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都政のDXのカギは「ひと」~デジタルスキルマップでDX人材を可視化×職員のリスキリングを強力に後押し~

デジタルを梃子とした都政のQOSの向上にあたり、カギになるのは「ひと」です。デジタルサービスを支える「ひと」を確保・育成するとともに、最大限の能力を発揮できるようにすることが、いま求められています。

そのため、東京都では2022年2月に「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」を策定しました。

今回のnoteでは、この方針策定の裏側とそこに込めた思いについて、デジタルサービス局のデジタル推進課長、星埜航さんと、民間出身のデジタルシフト推進担当課長、長岡翔平さんにお話をうかがいました。


そもそもデジタル人材の育成とは?

―――「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」策定のきっかけを教えてください。

【星埜さん】
2021年4月に総務局の人事部からデジタルサービス局に異動となったのですが、新設された職種「ICT職」の職員のこれからの人材育成を考えると、すでにある個々の研修の枠組みだけではなく、そもそもの根本であるデジタル人材の採用、育成、OJT、配置管理などに関する基本的な考え方を整理することが必要なのではないか、と強く考えるようになりました。

この方針では、組織が求めるデジタル人材像を「ICT職」「高度専門人材」「リスキリング人材」に分けて提示し、人材の確保策として「デジタルスキルマップ」の導入、人材の育成策として「東京デジタルアカデミー」の展開を盛り込んでいます。

方針を策定するにあたって、その根幹となる「デジタルスキルマップ」を発想したのが長岡さんです。長岡さんとは人事部にいた頃からデジタル人材に関して意見交換をしていたのですが、今回、そのとき議論していたことも盛り込む形で「基本方針」としてまとめることができました。


「デジタルスキルマップ」でデジタル人材のスキルを可視化

―――では、この方針の根幹にある「デジタルスキルマップ」について教えてください。

【長岡さん】
「デジタルスキルマップ」は、22のスキル項目と10のジョブタイプでデジタル人材(ICT職)のスキルを可視化するものです。このフレームを作るにあたっては、IPA(情報処理推進機構)のITSS(ITスキル標準)等を参考に、トレンド要素を加えたり、行政向けにアレンジしたりしながら都庁の職場に応用し、独自に整理しました。

一口に「デジタルができる」といっても、その実態は人によって異なります。

デザイン、データ、アプリケーション、プロジェクト管理等、分野は多岐に渡ります。さらに「アプリケーション」といっても、業務システムとスマホアプリでは求められるスキルが異なります。また、「できる」という表現についても、設計から実装まで「できる」ということと、指示を受ければコーディングが「できる」ということではレベルが異なります。実際にプロジェクトで体制や役割を決めて業務を進めていく上では、こうした得意分野やレベルを可視化することが重要になります。

そこで、デジタルスキルマップでは、22のスキル項目を設定し、それぞれレベルを0~3の4段階で設定しました。これによって、職員一人ひとりがどういうスキルをどのレベルで持っているかを可視化することを狙いとしています。

ただ、職員がこれら22ものスキルを全てレベル3に引き上げることは大変なので、優先度の高いものから集中的にスキルアップを図ってほしいと考えています。そのためデジタルスキルマップでは、10のジョブタイプを設定し、ジョブタイプごとに備えるべきスキルとレベルを定義しました。

これによって、職員自身のキャリア志向や組織から求められる役割等に応じて目指すジョブタイプを定めると、レベルアップすべきスキルが可視化されるため、優先度をつけて効率的に学習できるようになります。

一方、組織側としても、都庁の組織的な能力(ケイパビリティ)を可視化して、都庁内のデジタル人材の「現在地」を把握できるようにすることで、効果的な採用や育成につなげていくことができます。

―――このスキルマップはいつどのようにして発想されたのでしょうか?

