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短編小説『お見舞い』

 年とると周りが誰もなんにも言ってくれなくなるでしょ。そしたらさ、明らかにこっちがおかしいのにそのおかしいのが罷り通っちゃって、それが罷り通っちゃったもんだから、今度はそれが当たり前になっちゃうじゃない。そうやってしてどんどん世間とズレていっちゃう。周りにそういう大人、めちゃくちゃたくさんいるでしょ。そうならないためにどうすればいいかっていえば、やっぱりそこで大切なのが人間関係なわけ。そういう時になんにも言ってくれない人間関係しか作ってないと、もうどうしょうもなくって。だから私、心置きなくなんでも話せるお友達が何人かいるんだけど、その子たちに会うたび言ってるのは、私がおかしくなったらちゃんと言ってねってことで。そうやってして、保険をかけておかないと、本当におかしくなっちゃてからだと手遅れになっちゃうから。だから持つべきものは友っていうか、最後に拠り所になる人がいるかいないかで人生って変わると思うわけ。ありがたいことに今のところ、私はそのお友達に、あなた最近ちょっとおかしいよって言われることが無いから、あ、じゃあ私、このままでいいんだ、って安心はしてるんだけど。あなたたちも、私より若いっていっても、もう四十とかでしょ。そういうお友達がちゃんといますか、って話で。
 そういえば、こないだ新人くんが髪の毛を伸ばしっぱなしで職場でそれってどうなのって、まあ、その子はちょっとコミュニケーションが苦手な子なんだけど、そこがちょっと可愛らしいから、ちょっと姉さんがかわいがってあげよっかな、ってことで、バリカンで刈ってあげたらすごくスッキリして、ひと昔前の高校球児みたいで、切る前よりもぐっと可愛さが増しちゃったから一緒に飲みにいって、そのまま家に連れて帰っちゃったんだけど。でも彼、次の日から会社に来ないの。急に髪の毛が少なくなったから風邪引いたのかもしれない。今日はお見舞いでも行こうかな。 

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