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運用型広告出身の人間がアパレルブランドのキャスティングを担当したら○○だった件

中島です。yutoriに入ってから早くも8か月が経とうとしています。

去年の今頃は、yutoriに入らないかと誘われつつ、アナグラムでは結果も出始めて、ものすごく迷っていた時期だったので、時間が経つのは早いなという月並みな気持ちを抱いています。


去年の5月にyutoriにマーケティングの責任者として入ってから今まで。最も工数の大きい施策はキャスティングでした。

2020年下半期からは新規ブランドの立ち上げに力点を割いていくということになり、リソースもパッツパッツなので週明けの2月1日からキャスティング担当の人に入社してもらえることになりました。そういう区切りの時期なので、yutoriでのキャスティングの思い出をつらつら書き残しておこうと思います。


※売上につながる秘訣みたいなのはさすがに書けないんでその辺はよろしくお願いいたします(´;ω;`)

※筆者は1月30日の午前にこのnoteを書き始めていますが、すでに飲酒しております。乱筆乱文となりますことをご容赦くださいませ。


2020年5月(入社)

入社してすぐは、

・LINE公式の導線づくり

・新しい決済の導入

・端数価格の考え方で値上げを行う

・セッション分析をもとにした投稿や押し出すアイテムのフィードバック

など、もともと運用型広告をやっていた身として考えやすい範囲の調整を行っていました。当時yutoriには5つブランドがあったので、これらをそれぞれのブランドに対して進めていくだけでもパツパツでした。

これと並行して、今まで複数の業種のマーケティング施策に携わりながら得た知見をフル稼働して、よりレバレッジの効く施策を導きだすべく思考実験を繰り返す日々を送っていました。


発売後すぐに完売させるストリートウェアの売り方だと、運用型広告はあまり適しません。また、ニーズよりウォンツの面が強く、その割に単価が安いアパレルでは、新規向けのディスプレイ広告ではまずCPAが合わないはずです。これは提案力の強い一部のファッション雑誌を除いた4マス広告でも同様だと思われます。

そうなると、見込み顧客と接触する「面」を取るために広告費を使う考え方は、あまり適していませんね。


「面」を作る広告費の使い方が向いていなければ、逆にブランディング的な予算のかけ方を検討することになります。つまり、露出としてのリーチは少ないが、プロダクトの価値そのものを高めることができる広告費の使い方です。これはスポーツチームへの協賛であったり、プロモーションビデオを作ったりといった施策が例として挙がります。ファッション誌への出稿は、こっちに含まれるかもしれないです。しかしいずれも費用が高いのが難点。

ここで改めてストリートブランド―例えばSupremeやOFF WHITEなど―がなぜ売れるのかということを考えます。

デザイン?転売価格?

ブランドごとに強みが色々あるので一概に言えるわけではありませんが、ブランドが出始めた初期には、だいたい「○○が着ていた」か「××とコラボした」で火が付くケースが多いように思えます。

例えば、オフホワイトの人気が爆発的になった背景には、ヴァージルアブローがカニエのブランドのクリエイティブディレクターになったことがあったり。Supremeは90年代からローカルのスケーターで上手い子にギフティングをしていますよね。

また多くの生活者にとって「良いデザイン」はわからないものだと思います。これはセンスの良し悪しを言っているのではなく、アパレルにおけるトレンドや良いデザインの定義が、社会構築主義的に発生していくことを意味します。

「良いデザインである」と思ってもらうためには、良いデザインを定義できる側にいる「権威」を持った人物や団体から、承認されているような雰囲気づくりが必要になります。そしてその「権威」とは、先行して売上を出しているブランドであったり、ファッションリーダー的な役割を担う個人になります。

コラボに関しては、正直に言ってアパレル業界のコネが無いと実現が難しいです。より「権威」的なブランドであればあるほど、新参者からは近づきにくい存在であるからです。

逆にファッションリーダー的な個人はそれぞれの年齢層に存在するため、yutoriの既存ブランドを気に入ってくれる人もいるし、そうでなくとも報酬で交渉できる余地があります。

そういった背景で半ば自然にキャスティングに注力していく流れになりました。

6~9月(キャスティングのルーティン化と成果の安定化)

キャスティングに注力するといっても、その人の対象を絞ることは難しいです。例えばフォロワー数が多い人なのか、いいね数が多い人の方が良いのか、その人はyoutuberなのかアイドルなのか、男性なのか女性なのか。

今の若い子が接触しているメディアはtiktokやyoutubeなので、そこで活躍している方を中心に探すわけですが、そこでさらにもう一つ大きな壁がありました。

僕はインフルエンサーに全く詳しくありませんでした。tiktokは見たことがなかったし、youtubeも好きなバンドのライブを観るくらい。動画メディアは情報量のわりに尺が長く、イライラしてしまうんですよね。それに僕自身あまり流行りものに関心がないタイプです。世の中がKing Gnuでも、髭ダンでも、僕はアメリカのプログレッシブ・メタルバンドのtoolが一番好きなんです!(クソデカ大声)高校時代からyoutuberはそれなりに流行ってきていたけど、あーそういう笑い興味ないです。ギャグならシュールで捻った感じのやつとか、何なら哲学の話の方が面白くないですか?という感じで学生時代を過ごしてきたのです…。

