんびり昼下がりの こざるカフェ、
ラジオから聴こえてきたエレベーターの話で、こざる達は盛り上がっています。

「エレベーターに乗った時に、閉めるボタンを押さないようにするっていうお便りがあって…」
「何でかっていうと、今は 他の人が降りる前から、閉めるボタンを押そうとする人がいて…」
「そうすると、焦って降りなきゃならないような感じがするからって。」

エレペーターのドアは、閉めるボタンを押さなくても自動でちゃんと閉まりますが、
そこまで待てないという人が、降りようとする人が降りた後ではなく、
降りる前から、押す準備をしているようです。

「わずか数秒だよ!」
「でも待てないんだよ。」
「無駄な時間に感じるんじゃない?」

それでも降り終わった後なら わかりますが、
降りる前からボタンを触って待っているというのは、ちょっと…。

「自ら閉めるボタンを押して降りる人もいるんだって!」
「そういうマナーみたいになっているのかな?」
「えーっ!」
「そんなに急ぐことは何もないのになぁ。」

そう、わずか数秒です。

「そんなことに気を遣ってばかりいると、なんだか心のゆとりを失くす気がするなぁ。」
「りこちゃんに話したら、『そんなに慌てなさんな』って言うと思うよ。」
皆、うんうん頷きます。

ラジオから、ゆっくりと優しい歌声が聴こえてきます。

「水芭蕉揺れる畦道 肩並べ夢を紡いだ
流れゆく時に 笹舟を浮かべ
焼け落ちた夏の恋唄 忘れじの人は泡沫
空は夕暮れ」

森山直太朗の『夏の終わり』です。

こざる達は、静かに聴いています。

「途方に暮れたまま 降り止まぬ雨の中
貴方を待っていた 人影のない駅で
夏の終わり 夏の終わりには ただ貴方に会いたくなるの
いつかと同じ風吹き抜けるから」

「そろそろおやつにしようよ!」
「この前のアイス、まだあるよ!」
「じゃあ りこちゃん、呼んで来るねー。」

こざるちゃんが 歌いながら りこちゃんの部屋へ向かいます。

「追憶は人の心の 傷口に深く染み入り
霞立つ野辺に 夏草は茂り
あれからどれだけの時が 徒に過ぎただろうか
せせらぎのように」

「りこちゃーん、おやつにしようよ! この前食べて美味しかったアイス、クラシックソルティーキャラメル味のアイスが まだあるよ! 一緒に食べよう!」

「誰かが言いかけた 言葉寄せ集めても
誰もが忘れゆく 夏の日は帰らない
夏の祈り 夏の祈りは 妙なる蛍火の調べ
風が揺らした 風鈴の響き」

こざるカフェは、今日も ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
大型台風も心配ですね。どうぞ くれぐれも気をつけて お過ごしください。
よい毎日でありますように (^_^)

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