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読書の記録 澤田瞳子『火定』

新型コロナウイルス禍、我々はかつてのパンデミックについて学習しました。スペイン風邪やらペストやら。カミュの『ペスト』菊池寛の『マスク』などの小説を読み、当時、パンデミック下の人々が何を思い、どんなことをしたのかを知りました。結果、時を経ても極限下においては、人というのはいつも愚かで逞しくもあることに一喜一憂いたしました。

天平のパンデミック、天然痘が猛威を奮った寧楽(奈良)の都を舞台とする澤田瞳子『火定』も、コロナ禍の混乱を予言していた、というような触れ込みで刊行されて何年か経ってから再び注目されることになりました。

話題になったから読むって感じがイヤで、それはDEENの「瞳そらさないで」の歌詞で「約束だから海に来たって感じが一緒にいるのにさびしい」っていうところの感覚に似ているような気もするんですが、まあ、とにかく、それがなんとなくイヤだったので、しばらく置いておいたんですが、さっき、ようやく読み終えました。

遣新羅使が新羅から持ち帰ってしまった天然痘。次から次へと都の人間が死んでいくなか、なんのご利益もないお札を民に法外な値段で売りつける輩もあらわれ、やがてそれは外国人排斥を叫ぶ過激思想に転じていく。
都には明らかに医師が不足し、今でいうところの病床も足りていない。満足な治療を施せぬまま亡くなっていく患者たちを目の当たりにして医師は何を思うのか。

なんというか、筆圧、筆力、筆魂に震えます。天然痘にやられた人が死んでいく様、治療の甲斐なく死んでいった家族、遺族のやる方ない怒りが迷信を妄信するに至る様、隔離のため蔵に閉じ込められた子供たちの末路、地獄です。この地獄を描くのは相当苦しかったはずで、これを「パンデミック下の人間模様を予言してる、すげえ」なんて感想でちょっとしたバズりネタとして取り上げてしまうのって、なんかちょっと違う気がするな。読み継がれるべき傑作長編。

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