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モンテッソーリ教育における運動の発達について

モンテッソーリアシスタントコース(0-3歳)を受講中です。「運動」についてのミニレポートを書かなければいけないのですが、どうにも頭が整理できず…

昨年の夏、3-6歳児コース受講中に学びをnoteでアウトプットしていたことを思い出し、久しぶりにやってみることにしました。当時も「運動」についての記事を書きました。そのリライトも兼ねてモンテッソーリ教育における運動の発達に関する考え方をまとめてみます。

堅苦しい文章になると思いますが、宜しければお付き合いください。(約5400字です。)

最初の12か月で驚異的な発達を見せる人間の子ども

今、私の手元には紅茶の入ったマグカップがあります。カップを持ち上げ、一口飲み、そしてテーブルの上に置きました。

この何の変哲もない動きの裏には体の中で、脳からの指令が神経を伝い筋肉に届き、実行されるということが起こっています。

脳からの指令が筋肉まで伝わるためにはそれらをつなぐ神経細胞が、ミエリンという特別な物質でコーティングされる必要があります。コーティングがない状態では、指令は筋肉まで伝わりません。(電源コードがカバーで覆われているのをイメージしていただけるとわかりやすいです。)

生まれたばかりの人間の赤ちゃんは首すら動かすことができません。これはまさに、コーティングが未完成の状態です(呼吸や消化に必要な一部の神経は誕生の時点でコーティング済みです。)。このコーティングは約1年かけて完成されます。もちろん直接見ることはできませんが、私たちは子どもの動きの発達を通して、その過程を感じることができます。

動物の赤ちゃんは生まれてすぐに動くことが可能です。しかし、生まれたばかりの人間の赤ちゃんができる動きと言えば、生きるために最低限必要な動きのみ、母乳を飲むために口を動かすこと、喉をつかって飲み込むこと、そして泣くことだけです。

運動能力という観点から見れば動物以下の状態、いわば無力な状態で生まれて来た赤ちゃんですが、たった1年で生き物として非常に高度な動き「歩行」が可能になります。二足歩行というのは大変高度な技術を必要とし、これこそが私たち人間の特徴ともいえます。

子どもは自然に歩けるようになりますが、特に最初の1年は子どもの運動の発達を妨げないようにできるだけ自由に動ける環境を整えてあげることが身体的な成長はもちろん、精神的な成長を促すことにもつながります。

1歳頃までの運動の発達の目安

1ヶ月頃
目の筋肉が発達する:1ヶ月頃までに目の焦点を合わせられるようになります。

2~3ヶ月頃
首が座る:見たいものが見られるようになり、身の回りを観察し始めます。

3~4ヶ月頃
手を使い始める:興味のあるものに手を伸ばす。視覚、触覚、味覚を使い確認をします。
※首をあげられるようになったらうつぶせ遊びを始めてOK(かならず見守ること)

4ヶ月頃
寝返りをうてるようになる
※自由に動ける環境を用意してあげる。例:バギーやバウンサーなど体の動きを制限するものの使用は最小限にするなど

5ヶ月頃
ズリバイをする:動けるようになることで、好奇心を満たせるようになる

6~8ヶ月頃
ハイハイをする:ズリバイからハイハイに移行します。
※ハイハイは手と目の協調運動においても非常に大切です。
一人座りもできるようになります。

9ヶ月頃
つかまり立ちをする:家具などにつかまり立つことができるようになります。

12か月頃
歩き始める:ここから自立は加速し、さらなる探求が始まります!

