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特別展『東福寺』と本棚

 最近読んだ文章に本棚のことを書いてあるものがあり、いわく、自室に碌に読んでもない本がずらり並んでる本棚があるやろがい、と。それは別におまえさんの部屋に限った話ではなく、たいがいどこにある本棚も、読んでない本ばっかり並んどるもんや、と。読んでない本が並んどることによって「ああ、わしはまだこんなにも読んでいない本のある無知な人間なんや」と謙虚になれるもんや、と。だいたいこのようなことが書いてあった。

 展覧会も同じだと思う。京都国立博物館で開催中の特別展『東福寺』は、紅葉の名所としても有名なあの東福寺について紹介する展覧会で、創建の頃からの書物や絵図、仏像などが展示されておったのですが、まず、書物の類は何が書かれてあるのかさっぱりわからん。絵図にしたって何を描いているのかは解説を読まないとわからないし、仏像だってどんな由緒のあるものなのかは全くわからず。もちろん解説を読んで「ふむふむ」とはなるが、今これを書いている時点でほとんどのことは忘れてしまっている。

 開き直るわけではないが、展覧会なんてそれでいいんだと思う。所詮ここは深遠なる世界の入口に過ぎない。玄関の立ち話がしつこくてなかなか帰らない客人は鬱陶しい。さらっとご機嫌うかがいだけしておくくらいがちょうどええのである。そのうえで己の無知を恥じ、戒めることでそれが学びの礎となる。

 二点、印象的な展示があり、チコツという強面の僧侶の肖像画と、その隣にチコツ直筆の書が展示されていた。※チコツは非常に難しい漢字だったのでカタカナ表記にしました。ものすごい強面やのに字が下手くそで、ギャップにへらへら笑ってしまったのだが、解説を読むと、その書は晩年チコツが失明してから書いたものであった。知識が足らないことにより、真実に追いつくことができず、表層のみ観て取るに足らないしょうもないものと判断してしまっていることは多いんだろうな。

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