雨の音なんの音

　室内で聴く雨の音が好きだけど、あれは雨の音といっていいのだろうか。雨が屋根を打つ音と雨が物干し竿を打つ音と雨がブロック塀を打つ音と雨が庭の土や草を打つ音と、全部違う音がするから、それはもう雨の音ではなくて屋根の音、物干し竿の音、ブロック塀の音、庭の土や草の音なのではないか。
　それは例えば、エリッククラプトンの奏でるギターの音が、ギターの音なのではなく、クラプトンの音であるように。

　窓の外が騒がしい。
　目を閉じてみると意外と扇風機の音が大きく聞こえる。耳を澄ましているときは、目を閉じている気がする。雨音を聴くのなら、扇風機は電源をオフにして、目を閉じて聴くのがいいかもしれない。

　扇風機の電源を切る。
　生ぬるい空気が滞留する。
　窓辺に移動して目を閉じる。
　庭の木と土の匂いが雨音の邪魔をする。
　濡れた草の匂いはエロい。
　音にだけ集中したいのに
　スマートフォンより
　僕の集中力を削いでくる。

　癇癪を起こしたみたいに雨音が強くなる。
　雨音というよりはクラプトンの音。
　いとしのレイラのあのギターを泣いていると言ったのは誰だろう。友人はあのギターがカッコ悪くて仕方がないとバカにしていた。間違ってはいないと思うが、間違っているとも思う。カッコ悪くて仕方がないのにカッコいいという不条理がこの世の中には存在するということを僕はいとしのレイラで知った。

　相変わらず窓辺には草の濡れたエロい匂いがしている。雨が人工物と土と草を打つ音がやかましいのに心地よい。
　ハードロックって意外と眠気を誘うんですよと誰かが言っていた。確かにもっと雨足が強くなれば、僕はそれだけで眠れる気がする。
　どうせならもっともっと強く強く降ってくれよと屋根の下で無責任なことを思う僕みたいな奴のなんと多い世の中か。

　何年か前まではその無責任さが笑えたけれど、笑ってる場合じゃなくなってきたな。室内で聴く雨の音が好きだとか、僕は何を無責任なことを言っているんだろう。ぜんぶクラプトンのせいにして、僕は僕のレイラを抱いて眠ることにする。ワンダフルトゥナイト。

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