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幸せは人それぞれ

「曇ってきたけれど、お昼頃までは晴れていたし、雨じゃなくてよかったね。」
「風もなかったしね。」
皆、うんうん頷きます。

今日は、お昼前に りこちゃんの定期健診で病院へ行ってきたのです。
特にどこか問題がなくても、なにしろ高齢者なので、りこちゃんは定期的に病院へ行って、
先生に診てもらっています。

こざる達は、いつものように楽しく夕飯の仕度をしながら、その話をしています。

「今日は採血検査もしたんだよ。」
「どの数値もとてもよくて、りこちゃん、優秀だねーって褒められたんだよ!」

りこちゃんは、暴飲暴食をしている若い人達よりも、ずっと健康なのかもしれません。

「もう暴飲暴食しないし、規則正しく生活しているし、ストレスもないからねー。」

穏やかに のんびりと暮しています。

「ぼく達、病院で りこちゃんを車椅子にのせて 待っていたら、隣にいた女性が『大変なのに 偉いねー。』って話しかけてきたんだ。」
「この前も、そんなこと言ってなかったっけ?」
「高齢者を車椅子にのせていると、大体、そんな感じに言われるよ。」

病院の入り口には、自由に使えるようにと車椅子が用意してあります。
こざる達は、病院に行くと いつも りこちゃんを車椅子に 座らせて、そして移動します。
安全だからです。

「病院には たくさんの人がいて、すれ違う時にぶつかって よろけて 転んじゃったりしたら危ないし、移動にも安全で便利だからね。」

すると 「大変ねー」と言う人が 多いのです。
そして「(世話をして)偉いねー」と 付け足して言います。

「そんなに大変でもないんだけどねー。」
「実際のところ、りこちゃんが病院で ふらふらと頑張って杖ついて歩く方が、きっと ぼく達は大変だと思うんだ。」

常に気をつけていないとならないからです。

「りこちゃんが嫌がらないで、ちゃんと車椅子に座ってくれて、ぼく達、大助かりなんだよ。」
「それに病院に行くと知っている看護師さんに会えたりするから、りこちゃん、とっても楽しそうにしているよね。」

数年前に、りこちゃんは ここの病院に入院して手術をしたので、知っている看護師さんもいるのです。

「そうだ! ちょっと待っててー。」
こざるちゃんが そう言って、一冊の本を持ってきます。
明るいブラウンのギンガムチェックの表紙の
田村セツコさんの『おしゃれなおばあさんになる本』です。

「ちょっと読むね。」
こざるちゃんは 一節を読みます。

「年をとって大変そうとか、お気の毒って見られるんじゃなくて、内面が充実して楽しそうだっていうおばあさん。
どうしてそんなに楽しそうなんだろう?
どういうことなんだろう?
そう思うんだけど、楽しそうっていうのは、それぞれ本当に個人的なものだったりする。
(中略)
十人十色。幸せは全部違う。
みんなクセがあるじゃない?
同じ人なんて一人もいないように、同じ幸せなんてどこにもないの。
だから人のことを見たときに、『あの人は幸せだ』とか『不幸だ』とか決めつけたりするけど、
本当はわかんないと思う。ぜんぜん。
人の心の中は誰にもわからない。
わからなくてもいいのよね。細胞レベルの話ね。」

「あー、そうだよ、その通りだよ。」
「りこちゃん、いつもニコニコして楽しそうだよね。」
「うん、車椅子にのるのも楽しそうだよ!」

夕飯が出来たようです。

「りこちゃんに、夕飯、出来たよーって、呼んでくるね!」

こざるちゃんが鼻歌を歌いながら、りこちゃんの部屋へ向かいます。

「りこちゃん、もうすぐ夕飯だよ。今日は 野菜たっぷりのシチューだよ! 皆で一緒に食べよう!」


こざるカフェは、今日も ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
明日の夜から明後日にかけて、雪になるかもしれないようですね。
よい毎日でありますように (^_^)

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