【長岡さん】
2019年12月に都庁に採用されて、間もなくデジタル人材の育成を考えるプロジェクトに参画することになったのですが、具体的に育成策を検討するにあたり、まずは、さまざまなバックグラウンドを持つ多くの関係者の間で、デジタルスキルに関する「共通言語」を作る必要があると感じました。その「共通言語」に合わせてデジタル人材のスキルを可視化し、現状を把握した上で、育成策を検討していきたいと考えたのです。

その時に「共通言語」としてスキル項目やレベルを定義したり、スキル可視化の枠組みを考えたことが、デジタルスキルマップに繋がっています。

また、前職ではSI部門のラインマネージャ―として数十人の部下を抱えていたのですが、それぞれのメンバーのスキルや志向に合ったプロジェクトにアサインすると、驚くほど高いパフォーマンスを発揮し、さらに大きくスキルアップしてくれる、というケースをたくさん目の当たりにしてきました。そのため、日頃から一人ひとりのスキル等を把握することを心がけてマネジメントしていました。そういった経験も、デジタルスキルマップの策定に役だったかもしれません。

―――スキルマップを基本方針に盛り込む際に苦労されたことはありますか?

スキルマップのアイデアを都庁という巨大組織に実装していくとなったときに、どのように説明し、どのように意思決定していけばいいか、ということに関してはまったくわかりませんでした。

都庁で人事関係の経験が長い星埜さんとタッグを組めたことで、庁内でのセンスメイキングを先導していただき、関係者に施策の意味を納得・腹落ちしてもらい、組織全体として同じ方向を向いて、スキルマップや基本方針の策定に漕ぎつけることができました。

【星埜さん】
これまで都庁で働いてきて、職員のスキルを可視化できたらどうだろうと考えたことはありましたが、このスキルマップほどの精緻な発想にならなかったのでこのアイデアを聞かされたときは驚きました。こうして数値化してみることで、たとえば採用に際して、我々自身がどういったスキルをもった人材に来ていただきたいのか、という明確な基準ができました。

また、ジョブホッパーとして新しい職を求める人は、職場をシビアに見ています。都庁が本気でデジタル人材を活用し、育成しようとしている姿勢を見ていただくことで、より良い人材に、都庁を「働く場」として選んでいただけるようになるのではないか、ということも考えました。今回の方針を作ったことで、副次的な効果として採用のPRにもつながるのではないか、と考えています。

【長岡さん】
外部のデジタル人材からすると、「その組織に入って果たして自分は成長できるのか」という点は、組織を選ぶ視点としてとても重要です。この方針を作ったことで、都庁のデジタル人材にかける「本気度」が伝わるといいなと思っています。


データを蓄積し、デジタル人材の「タレントマネジメント」への発展を視野に

―――この方針では「タレントマネジメント」を視野に入れている、と書かれています。この言葉に込めた思いを教えてください。

【星埜さん】
今回の方針は「基本方針」と銘打っています。ですので、デジタル人材に関するこれから数年先の未来だけでなく、もう少し長いスパンで考えることが必要ではないかと考え、「タレントマネジメント」という言葉を盛り込みました。

採用、育成、配置管理など、組織の中でそれぞれの個人がどうすれば力を発揮できるか、ということは、人事に携わる者にとって、常に大きな課題だと思います。今回作成したデジタルスキルマップによって、スキルの可視化を足掛かりに、デジタル人材の確保・採用・配置等に活用し、組織と職員の能力向上・パフォーマンスの最大化を図る「タレントマネジメント」につなげていきたい、と考えています。

例えば、ある職員が組織の中でどういった部署を経験してきたのか、ということは重要な人事情報の一つですが、その部署でその時具体的にどんな仕事をしたのか、そこでどんな経験を得たのか、ということまで言語化・数値化するとなるとなかなか難しい。

しかし、デジタルスキルマップを運用していくことで、そうした一つ一つの経験やスキルもデータとして蓄積し、採用、育成、配置管理などの意思決定に活用していくことができないだろうか。そして、職員自身が自分のキャリアを考える際に「自分はどういう人材になっていきたいか」ということを、具体的に言語化することで、組織とそこで働く人が、これまで以上にフィットした状態を作っていけるのではないか。そのように考えています。


