体験設計とプロトタイピング
製品を作ってから体験評価して、製品を(少しだけ)修正していませんか?
すばらしいUXを提供するためには、体験を明確に「設計」しておかなければなりません。体験は製品とユーザーと利用環境が偶然出会って生まれるものではなく、設計されるべきものなのです。
これまでもハードウェアやソフトウェアを開発するときには、試作品やベータ版を作り、その「機能テスト」の一環として、実際に使ってみて「体験」することはおこなわれてきました。
ユーザビリティテストが一般の会社にも広がった00年代では、機能テストのついでではなく、試作品を実際のユーザーに使ってもらうなど、使い勝手や体験品質について評価をおこない、それによって修正をすることも増えてきました。
商品コンセプト ⇒ 機能・製品設計 ⇒ 体験評価 ⇒ 設計修正
しかし、開発全体としては良い体験を提供しようと気を使っていますが、体験評価が後半にあるため、設計的に修正できる範囲は限られてしまいます。
これまで体験評価が後半に来ていたのは、いろいろな機能が実装され結合された状態でなければ体験できないため、それが出来上がった段階で初めて「こんな感じだったのか・・」というふうになることが多かったのです。
もちろんその時に「思った通り」となれば問題はないのですが、多くの場合「こんなはずではなかった」となります。
全体構想の後ですぐに体験設計をして、体験プロトタイピングをおこなうことができれば、早い段階で大きな修正をすることができますし、製品のディテール設計においてもその知見を活かしていくことができます。
商品コンセプト ⇒ 体験設計 ⇒ 体験評価 ⇒ 設計修正 ⇒ 機能・製品設計
WEBやアプリの世界では「ワイヤーフレーミング」という作業を以前からおこなっており体験設計と体験評価が実現できています。
ところが、自動車や家電、医療機器などフィジカルな活動の中で使われる機器においては、このワイヤーフレーミングがほとんど実現できていないのが実情なのではないでしょうか。
商品コンセプトを体験設計へ展開する
商品コンセプトができたら、多くの企業では「商品企画(書)」を書きます。
開発のためのお金を動かす起点になっているため「機能」「コスト」「市場(≠ユーザー)」「利益」の計画になっている場合が多いのではないかと思います。
それに対して商品コンセプトを「ユーザー」「利用状況」「体験」「価値」について詳細に検討することが体験設計です。
体験設計は、商品コンセプトの目的を達成するための手段としての体験要素へと分解していきます。
体験要素の分解が、機器の操作(インタラクション)というところまでくれば、後は製品設計としてそれを実現していくことになります。
体験設計のためのツール
体験設計も従来の製品設計と同じ設計ですので、図面にあたる「設計図」と試作にあたる「プロトタイプ」が必要です。
「ユーザー」「利用状況」「体験」「価値」を明確にして、チームで共有するために「ビジョン提案型デザイン手法」があります。従来からあるシナリオ手法を構造化して役割やコンテキストを分かりやすくしたものです。
では、しっかりと構造化して役割が明確になった次のステップとして、どうやって体験設計が正しく実現するのか確認するのでしょうか。
体験設計をプロトタイピングする
書類で体験設計ができて「なんかユーザーの役に立ちそうだ」と思えてくると、すぐに機能設計、製品設計を始めてしまいモノ作りを進めてしまいがちですが、時間やお金が何年、何億円と余裕がある場合には何度もやり直しをすれば良いのですが、そういうことはまずありませんので製品開発に進む前にそれを評価・検証しなければなりません。
機能の一部を簡単に実装してみる手段としては、電子機器ならばArduinoやRaspberryPiなどがあり、スマホアプリやWebアプリでは比較的簡単に本番環境でフレームワークを使って実装できたりします。
ただそれでは体験の一部しか見ることができません。製品やサービスを「体験」する場合には、単一の機能ではなく、一連の流れであったり、複数製品の連携、利用環境との関係性が重要になります。
PCアプリの画面遷移だけであればPowerPointを使えばよいし、加速度センサーで機械が動作するようなものならArduinoを使えば良いのですが、それらを統合し一つにまとめて、短時間にプロトタイピングしようとすると簡単にはいきません。
そうなってくると、一つ一つをプロトタイピングして結合試験をしようとすると時間もお金も直ぐになくなってしまい現実的ではありません。
一つ一つの機能をきちんと作っていくのではなく、主要な「体験要素」を切り出して作っていくプロトタイピングが必要です。
プロトタイピングの目的は、体験を評価して問題があれば修正をおこない、何度も評価と修正を繰り返せなければ意味がありませんので、新しいアイデアがでればすぐに修正することができる再利用性も重要になります。
ところが機能の一部実装ではなく、体験要素を構築して体験全体を実現でき、再利用性も持ったツールというものはあまり多くはありません。
これから体験設計の重要性を訴えて実践していくのであれば、なんらかの共通ツールとノウハウが準備されていなければならないと思います。
私が仕事で使っているのがHOTMOCKというツールです。
ハードウェアのスイッチやセンサーとGUIの表示と操作を組み合わせたUIプロトタイプを作ることができます。
細かい機能を作り込んでいくことは不得意ですが、そのことによって全体の体験を実現する方向に意識が向くようにできています。
さらにHOTMOCKと、自前で用意した環境構築キット、ハードウェアキットを組み合わせることで、実際のUXを丸ごと体験できるものを作っています。
中身はArduinoなどと同じマイコンボードであるため、さまざまな通信でコントロールしたり、開発用のプログラムから使うこともできます。
私は少し規模が大きく、凝ったプロトタイプを作る場合には、このHOTMOCKとAdobe Flash(Animate)を組み合わせて使ったりしています。(簡単に組み合わせられるライブラリが提供されている)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?