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Onlineで日本語を教える|#6 会話レッスンの試行錯誤と学習者さんからのフィードバック

 オンラインで日本語を教えている、こゆきと申します。
ここでは、教壇に立った経験もなく、右も左もわからず右往左往しながら進んできた、マンツーマンオンライン日本語レッスンでの体験をご紹介しています。前回の記事(Onlineで日本語を教える|#5 会話レッスンでこんなことしてます)では、会話レッスンで私が作っているノートについてお話ししました。
 今日は、私の会話レッスンに対する学習者さんたちからのフィードバック、クレームやリクエストをありのままにお伝えし、これからの課題として勉強していきたいことや、改善したいことなどをお話しできたらと思います。よろしければぜひ、ご覧ください。


ご意見#1 : 話すことに集中できる

 これは私の元々の狙いでもあったので、そう感じてもらえてよかったなと思いました。自分自身が外国語のレッスンを受ける際、メモをとる余裕が全然ないからです。特に会話レッスンの場合はそうです。あわてて知らなかった単語を書き留めるくらいのことが精一杯です。
 だから、本当はなんと言えばよかったのかが、フルセンテンスでわからない、これが私の問題でした。
 この点についての学習者さんたちからのフィードバックは次のような感じです。

・先生がメモを書いてくれるので、会話に集中することができます
・間違いの訂正を見ながら話せるので、何を間違ったかわかりやすい
・すぐに訂正を書いてくれるので、会話しやすい

レッスンへの口コミやご本人からの感想を日本語で要約

 私のレッスンの場合、流れを止めて欲しい人が少ないように思います。止めて欲しいとリクエストされた場合でも、実際に誤用の確認をすると、ちょっとテンションが下がってしまう方もいます。(わかります!会話ってテンポ大事!)

 もちろん、こちらの伝え方なども工夫が必要ですが、やっぱり自分が話している時に、口頭で割り込まれるように、またはいかにも訂正ですと言ったふうに、繰り返されたりするのはあまりいい気がしないかもしれません。
 私も止める場合の止め方は気をつけています。

 画面上で見せながら修正をその場で書き込んでいますが、流れよく話せる上級者の場合は、止めて欲しいリクエストがあっても、私はあえて声に出してリキャストや訂正をしないことがあります。画面を見て自分で気づいて言い直したり、あぁそうか、と言って復唱したり、という反応があります。
 また、口頭で修正された時と比べて、自分の発話と修正後を見比べることができるので、どこを間違ったかがやっぱりわかりやすいのかなと思います。

ご意見#2 : 復習に役立つ

 ノートには必ずフルセンテンスまたは、フレーズを書きます。新出単語は、単語の意味と一緒に例文を紹介します。これはあらゆる外国語学習の段階において、個人的には有効なインプットであると考えています。使い方と意味はセットで覚える、というのは、それを実際に運用することを目的にする場合には重要です。

 最初、語彙や文法事項は分けてまとめようとしたのですが、編集の余計な手間がかかる上に、あとで見た時に会話の流れのままのほうが思い出しやすいと思ったので、出てきた順に書いてそのままお渡ししています。

 最後のまとめにしっかり時間を取れる場合は、特に重要な(というよりも実際によく使う、知っていると役に立つ)表現は、例文を解説したり、場合によって例文作りに挑戦してもらうこともあります。一度でも、使ってみて、それが正しかったと確認できたことのある言葉は、次のチャンスでは自分で使用できる可能性が高まると考えています。

・レッスンの後で、もう一度確認することができる
・文章を読んで復習できています
・復習しやすいです
・レッスンの後メモをくれるので、自習できます

レッスンへの口コミやご本人からの感想を日本語で要約

 ノートの訂正はその場では流してしまう方も多いです。あとできちんと読み返して復習してくれる人もいます。おそらく、送ったけどあまり見てないかもな、という感触のある人もいます。

 これはその人次第でいいかなと思っています。

 そもそも、大人の語学学習なので、レッスンの目的にもよりますが、明らかに非効率だとか、目的とかけ離れた学習方法だとかをしてしまっているのでない限り、こちらからこれをするべき、とか宿題として覚えてくるように、とかいう必要はないかなと思っています。ただ、レッスンを受けた意味は感じて欲しい、と思うので、「ノートを送りますが全部覚えようとしなくていいです。もし、また使いたいなと思う表現があったら覚えてみてね」みたいに伝えることが多いです。また、時間が経ってから疑問が出ることもあるので、ノートに記載した内容に関する質問は、レッスン間隔が長い方にはあとでメッセージしてくれてもいいですよ、とお伝えしています。