運動機能が発達する際、子どもが自由に動くことができれば内側からこみあげる運動への欲求が満たされ心も安定し、健全な親子分離につながります。

※この後でも触れますがこれはあくまでも目安であり、発達には個人差があります。産後疲れで冷静な判断ができない時などに、こうした目安を目にすると不安になってしまうこともあるかもしませんので、補足させていただきます。
◆個人の体験
私の息子は全体的にこの目安よりも発達が遅かったように思います。またズリバイをせず、ここにはない、逆イモムシスタイル(仰向けの状態からブリッジ、体を伸ばすを繰り返すという謎の動き)で移動をしていた時期がありました。当時、育児書にもない動きにかなり戸惑いました。

特に注目!「手の動き」

二足歩行できるのが人間の大きな特徴であると述べましたが、二足歩行が可能なことで人間は手を自由に使うことができます。

手を使うことで、環境と自発的に関わることが可能になるだけではなく、思考を表現することもできるようになります。例えば、今、私はこの文章をパソコンでタイピングしています。まさに思考を手で表現しています。さらに手を使えば絵を描くこと、物を作ることもできます。

指を出すと赤ちゃんはぎゅっと握ってくれますよね(かわいいですよね!)。掌握反射といわれるこの動きは自然に消えていき、人間の赤ちゃんはまたこの動きを改めて身に着けていきます。

3ヶ月頃から手を動かし始めた赤ちゃんは、動く手を観察しながら次第にそれが自分の体の一部であることに気がつき、4ヶ月頃から手を使うようになります。

5~6ヶ月頃には手と目の協調能力が発達し、両手を使って物をとったり、つかんだり、調べたりすることができるようになります。

9~11ヶ月頃には指を使って物をつかめるようになるだけでなく、筋肉の緊張を意図的に緩めることができるようになるのでわざと物を落とすこともあります。

その後、親指と人指し指の2本で物をつかむことができるようになるなど、より細かいものがつかめるようになっていきます。

※日本にいた時、息子が通っていたモンテッソーリ園で、シール貼りのお仕事は2本の指を使ってはがすのでこの動きの良い訓練になると教えていただきました。

赤ちゃんがこの素晴らしい手が自分のものだと気がついた時、その喜びを思う存分味わってもらいましょう。さまざまな物に触れること、さまざまな動きをすることは手と目の協調能力の発達においても重要です。

私たち大人は何ができるのか?

大前提として子どもには自然に運動能力を発達させる力が備わっているということを理解することが大切です。内側から沸き起こる動きたいという衝動、それは神経回路の完成とともに、子どもを運動へと駆り立てます。極論を言えば、自然の流れに任せるというのが一番です。

では、その中で大人は何ができるのか。まずは自由に動ける環境を整えてあげることです。世の中には子どもの発達に相反するかのように自由な動きを妨げるグッズがたくさんあります。これらの使用は極力控えるようにしましょう。

とはいえ、親御さんたちも人間、自由に動きまわる子どもをずっと見ていて何もできない、などとストレスになってしまっては元も子もありません。時に安全のために絶対に必要なものもあります(車のチャイルドシートなど)。状況なども考慮し、上手にバランスを取りつつ(私の場合は自分が笑顔でいられるかどうかを基準にしていました。)子どもの動きをなるべく妨げない環境を用意しましょう。

環境によって運動能力が発達が促されるということを常に意識することが大切だと思います。

また運動の発達は子どもの心の成長においても非常に重要です。自分でできることは子どもにとって何よりの喜びであり、自分でできたという達成感は子どもの心を満たします。そしてそれは「自分はできる」と自分に対して肯定的なイメージを抱くことにもつながります。

具体的な環境の整え方の例として、子どもが自分自身の動きを確認できるよう鏡を設置してあげたり(転倒しないようしっかりと固定する)、動きやすい服装にしてあげる、などもあります。

人間の赤ちゃんには元々運動能力を発達させる仕組みプログラムされているのでそれが最大限発揮されるよう妨げとなるものを取り除くことが大人の役割です。

そして何より大切なのは「安全」。危険がないかを常にチェックし、危ない時には止めに入る。一番の役割はここではないでしょうか。

やってはいけないこと

子どもの動きを妨げることはやめましょう。子どもの行動は一見無意味に見えます。例えば物を落とすという行動。これは先ほど述べた物をつかむ行為さらには、思った場所に物を落としたり、手をはなすという筋肉を緩める技術を自らの体で確認しているところかもしれません。まさに内から湧き上がる欲求に従った行動かもしれません。