そうは言えども、売上が増えるなら大事な施策には変わりないので、とにかく頑張ってtiktokやyoutubeを観ました。土日にスマホで動画を観すぎて右肩だけめちゃくちゃ痛くなりました。血と涙を吹き出しながらtiktokを観続けてキャッチアップしつつ、どうやらいいね数やコメント数の多いインフルエンサーさんの方がファンの熱量が高く、「○○と同じものが欲しい」という心理が働く気配を感じました。弊社代表の片石さんも「エンゲージメント!」って連呼していたので、いいね数やコメント数に代表されるエンゲージメントを重視しながらキャスティングをはじめていきます。


インフルエンサーのタイプをいくつか(女性で好感度が高い、ファッション軸で有名、youtuberで親近感のあるキャラ、イケメンで女性のファンが熱狂的など)試した後、あるジャンルの方だと、着用アイテム発売時のセッション数や売上が大きく引きあがる結果が2~3回ほど確認できました。その時点で概ねキャスティングは筋の良い施策であると判断。以降ここに最大のリソースを割いていくことになりました。

yutoriが運営するうち3つのブランドは1月に4回の販売があり、2週間に続けて同じモデルさんを起用することもあれど、それぞれにモデルをアサインしていくと1か月で合計20人くらいキャスティングすることになります(ユニセックスアイテムは男女で撮影するため、1アイテムで2人必要)。そこに各事務所との交渉を合わせると、結構な工数に膨れ上がります。その時間は他の改善アクションに繋げられないのですが、とにかく需要を最大化させることを狙ってほぼすべてのリソースを突っ込みました。


実際にどういうキャスティングが売上に繋がったかというと、これはブランドの種別によってバラバラなので割愛します。あんまり真似されたくないというのもあります。既にめちゃくちゃ真似されてるから。

そのインフルエンサーさんが、どういうベクトルの支持を集めているのか、可能な限り言語化したうえで試すことを繰り返していくことが、どのブランドにおいても肝要だと思います。


9~10月(効果測定を深める時期)

9月から10月になると、社内にキャスティングの知見や過去の事例がそれなりに溜まります。ここであらためて、キャスティングは全体として売上に与える変数になっていたのかを考える必要が出てきました。

なぜならば、個別で成功したキャスティングの事例があっても、施策全体として売上を伸ばせていなかったら、かなり運ゲーの部分が残る施策になってしまうので、立ち止まって他の施策を検討すべきだからです。

キャスティングやインフルエンサーマーケティングに関して結構耳にするのが、「売上への影響がわからない」です。

これに関して良い方法があれば僕が知りたいくらいです(笑)

インフルエンサーマーケティングの場合だと、本人のインスタグラム投稿にリンクを貼ってもらうことはできませんし、モデルとして起用した自社の投稿であっても、モデルの効果で売上につながったのか判断することは困難を極めます。運用型広告のように○○からCVつながったね~^^という話がしにくいです。

僕の場合は、自社インスタグラムにてインフルエンサーの着画を投稿した際のいいね数・コメント数、商品単体のいいね数・コメント数と、アイテム発売直後のセッション数を対象にして相関分析を行いました。

(尚、なぜ売上ではなくセッション数であるかというと、売上をyに置いてしまうと在庫数によるバイアスがかかってしまうからです)

詳細をここに書くことは避けますが、おおむね正の強い相関関係が見られました。

一方、ブランドのうち1つだけで相関がみられませんでした。

これは今一つブランドのイメージが定まっておらず、キャスティングの軸もかなりブレてしまい勝ちパターンが見つかっていないことが原因だと考えられる一方、ターゲットの年齢層が比較的高いため、○○が着ているということを価値に感じてもらいにくい可能性もあります。

ブランド側でも、改めて方向性を考えてリブランディングしていこうという話になっていたので、一時的にキャスティング予算を絞る判断をしています。

キャスティングが売上に繋がっていなかった原因に関しては

・単に外してしまっていた

・キャスティングで売上が伸びやすい購買層ではない

この2点が可能性として考えられますが、一般的に、キャスティングをドーンとやって売上が伸びる戦略がすべての購買層に転用できるわけではないということは注意すべき点でしょう。


11月~12月(インフルエンサー施策を包括的に改善する)

yutoriではタレントやyoutuberをモデルとして起用し、告知にも協力してもらう「キャスティング」とは別に、一定のフォロワーを持ち、比較的小規模なインフルエンサーさんに商品を送りPRしてもらう「ギフティング」というインフルエンサーマーケティングの手法も行っていました。

