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連作短編小説『ワンダフルトゥナイト』第7話

「昨日、詩をかいたんだけど」
「しってポエムの詩?」
「ほかにある?」
「うーん。die、city、Mr.、teacher、Samurai、history、ほかにもいろいろあるんじゃない?」
「でもかくのはポエムの詩だけでしょう」
「でもほら、例えばdieの死を題材にした小説をかくのなら死をかくといえるし、都市の景色を絵で描いたらそれも市をかいたといえるでしょ」
「確かにそうだけどそのへんの可能性いちいち潰していくの疲れない?」
「それをいままで怠りすぎてたんだと思うよ。周辺を無いものにすることによってこの国は成長してきたんだ。その弊害がいま顕れてる」
「そんな大きな話なの」
「違うともいえるしそうともいえる。そういうところにも目を向けていくことが大切だとは思ってるよ。ていうか、あたしはずっと周辺を生きてるからあたしを可愛がってくれるなら周辺にも目を向けてほしいっていう、結局あたしあたしな話」
「うーん、難しい話だけど本当はそんなに難しい話ではないんだろうね」
「うん、簡単な話だと思う。でも周辺に目を向けるのって簡単だけど簡単ではない。例えばわっくんがオリジナルTシャツを作って販売するとする」
「なんか盛り上がってきたね、オリジナルTシャツを作るとしよう」
「業者にTシャツを発注するときにサイズはどうする?」
「SとMとLとくらいじゃないの?」
「ちがう、XLもあるしSSもあるし、もっともっと細かく分類されてるけど、わっくんならどこまで細かくサイズを分ける?」
「あんまり細かく分けてもややこしくなる気がするし、まあ、やっぱりSMLくらいじゃないかな。細かくしすぎてもニーズが少なかったら売れないだろうし」
「でも少なかろうがニーズはある。そうやって弾かれるのが周辺。周辺に気を遣うというのはそういうこと。コストがかかるし、下手すれば無駄が出てしまう。それでも周辺にウェルカムといえる社会にあたしはなってほしい」
「お金が絡んでくると途端にめんどくさくなるね」
「そう、だからあたしはお金が好きではないし、お金のにおいがしない人が好き、お金だけが幸せではない」
「俺はお金のにおいがしない?」
「無臭」
「ずっと無臭でもいいの?」
「お金のにおいがしだしておかしくなった人はたくさんいる。あたしはわっくんにおかしくなってほしくない。いまのまま、わをんのをのほうのをかしでいてほしい」
「稼ぎたいとは思ってるんだけど」
「においがしなければいい。におい出したらたぶんあたし、いなくなるから、いなくなったときはにおってきたんだって思ってくれたらいい。におったらにおったでそういう幸せもある。あたしが好きじゃないほうの幸せ。そうなればそっちの幸せを追いかけてくれればいい」
 いつもならレイちゃんの饒舌な口に俺の口を重ねて黙らせるんだけど、その日の俺は妙に考えこんでしまい、昨日かいた詩の話もどこかへ飛んでいってしまった。何を言いたかったんだったかな、ああ、そうだ。昨日かいた詩には嘘が混じってしまっていて、俺はそうやって都合よくまとめたいがために詩で嘘を吐くことがあるんだけど、そのことについてレイちゃんがどう思うか聞いてみたかったんだった。
 でもそんなことをする人のことをレイちゃんは好きではないのではないか、って考え出したらもう何も言えなくなった。でも、それを隠す人のことのほうがレイちゃんは嫌いなのかもしれない。レイちゃんに対しては、頭で考えるより先に感情で動いてきたのに今日はなんだかおかしい。
 おやすみというレイちゃんの声。手を握ることもできない。昨日まで俺はどうやってレイちゃんを抱いていたんだろう。本当はそんなに難しい話ではないはずだけど。

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