とはいえ何度も何度もやられたら「キーッ」となりますよね。(人間だもの。)でもここで「ダメ―」「やめなさい」「何やっているの?」と強い口調で言われたら子どもは行動を否定され苦しくなってしまいます。運動の発達に必要な行動と思って黙って見守り、思う存分やらせてあげましょう

(とか言ってますけど、息子が義母の老眼鏡をつかんで落としたとき、思わず、「何やってるの?」と声を荒げてしまったのは私です。壊れちゃうものはね…バランス取るって難しいですね。)

また「これをやってはダメ」と言われ続けると自分の行動は何かいけないことをしているというネガティブなイメージにつながってしまいます。挑戦することに対して消極的になってしまう可能性もあります。反対に自由に動けることで、自分は信頼されているというメッセージを子どもは受け取ります。

先ほど発達の目安を書きましたが、あくまでも平均であり、特定の運動を子どもに強制してはいけません。個人差がありますのでその子の個性を尊重しましょう。この時期にはこれができないといけない、周りの子はもうできているからという理由で無理に子どもにやらせてるのはNGです。子どもを見守るなかでその子の中のベストなタイミングをお子さんと一緒に見つけましょう!

私の勘違い

自称モンテッソーリファンの私ですが、勘違いしていたことがあります。モンテッソーリではお掃除や洗濯、食事の準備など日常的な動きが大切とされています。これらは自立心を育てるため、また人間として生きていくために必要な作業と思っていたのですが(それももちろんありますが)、運動の発達という観点から見ても非常に大切なようです。

例えば食器を並べるという行為。大人にとっては生活に必要な行動であり、いかに効率的に並べられるかが大事になりますが、子どもにとっては運動能力を発達させるための重要な動きにもなります。そのため効率の良さよりその過程が大切です。一度にまとめてお皿を運ぶよりも1枚1枚繰り返し運ぶことで、自らのの感覚や筋肉を発達させているのです。

また、筋肉を使った行動が自分や周囲の人々の役に立つ結果(たとえば食器を並べることで皆が食事をできる環境を整えられた)という目に見える状態になるということも社会の一員であるという意識や心を満たすという点で非常に重要です。このように日常的な動きは身体的な成長はもちろんのこと精神的にも子どものにとってたくさんのメリットがあります。

これに関連する内容が、0-12歳のモンテッソーリ教師あべようこさんの記事の中でまんがで解説されており大変わかりやすいのでオススメです!

結びに(個人的な感想)

勉強が得意、運動が得意、など勉強と運動は分けて考えられている傾向があります。しかし勉強という行為も、手を動かすという運動によって可能になっている、実はつながっているのだと思いました。まさに思考を表現する作業ですよね。勉強に限った話ではありませんが、運動の発達の仕組みを学んだことで心と体は密接につながっているものだと改めて学びました。

人間だけが意図的に自分の強化したい能力を集中的に伸ばすことができるそうです。例えば、陸上選手が早く走るために、水泳選手が早く泳ぐために、それぞれ必要な筋肉を強化することなどです。こうした運動能力のカスタマイズができるのも人間の一つの特徴とのこと。無力な状態で生まれてきた赤ちゃんが、たった1年で高度な二足歩行が可能になり、さらには自らの環境に合った筋肉を発達させる、改めて人間て不思議だな、体って本当によくできているんだなと、人類の神秘を感じています。

"But mental development must be connected with movement and be dependent on it. "

―Maria Montessori
しかし、精神の発達は運動と結びつき、また運動によるものでなければなりません。

マリア・モンテッソーリ

とザックリですがまとめてみて、なんとなーく頭の中で整理できてきたような気がします。ここまでお付き合いくださった皆様ありがとうございました。レポート書けそうな気がしてきました。

お読みいただきありがとうございました。

参考文献:
Montessori, Maria. ”The Absorbent Mind.” Amsterdam, Montessori-Pierson Publishing Company, 2007.
Montanaro, Silvana Quattrocchi. ”Understanding the Human Being.” California, Nienhuis Montessori USA,1991.

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