雨の夜の怪談【怪談・怖い話】
待ってても誰もこないので、自分ではなします。7年くらい前、タクシーの運転手さんに聞いた話です。当時、六本木の会社に勤めていて、夜遅くなることが多かった。仕事半分、遊び半分って感じです。終電を逃すことが多く、タクシーで帰るのが常でした。横浜市に住んでいたので、六本木からだと40分くらいかかります。
その日は4月か5月だった気がします。うっすらと雨が降っていたか、雨上がりでした。六本木で2時過ぎまで遊んでいた私は、アマンドのある交差点から防衛庁、龍土町の方へと歩いてタクシーを拾おうとしていました。防衛庁の前のガソリンスタンドあたりでタクシーが客待ちしていたので、私は乗り込みました。
家まで40分以上かかるので、タクシーに乗るたびに運転手さんに「何か怖い体験とかしたことないですか?」と聞いていました。黙って40分乗っているのも退屈なので、その日も同じように聞きました。
すると、しばらく思案していた運転手さんは、「実は、子供の頃からそういった体験をよくする方なんです」と話し始めました。そして、最近の出来事を語ってくれました。「この間乗せたお客さんの話なんですが、あの日もちょうど今日みたいな雨模様の日でした。あの場所で客待ちしていたんです。」
運転手さんの話の続きです。「飲み屋がたくさん入っているビルがあったでしょ?そこのエレベーターから男女5人が出てきたのが見えたんです。で、タクシーに乗るんだなと感じて待っていました。私たち、そういう勘は鋭いんです。でも、ビルの庇の下で雨を避けるようにして議論している感じだったんです。」
しばらくして2人はベンツに乗って行き、残りの3人がタクシーの方へ歩いてきました。1人の男が車に乗り込み、「N方まで」と言ったきり、深刻そうな顔をしていました。運転手さんが「信じてくれるかな?今の店がすごく変だった」と言うと、私は「信じますけど、どうしたんですか?」と尋ねました。
その5人は有名テレビ局のスタッフでした。麻布で食事をした後、スタッフの1人が「知り合いのバーに行きたい」と言い出し、その店に行ったそうです。マスターは体を壊して入院していましたが、最近退院したらしいとのことで、みんなで行くことにしたのです。
店に入ると、マスターと挨拶を交わし、5人は奥のテーブル席に座りました。バーは普通の作りで、カウンターとテーブル席がありました。しばらく水割りを飲みながら話していましたが、次第に無口になっていきました。K氏(運転手さんに話をしたスタッフ)が「どうかしたのか?」と聞くと、4人とも「いや、別に」と言い、気まずそうでした。
K氏が「いいかげんにしてくれ!」と声を荒げると、他のスタッフたちは「この店、おかしい。気持ち悪い」と言い出しました。K氏は「なに言ってんだ、普通のバーじゃないか」と反論しましたが、トイレに入るときに異様な感じがしたと言うスタッフもいました。K氏は全く信じていませんでしたが、トイレに入ってみました。
トイレで用を足していると、突然両肩にズシンとなにかが乗った感覚がありました。明らかに何かが乗った感覚でした。K氏は急いで席に戻り、「やっぱり店を出よう」と言いました。驚いたスタッフたちは「どうした?なにがあった?」と聞きましたが、K氏は勘定を済ませ、みんなとエレベーターに乗り込みました。
運転手さんは話を続けました。「お客さんの話、信じますよ。もうその店には行かないほうがいいですよ。現にお客さん、今連れてきちゃってますよ。」私は驚きました。「え?運転手さん、なにか見えたんですか?」と聞くと、「いや、そのお客さんを乗せたとたん窓ガラスがいっせいに曇ったんです。あと、後ろの座席で大勢の者の気配を感じました。」
その運転手さんは結局、ビビリまくったK氏についていた霊をN方の家の前で追い払いました。私はその店に興味を持ち、運転手さんに店の名前を聞きました。「なんだったっけなあ。舞う、だか、踊る、だかの字が入ってたような気がします。」翌日の夕方、そのビルに行ってみました。
ビルの入り口に店の看板がズラリと並んでいて、「舞姫」というバーがありました。私は友人とその店に行くことにしました。エレベーターを降りると、そのフロアに3軒のバーがあり、一番奥に「舞姫」がありました。フロア全体がお線香くさく、ドアを開けると、カランと鈴が鳴りました。
私は真っ先についたてを見ました。そこには和紙人形が貼り付けられていました。普通の和紙人形とは違い、目は真っ赤でつりあがり、黒目が変な位置についていました。口から小さい牙が出ていました。私たちは非常階段から逃げ出しました。
運転手さんから聞いた和紙人形の話と、私の実体験の話は以上です。店の名前を出したのは、去年再び行ってみたときにはもうなくなっていたからです。友人とその店に行った後、ビルに関する情報を集めましたが、実に洒落にならない話ばかり出てきました。
次回はもっと整理してお話ししたいと思います。読んでくれてありがとう。
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今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。