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手かざし治療【怪談・怖い話】

これは、かつて職場の同僚から聞いた話である。

その同僚Aは、アメリカで修士課程を修了し、一流企業に就職した。大学時代からのガールフレンド、B子とは結婚を前提に交際しており、未来に対して確固たる希望を持っていた。

だが、Aが就職して6年目のある日、B子が激しい頭痛を訴え、精密検査の結果、脳腫瘍が発見された。腫瘍はまだ小さかったが、B子の精神状態は徐々に不安定になりつつあった。手術までの1ヶ月間、AはB子を励まし続け、彼女も少しずつ明るさを取り戻していった。しかし、その裏には奇妙な変化があった。

手術前日、B子は「大丈夫、心配ないよ。とっちゃえばいいんだから」と明るく答えた。しかし手術が終わると、執刀医は「頭を開けて見たところ、腫瘍は見当たらなかった」と告げた。MRIも異常なしと報告され、B子の両親は大喜びしたが、Aだけは不安を拭えなかった。

Aは脳外科医の友人Cに相談した。Cは「腫瘍はまるで意思を持っているかのように、時折隠れることがある」と言い、セカンドオピニオンを提案した。数日後、B子の両親も説得し、Cの病院で再検査を受けた結果、腫瘍は前回と同じ場所に、しかも確実に大きくなっていた。B子には再発予防のための放射線治療が必要だと告げられたが、Aは多忙で彼女の側にいることができなかった。

そんな折、Cから連絡が入った。B子が全く通院していないというのだ。両親が迎えに行っても「私は病院へ行ったら死んでしまう」と泣き叫ぶB子。Aは急ぎ帰国し、B子のアパートで事情を聞いた。そこでB子は、ある宗教団体に入信していたことを打ち明けた。

手術前に明るさを取り戻したのは、その宗教団体の治療を受けたからだという。知り合いに誘われて訪れた道場で、道場主から手かざし治療を受け、腫瘍が消えたと信じ込んでしまったのだ。B子はその場で入信し、結婚費用のために貯めていた預金の多くを献金していた。

Aは怒りを抑えきれず、B子を検査入院させるために病院へ連れて行った。精密検査の結果、腫瘍はさらに大きくなっており、即座に手術が必要となった。その夜、B子のアパートで2人は最後の時間を過ごした。結婚の話や昔話に花を咲かせながら、Aは神に助けを乞い、同時に初めて神を呪った。

突然、インターフォンが鳴った。B子がドアを開けると、そこには地味な男女が立っていた。彼女を宗教団体に引きずり込んだ知り合いと、道場で会ったことのある信者だった。2人は玄関に入り込み、B子を道場に連れて行こうと説得し始めた。

Aは奥から出てきて、礼儀正しく自己紹介をした後、数々の質問を投げかけた。信者が応急処置の力を自慢すると、Aはライフルを持ち出し、「今からその力を試させてもらう」と告げた。震える信者たちは真っ青な顔で謝罪し、Aは彼らを追い出した。

その夜、B子は泣きながら「A君は馬鹿だよ。でも、そんなA君が好きだよ」と感謝を述べた。手術は結局成功しなかったが、AはB子の側にい続け、最後の瞬間まで共に過ごした。

B子の死後、Aは宗教団体への復讐を誓い続けているという。彼の怒りと絶望は、今も彼を駆り立て、無限の闇へと引きずり込んでいる。

[出典:212:本当にあった怖い名無し:2013/01/17(木) 14:38:21.51 ID:FcEruzpy0]


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