ご意見#3 : 類似表現を覚えられる

 私と会話レッスンをしてくださる方は上級者が多いです。会話する、自分の意見を話す、という目的だけであれば、すでに十分な運用力を持っています。ただ、実際には不自然な表現を自ら文法知識をもとに作ってしまったり(作れてしまうくらい文法を理解しているともいえますが)、自分の得意な表現が固定されてしまっていたりします。口癖のようにいつも同じ言葉を選んでしまう、という悩みのある方が多く、表現力を高めたいという目標を持つ方が多いです。そこで、私はノートには他にこんな表現があるよ、という類似表現もできるだけ書きます

・たくさん表現を教えてもらえる
・会話に役立つ言葉が増える
・表現力が上がると思う

レッスンへの口コミやご本人からの感想を日本語で要約

 たとえば、「その食べ物をよく知っていません」とおっしゃったとします。「知っている」を否定形にしたと思われますが、この場合はやっぱり「知りません」と言うべきところです。なので、この修正をまずします。なぜ、知っていませんじゃないの、という質問が出るかもしれませんが、まずはAだと思ったけど正しい用法はBだった、を知ってもらうようにしています。

 なお、これについては論文や記事がネット上にありましたので、私も実はこのレッスンの後で読んで頭を整理しました。様々な論文や記事で取り上げられており、私なりの理解では、知った後の状態を示す「知っている」の否定は、知る前の状態と同じなので「知らない」でよい、「会っていない」(=動作が未完了)「持っていない」(=一時的な状態)に対し、「知る」は動作ではなく瞬間的な知覚で、また一度知ったら、原則として知った状態がずっと続き、知らない状態には戻らないというのが、「〜ていない」という形で使える動詞とは違う、みたいなこと、です。こういう説明は、本当に難しいし、いかに簡単な言葉で短く伝えるかはずっと私の課題です。

 次に、いつも「知りません」しか口から出てこないと、ちょっと上級者としては稚拙な印象をぬぐいきれません。そこで、大人の日本語?として「馴染みがない」「聞きなれない・見慣れない」に加え、もう知っているかもしれない文型だけどここで使えますよ、と言う意味で「(あまり)〜したことがない」などを紹介します。
 「私にはあまり馴染みのない食べ物ですが〜」などをフレーズごとお伝えします。類似表現を紹介すると、元の表現との使い分けもお伝えすることになりますが、別画面で調べて確認しながらお話ししたっていいと思います(それこそオンラインレッスンで活用すべき機能だとと考えています)。
 なお、使い分けを説明する際は、使えないケースをまずお伝えするとわかってもらいやすいと感じます。でも…難しいです。

ご意見#4 : やっぱり文法説明が欲しい

 はい、ごもっともです。上記#3に書いたようなケースで、修正後のフレーズに納得がいかない?と感じる方もいらっしゃいますし、もちろんそれは仕方ありません。特にきちんと勉強を重ねてきた方ほど、「文法的な正しさ」を求めることがあります。文法として説明できる場合は、まずはシンプルに端的に説明するように心がけています。

 しかし、誤用がすべて文法的に間違っているわけではありませんよね。
その場合は、文法という観点だけでなく実際の使われ方に重点を置いてお話しすることになるかなと思います。個人的には、これは自然じゃない、とだけ伝えるような説明はしたくありません。自然ってなに、って私なら思うからです。コーパスや辞書で調べたりして、説明の根拠は信頼できるものから見つけるようにしています。
 それでも、説明がつかないものもありますね。納得してもらえないかもしれないけど、覚えるしかないものもあるので、場合によってはネイティブはこう言います、というくらいの伝え方でもいいかなと感じることもあります。ネイティブに近づきたい、という目標がある方も多いからです。

ご意見#5 : この会話に意味はあるの?

 何回かレッスンをした後で、私が上達させたいのは会話だけど、レッスンで会話がしたいわけじゃない、と言われたことがあります。体験レッスンでは、実際に会話しながら新しい言葉を覚えたい、とおっしゃっていたので、私の会話レッスンのやり方が合っているのかなと思っていたから、びっくりしてしまいました。

 これは実際のところ、体験レッスンやその後のコミュニケーションで、学習者さんのニーズを正しく把握しきれていなかったことが原因で、私のノートを作る手法の問題ではないと思っていますが、〜と言っていたからそうした、では通用しないことがあるんだな、と学びました。

 この方は上級者で、会話での意思疎通はほとんど問題がなく、語彙コントロールもほぼ不要でした。JLPT N1には数年前に合格済みで、その後日本企業でのお仕事を何年も続けてきた方です。ご本人いわく、日本人との会話は難しい、発音がはっきりしないからわからないし早口だ、知らない言葉もいっぱいあるから特に無駄話のような会話ができない、ということでした。

 そこで、会議やビジネス上の使用を前提としない会話レッスンをしようということになったのですが、この方にとってレッスンを受ける意味とは「授業らしい授業」を受けることにあったようでした。会話を続けるためのテクニックや、慣用句、流行語などを体系的に学びたい、という思いがあったのです(ということを、最後のレッスンでやっと私が理解しました)。だから、会話しながら新しい表現を紹介される、というスタイルが、授業らしくないと感じられたようでした。