キャスティングがプロダクトの価値を高める施策であるとするならば、ギフティングはリーチを増やす施策になります。おおよそ毎週ウン十名ほどのインフルエンサーさんに商品を受け取ってもらうために、その数倍のウンウン十名ほどのインフルエンサーさんにDMで打診するという施策を、僕が入るよりも前から行っていました。


リーチを稼げる施策であるため、商品の売れた・売れなかったを振り返る際に、ギフティングの数が多かったから売れたんじゃないか?といった発想につながることも多かったと記憶しています。

ただ、個人的には、ギフティング数がインフルエンサーさんへの打診→許諾→商品PRの「許諾の獲得率」に依存しやすいため、ギフティング数と売上の関係は疑似相関ではないかと考えていました。売れやすいから受け取ってもらいやすいだけ、という話です。また、そもそも誰も相関関係を出そうとしていなかったので、先のキャスティングの判断で用いた分析を応用してみることにしました。


商品の売上において、キャスティングの良し悪しが大きな影響を与えることがわかっていたので、今回はYを発売時のセッション数として、X1を商品平置き画像のいいね数、X2を着用画像のいいね数、X3をギフティングで獲得したリーチ数(投稿してくれたインフルエンサーのフォロワー数総計)を対象に過去20回ほど発売時の実績から重回帰分析を行いました。

結論、着用画像のいいね数のみ帰無仮説が棄却される形になり、着用画像とセッション数の関係は認められる一方、ギフティングのリーチ数は売上との関係を導きだせないという結果になりました。

データ数が少ないこと、「着用画像のいいね数」と「商品平置き画像のいいね数」が概念としてやや被るなど変数をMECEで切り出せていない部分もあり、この検証は学術的には微妙だと思いますが、ギフティングの売上への影響が少ないということは、フォロワー数が多ければ購入にもつながるわけではないという、日頃キャスティングを行っていて得られる直観と相反しませんでした。

若干「えいや」な決め方ですが、広くばらまく形でのギフティングは取りやめ、対象を絞ってエンゲージメントが高い方に有償で・かつ丁寧に商品の魅力を伝えながらギフティングを行っていく方針に転換しました。


※諸々、独学でやっているので、統計をビジネス上の意思決定に使っている人、お茶させてください。


最近

数を絞り有償で行うギフティングは実行上の課題がいくつかあり、またインフルエンサーの属性によって許諾してもらいやすい、もらいにくいというバラつきがあって膠着しがちでしたが、主に新規ブランドで一定の成功を見込んでいます。

ここでも検証を挟みます。

これまでは相関分析などの、過去の施策のデータが一定以上たまった状態で可能な方法を使って振り返りを行っていましたが、有償でのギフティングに関しては実行の歴が浅い割に、費用を掛けようと思えば際限なく掛けることができてしまう施策になるため、単発の検証で方針を示せる調査を行う必要がありました。

できるだけ多く、施策の意思決定につながるデータを揃えるため、お客様に負担をかけてしまうデメリットはあれど、購入者アンケートを行いました。

投稿に接触したインフルエンサーさんをユーザーに選んでもらい、アンケートに答えてくれた購入者のうちインフルエンサーさんの投稿を見た人の割合を算出。そこから全体の購入者のうちインフルエンサーさんのビュースルーコンバージョンを割り出します。

この結果をもとに、フォロワー数と属性ごとにROAS400%でかけられる報酬の限界値を出しています。この範囲で取り組めれば、現状は利益増につながる施策と言えるので、アクセルが踏みやすくなりました。


ここまでの施策と効果検証を通して、インフルエンサーさんとブランドを盛り上げていく施策の方向性が、かなり固まったな、と思います。

ここで来月から僕なんかよりずっとインフルエンサーさんやタレントさんに明るい方が入ってきてくれるので、まさに鬼に金棒で、各ブランドの成長が楽しみです。


キャスティングを振り返って

10月くらいから再認識していたのですが、キャスティングは僕とって楽しい仕事ではなかったと思います(笑)

どこまでいっても、tiktokやyoutubeを観るのは個人的に楽しくなかったです。キャスティングで売上がリフトされていても自分に日が当たることもないですし、逆に売れないとキャスティングが~って言われるので、情緒的な面での報酬がぴえんでした。正直な話、運用型広告の方が5億倍たのしいと思っていましたw

それでも、キャスティングを行う上で出会った俳優やタレントの方は良い人ばかりで、彼らと一緒に面白い施策を考えていけるというのが心の支えになった8か月でした。

これまで関わってくれたモデルさんや事務所関係者の方に本当に感謝しています。

いまだに「インフルエンサーを『使って』」みたいな言い回しをする人がいますが、彼らはパートナーであって下請けじゃないからそういった態度は改めるべきだと思うこの頃です。


実はキャスティング以外にもブランドコラボの推進とかいろいろ取り組んでいたので、その話もどこかで。


株式会社yutoriはロジカル属性の応募も受け付けてます。センスとロジックを良い感じに織り交ぜてブランドを運営したい方は以下からご応募よろしくお願いします。人が足りん。

上場に向けてCFO候補も切望中らしいです。


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