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1人目の客になれた話 四条大宮編

令和4年9月27日

 涌井慎です。趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。本格的に趣味にしだして3年くらいでしょうか。まだコロナが始まってなかったはずです。もう、なんか、長年連れ添ってる恋人みたいになってますよね。あの時はまだ君と付き合いはじめの頃だったかな。そやそや、初めて会うたくらいの頃かな。あの時はまさか君と結婚するなんて思ってもみなかった。武漢で見つかったウイルスのことを当時、毎日新聞の「なるほドリ」が解説してくれてたのを思い出します。内容は覚えていません。

 9時30分開店のお店ですが、界隈の人々がオープンを心待ちにしていたことを知っているので早めに出かけてみましたら、ガラス張りの自動扉から中の様子が見えるんです。白のワイシャツに皆さん首から何か紐をぶら下げておられ、これはおそらくスタッフ証明書のようなものをぶら下げておられるのだと思いますが、10人ほどでしょうか。私のいる入口付近からは死角となっている場所を皆さんで眺めておられます。あまり詳しくないのですが、でかいモニターで株の動きを確認しているのか、エンゼルスの試合を観ているのか、見渡す限り、全員が男性なので、国の女性活躍推進会議か何かだと思いました。

 自動扉の「自動」の文字の下のあたりにカーディガンズの名盤と同じ名前の店のロゴがあり、その下には「撮影禁止」「メモ・録音禁止」「ペット同伴不可」と書いてあります。先ほど私は店の外観の写真を撮り、そして今、文章を書いておりますが、これは禁止事項に該当しないのでしょうか。とりあえず、誰も注意をしてこないのでよしとする。

 先ほどは白いワイシャツの方たちしか目に入りませんでしたが、うぐいす色したエプロン、黒のエプロン、紺のジャケット、テカテカの緑のジャンパーもいます。女性もいます。30人くらいいるんじゃないか。大きなお店のオープンには人が必要なのだ。

 お店によってはオープンするまで頑なに話しかけてくださらないこともあるのですが、ここの方は先ほどから、自動扉から外に出てくる人みんな私に「おはようこざいます」と挨拶してくださいます。挨拶は気持ちいいものです。

 気持ちいいといえば、私は8時30分には既に並んでいたのですが、8時50分頃にキャップを目深に被った女性が私の後ろに並びました。すんませんな、ここの1人目の客は、わしやねん。と気持ちいい。
「オープン9時半やないの?9時と違うんかえ?」
「はい、当店は9時半オープンでございます」
「そやけどあっちの店は9時やんか」
「ええ、同じ店でもオープンの時間には違いがあるのですございます」
 女性はおそらく、四条西洞院にある同じスーパーマーケットが9時オープンなのにどうしてここは9時半なのか、と聞いているのでしょう。
「えらい早くに来てしもたやないの」とぼやいておられました。危ない危ない。こういう人がいるから念には念を入れて早めに来ておいてよかった。
 
 9時前。もう10人くらい並んでいます。何人かは知り合い同士らしい。
「オープンは9時と違うんどすなー」
「そうそう、あたしも9時やとばっかり思ってましたがなー」
「お宅の娘さん、ピアノお上手なんどすなー」
「そうどすねん、うちの娘、上原ひろみどすどすまんねんで」
「今日は何買いはりますの?」
「あんたはどうしはりますん?」
「ぶぶ漬けでもどうどすかー?」
 どういうわけか、9時オープンと思い込んでいる人が多いみたいです。

「あの、お手洗いお借りしたいんですが・・」
とご婦人がスタッフさん様に問いかけます。
もしや、これで「どうぞどうぞ」となったら、このご婦人が1人目の客になってしまうのではないか、と心配しましたが、スタッフさんが毅然とした態度で「オープンまでは中にお入りいただけません」とおっしゃり、安心いたしました。

「3人ずつ横に並んでお待ちください」とスタッフさんが指示をすると、目深キャップちゃんが私の横に繰り上がってこられました。ただ、私はなんとなく、自分のほうこそ1人目なんやで。という主張のため、目深キャップちゃんよりも1歩前へ進みました。すると目深キャップちゃんは私にあわせて1歩前へ来られ、負けじと私が1歩前へ。とやっていたら危うく自動扉にぶつかりそうになりました。

 ところでワイシャツってwhite shirtsですから白いワイシャツって白い白いシャツになっちゃいますね。「あんたのシャツ、白い白いな」と使えばそれでも京都の言葉としては問題ないのかもしれない。ああ、滋賀の田舎あがりが京都の言葉のことを解説したりなんかして、また京都の人にバカにされてしまうやおへんか。

 オープン10分前に振り向くともう30人ほどが私の後ろに列を作っておりました。目深キャップちゃん、頼むから先に入ったりするのだけはやめてくれよ。予定より13分早くオープン。無事、1人目に入店を果たす。

 令和4年9月27日、午前9時17分にオープンしたLIFE四条大宮店の1人目の客は私です。レジのお姉さんが私の1人目の客Tシャツを見て微笑みました。天使かと思いました。

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