 結果的に最後のレッスンとなった時に、おしゃべりしているだけで上達はしないように感じる、この会話にどんな意味がありますか?と言われました。私はノートを使う意義や、発話しないと誤用に気づけない場合があること、言おうとして初めて言えないことに気づくこと、などを説明しましたが、ノートは見ていないし、何をしたら上達するか毎回明確な指示が欲しい、私は自習ができないからレッスンを受けているのだ、とおっしゃいました。ご要望にお応えできていなかったことと、それをくみとれていなかった自分を反省しました。

今後の目標

 最後のケースではまた一方で、会話レッスンの意義や目的を最初にしっかり伝えきれていなかったことも問題だったと思いました。さらに、これをしましょう、できましたね、という明確な繰り返しが必要な方のための会話レッスンの方法を考える必要があるな、と思いました。

 私の個人的な考えだと、会話レッスンの意味・意義は、目標言語で話すことと、そこで何ができないか自分で見つけること、なので、おしゃべりしてただけで意味はない、にはならないのですが、これは人によって異なるのは当然のことでした。それをまず確認することはもちろん、ご本人の学習スタイルやビリーフにも気を配ることが必要だと思いました。
 頭ではわかっていたけど、面と向かって会話する意味がない、と言われてあぁそうだ、と改めて私も認識しました。

 レールに乗せて導いてほしい、という要望には、私の会話レッスンははっきりいって応えることはできていないと思います。なぜならノートを活用して自律的かつ自立的に勉強することを、私が勝手に想定していたからです。自分の経験に基づいた方法なら、実際のニーズに応えることができると思っていた一方で、それが主観に偏ったやり方であることにも、早く気づくべきでした。

 会話の中で見つけ出した弱みにどう対策するかを明確なアドバイスとして伝えるようにすると、導いて欲しい人のニーズにも答えられるレッスンができると思います。ご希望にあわせて、私もそのようにしています。比較を表す表現が苦手かな、という方に、このような文型を復習するといいですよ、くらいでもいいかもしれません。受け身の活用をいつも間違うな、と思ったら受け身形を作る練習だけしましょう、という時間をとるなど、です。
目的が明確であれば会話を止めることを理解してくださる方が多いです。

 ありがたいことに、現状では会話レッスンは8割くらいの方が継続して受講してくださっています。離脱する方は、実際の理由をお聞きできていない可能性がありますが、忙しくなったとか兵役のため、などとお伺いしています。本当は私の会話レッスンのやり方に飽きてしまったり、他の効果的な方法を見つけたりしたのかもしれません。

 まずは、マンネリにならない仕掛けを考えたいと思っています。また、継続して自分自身の表現力・語彙力を磨き続ける必要があると考えています。会話を続けながら類似表現を紹介し、違いを説明したり、母語や英語で話した語彙を聞き取って日本語で紹介するのは、簡単な方法ではないと思いますし(だからこそ、私はいつも笑顔の下は必死です💦)それができる方はそれを技術として高める価値があると思っています。
 日本語文法の勉強を継続することに加え、第二言語習得に関する知識、さらに様々なテーマで会話をファシリテートできる教養を深めていかなくてはいけないと思っています。多様な学習者さんの背景に配慮するための知識も必要です。

 最終的に、#5のご意見をくださった方は、購入済みのパッケージを使い切ることなく、コロナ後のリモートワークが解除されて出勤することになったからレッスン時間がとれない、という理由で受講を止めてしまわれました。
また時間ができたら戻ってきます、とまでおっしゃってくださいました。
 本当の理由は私の会話レッスンに満足できなかった、ということだと思いますが、最後に優しい嘘をついてくださったことは、私が会話レッスンを楽しんでくださっていると誤解してしまったご本人の笑顔を絶やさない穏やかな性格を考えるとさもありなん、ですがこれに甘えてはいけません。本当の理由に目を向けてしっかり対処する必要があると思いました。会話レッスンと体系的なレッスンを組み合わせるとか、ラップアップの時間を多めに取って「学ぶ・習う」時間を確保するデザインも必要かもしれません。

 ニーズに応えるという基本的なところで失敗をしてしまったわけですが、会話レッスンに限らず、ニーズや目標の変化を確認するタイミングを増やすことは必要だと痛感しました。最初のうち目標にしていたことも、いつの間にか変わっていることがあります。続けてくださる方ほど、気をつけて聞き取っていきたいと思います。


 最後まで読んでくださって、ありがとうございます。今これから始める、または今も迷いながら進んでいるみなさんと、小さなつながりが持てると嬉しいです。ご経験を積んでいらっしゃる諸先輩方におかれましては、どうか温かい目で見守ってくださると幸いです。
 それでは、また🫡


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