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とてつもなくズルいあざとい人



決して両思いにはなれない人
ただの片想い。
それでもいい
一目会えたら
触れられたら
そんな愚かな感情で生きるから
自分の首を絞めてしまう。


お店に顔を出せば
大きな人影が見える
周りの人より大きな人影が
私の憧れの人
私の王子様

少し低めの声と笑うとクシャッとなる笑顔。
大きな口と見上げなければいけないほどの背丈。
やめなさいって笑いながら言いつつも
私が抱きついたり血管を触ったりしても
決して拒否せずむしろ優しく受け止めてくれた。
それがズルすぎてまた貴方に恋をする。
とてつもなくズルいあざとい人。

いくつ離れているのだろう。
一回り以上?それすらも感じさせない
可愛さとかっこよさと若さと色っぽさで
私の目は釘付けになる。
ただバーカウンターに立ってるだけなのに。
今宵も虜になる。
私の目はハートだ。

王子様にはいつも取り巻きがいる。
怖い怖いお目付役。
その人は私のことが大嫌いだ。
新参者のくせに彼に抱きつくまでの
暴挙をしてみせたから。
それでも私は負けじと彼に
近づいてみせる。
我ながら大胆だと思った。
昔の私では考えられない行動力だ。
彼女の目尻がジリジリと釣り上がってるのが目の端からなんとなく見えた。

構わないの
触れられるだけで幸せなの
触れられずに私の前から去っていった
大切な人がいたから
それを思えばお目付役なんて怖くない
今この瞬間を感じたい
お願い、あともう少しだけ。

抱きついた彼はとても背が高く
私の顔は彼のみぞおちあたりだろうか
うずめて思い切り匂いを嗅ぐ。
彼は「やめなさい」と私を剥がそうとする。
けどその手は優しくて
私は「いやだ!」と駄々っ子のように
更にキツく抱きついて匂いを堪能する。
嗚呼柔軟剤の香りが鼻をくすぐる。
けど柔軟剤だけじゃない彼の匂いが混ざった
オリジナルの香りに思わずニヤける。
汗の香りすら愛おしくて。

我ながら変態だろう
匂いが好きなんだよ
安心するんだよ
声が好きなんなよ
安心するんだよ
決して細くない私の体も
受け止められる
背が高くガタイのいい体つき
安心するんだよ


あるときつらいことがあって
何も言わずに目の前にいた彼に抱きついた。
彼は何も言わずによしよしと頭をぽんぽんした。
何も言わないところに彼の勘の良さと優しさを感じてますます惚れそうになった。
嗚呼やっぱり好きだ。
好きになんてなりたくなかった。



気付けば彼はお店に顔を出さなくなった。
束の間の私の王子様は泡のように消えていった。



久しぶりに王子様のSNSを覗いた。
ネトストなんて笑っちゃう。

更新はされていなかった。
3年前で止まっていた。
投稿された過去の写真を見返す。


いつ見ても整った顔立ち。
タッパのあるガタイのいい立ち姿。
いいとこの坊ちゃんとわかりやすい実家の写真。
沢山の友達に囲まれた幸せそうな写真。
本当に私とは生きる次元が違う人なんだな。




思い出は止まったまま。

私はいまいち進むことができていない。

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