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幻の友【怪談・怖い話】


知人から聞いた怪談には、不気味な犬の存在があった。

知人の家には、いつからか姿を見せ始めた不思議な存在がいた。それは大型の灰色の犬で、ふかふかとした毛並みに長いしっぽ、そして垂れ耳が特徴的だった。しかしその犬は、一般的な飼い犬とは明らかに違っていた。

この犬は、家の中のあちこちにごろりと姿を現し、じっとしていることが多かった。玄関、廊下、キッチン、リビングの窓際など、人の行き来する場所に出没する。呼びかけても無反応で、時折長いしっぽを揺らすくらいだ。

不思議なことに、この犬は人間が近づこうとすると、億劫そうに顔を上げたり嫌そうな表情を浮かべると、ふっと姿を消してしまうのだ。一家はこの謎の存在を「オバケ犬」と呼んでいた。

「消えるくらいなら出てこなきゃいいのに、出てはくるんだから不思議だよね」と知人は愚痴をこぼす。「うちに勝手に住んでるんだし、触らせてくれたっていいと思わない?」

動物アレルギーのため実際に動物を飼うことができない知人は、せめてもふもふの感触を味わいたがっていた。触ろうとするとすぐに消えてしまうその犬に、いつしか惹かれるようになっていく。

犬の気配を感じ取る

「一メートルくらいかな。そこまでは近づけるんだよ」
犬の存在は身近なものになり、知人は犬の気配を感じ取るようになっていった。気の早い知人は、床の上に残る犬の体温を感じようと、犬のいた場所に寝転がることさえあったという。

「あいつが触らせてくれたらよかったのになあ」と知人はつぶやく。動物を飼えない環境の中で、触れることすらできない幻の存在に、言い知れぬ惹かれを覚えていたのだ。

しかしこの不可思議な出来事には、さらに深い謎が隠されていた。幽霊ではない、それでいて実体のある存在。人々が気付かぬうちに近くにいた"それ"とは、一体何なのか?

後日談

数年後、知人の家族に起きた出来事が、この"オバケ犬"の正体を明かすことになった。

ある日のこと、知人の母親が地下室に降りると、そこには大量の骨が転がっていた。人間の骨ではなく、動物の骨らしい。さらに驚くべきことに、それらはすべて同じ個体のものだった。いったいどんな動物の骨なのか、DNA鑑定を行うことにした家族は、その結果に言葉を失ってしまった。

骨はネコ科の動物のものだったのだ。さらに調査が進むうちに、それらが人里離れた地域での伝承にたびたび登場する"化け狸"の骨である可能性が浮上した。

伝承によると、人里に出没する化け狸は家に潜り込み、人間に取り付いて去ることがあるという。人の気配がしなくなると、そっと姿を現すのだ。今にして思えば、あのオバケ犬は決して幽霊ではなく、化け狸の正体だったのかもしれない。

これほどの事態を予想できなかった家族は、今思うと当時の不可思議な出来事や、犬の気配に怖れを覚えていた。しかしいまは過ぎ去った出来事である。ただし地下室の骨は、忘れようと思っても簡単には忘れられなかった。そして時折、床の上に残る小さな体温の気配に、誰かの気配を感じるのだという。


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