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山奥の祠に宿る神【怪談・怖い話】

祖父母の家は山奥にあり、最寄りのスーパーまで車で一時間かかるほどの距離にあった。

農家だった祖父母の元で過ごす夏休みは、畑仕事を手伝うのが日課だった。とはいえ、私はすぐに飽きてしまい、農作業の邪魔になるばかりだったので、祖父が付き添いで家に戻ることになった。

蝉のうるさい鳴き声が耳に残り、汗だくで家に入った。祖父は風呂のための薪を採りに行き、私一人が家に残された。喉が渇いて冷蔵庫を開けても飲み物は見当たらず、台所の水道も当時の私には高くて届かなかった。

その時、怠け心が芽生え、ご飯を食べる部屋に飲み物がないか探しに行った。ちゃぶ台の上にいつも使う硝子のコップが一つ残っており、中には半分ほど透明な液体が入っていた。私は躊躇なくそれを飲み、口いっぱいに広がる苦味とともに、一気に熱が上がったように感じた。

気付いた時には台所の水道に届き、水をがぶ飲みしていた。その透明な液体はお酒で、神棚に供えてあったものだった。祖父とともに神棚に謝り、その日は終わった。

次の日、兄と一緒にカブトムシを捕りに行った。相変わらず蝉のうるさい鳴き声と、人が通るたびに草がガサガサと言う音がしていた。私は兄と祖父の背を追いかけながら歩いていたが、強い風が吹いた瞬間、先を歩いていた二人の姿が消えた。

蝉の鳴き声も、草を掻き分ける音も消え、ただただ静かな空間に一人残された。兄と祖父を叫びながら探したが、反応はなかった。昨日の神棚のお酒のことを思い出し、神様が怒って二人を隠したのではないかと思い始めた。

恐怖で動けなくなった私の前に、いつの間にか男の人が立っていた。泣きながら事情を話すと、男の人は「神様にちゃんと謝った?」と尋ね、一緒に謝ってくれると言った。男の人に手を引かれ、近くの祠に連れて行かれた。そこで一緒に謝り、男の人は再び私を元の場所まで送り届けた。

兄と祖父が見つかり、二人に話をすると、ここには祠などないと言われた。帰り道で、祖父に祭りがあるのか尋ねたが、祖父は不思議そうに首をかしげた。家に戻った祖父は神棚に酒を多めに供えて祈っていた。

その後、家の前に立派なアリ地獄ができ、暇つぶしに観察していたところ、再びあの男の人が現れた。「面白い?」と尋ねる男に、私は「引きずり込まれる様が面白い」と答えた。その時、男が「今日も一人?」と尋ねたので、祖母が家にいることを思い出し、「ううん。ばあちゃんがいるよ」と答えた。すると、男は「なんだ、残念」とつぶやき、消えた。

それから毎年夏になると、私は祖父母の家に行くたびに高熱を出すようになった。あの時のお酒の熱さと同じような熱だった。近年、科学的に「幽霊熱」という現象が解明されつつある。これは極度のストレスや恐怖が体温を急上昇させるもので、私の高熱もこの現象によるものかもしれない。

成人してから再び祖父母宅を訪れ、過去の出来事を確認するために山奥を探検したが、祠は見つからなかった。祖父母宅に戻り、神棚に手を合わせると、背後から柔らかい声が聞こえた。「ようこそ、また会えたね。」振り返ると、あの浴衣の男が立っていた。

男は自らをこの土地の守り神の一つだと語り、人々が忘れ去った神々の残像のような存在だと言った。私が神棚のお酒を飲んだことで彼の存在に気付いたのだという。男の話に耳を傾けながら、私は過去の出来事の真実に触れているような感覚を覚えた。

その後も祖母とともに神棚にお酒を供え続けた。毎年夏になると高熱を出すことはなくなり、浴衣の男がこの土地を見守っていると信じている。祖母もまた、「あんたは不思議なことばかり体験する子だったけど、今は大人になっても神様と縁があるんだね」と微笑んでいた。

ある年の夏、神棚に手を合わせると、再び背後から柔らかい声が聞こえた。「また会おう。君がこの土地を守ってくれるなら、私はいつでもここにいるよ。」振り返ると、そこには誰もいなかったが、微かに香るお酒の匂いが記憶を蘇らせた。

この体験を通じて、私は神々の存在を信じるようになり、祖父母が大切にしていたこの土地もまた、私が守り続けるべき大切な場所であると感じるようになった。


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