「オンボーディング」で迎え入れる体制を「仕組み化」

―――今回の方針では、人材確保のキーワードのひとつに「オンボーディング」が掲げられているのも特徴です。

【星埜さん】
都庁ではこれまでも外部との人事交流が進められてきましたが、デジタルシフト推進担当課長など民間のバックボーンを持った職員の採用により、現在のデジタルサービス局ほど職場の多様性が高まったことはかつてなかったのではないかと思います。

誰しも、新しい組織に入るときには戸惑いがあるはずです。外部との人事交流や、外部人材の採用は、受け入れた人材に力を発揮していただいてこそ、その取組の効果が現れてきます

そこで、今回策定した基本方針では「オンボーディング」の考え方を取り入れました。外部の人材の採用にあたって、新しい人を都庁に迎え入れるための取組を「仕組み化」したのです。

都庁ではこれまでも、新規採用職員に対して「チューター制度」を設けて、身近な先輩職員によるサポートを行ってきていますが、こうした取組も参考にしながら、都庁外から登用するデジタル人材に対して、メンターによる1on1などを通じて、タテ・ヨコ・ナナメでサポートする体制を作っています。

【長岡さん】
自分自身のことを振り返ってみても、都庁に採用された当初、「初日からバリバリ仕事をして成果を出そう」と相当意気込んでいた一方で、初めての組織にきて、民間とは違った都庁独自のルールの中、自分のパフォーマンスを十分に発揮するまでには少し時間がかかりました。

今回、オンボーディングを仕組み化したことで、これから都庁に入るデジタル人材がより早くパフォーマンスを発揮できるようになると思いますし、都庁へのジョインを検討している方にも安心してもらえると思います。


職員の「リスキリング」を強力に後押し:5年間で5,000人

―――デジタル人材の育成に向けた取組を教えてください。

【星埜さん】
職員のデジタル力の向上を目指して、今年度新たに「東京デジタルアカデミー」を展開していきます。具体的には、全職員4万人向けにリテラシーの向上を通じて「分かる」ことを目指すほか、5年間で5,000人の職員にはリスキリングを通じて「使える」ことを目指します。さらにICT職向けには、プロフェッショナルとして「つくる」ことができるよう育成を行っていきます。

本年5月26日には東京デジタルアカデミーの開講式と、幹部向けの「エグゼクティブセミナー」も行われ、これから本格的に取組をスタートさせていきます。

—――この方針における「リスキリング」の考え方を教えてください。

【星埜さん】
デジタル化が進むとこれまでやっていた仕事がなくなる、と言われることがありますが、海外で先行して話題となっていた「リスキリング(学び直し)」が今、日本でもよく聞かれるようになりました。働く人にとって、これまでに身に付けた知識のままではなく、常にスキルを更新していかなければならない時代です。

都庁には、ICT職などのデジタル人材以外にも、事務職や土木職、建築職など、様々な職種の職員が何万人もいます。デジタル人材というとき、ICT職や民間出身のデジタルシフト推進担当課長などが真っ先に思い浮かぶのですが、超巨大組織である都庁でDXの流れを浸透させていくためには、ICT職とは異なる事務職やその他の技術職の職員も、DXを自分事化していく必要がある、そのためにデジタル力の向上を図る必要がある、という意識がありました。そこで、この基本方針において「リスキリング」という考え方を打ち出しました。

【長岡さん】
ここはポテンシャルが大きい部分だと考えています。社会インフラを安定的に供給してきたいろんな分野のスペシャリストが都庁にいるわけですが、ここにデジタルがかけ合わさった瞬間に大きなシナジーが生まれてくるだろうと感じています。

【星埜さん】
私たちは、条例や法律等を踏まえて、仕事を進めています。こうした法令を読み解く力は、物事をロジカルに考えることに自然とつながっているわけです。情報システムは、言わばロジカルシンキングの塊なので、思考方法は実は似ているのではないかと思うのです。行政にデジタルをかけあわせることの素地が、都庁にはあるはずだと思っています。

今年度は、ノーコード/ローコードツールを活用したワークショップ型の研修を企画しており、5年間で5,000人の都庁職員をリスキリングしていくことができれば、そのインパクトは大きい、と考えています。


デジタル人材に関する取組のこれから

―――都庁におけるデジタル人材のこれからについて教えてください。

【星埜さん】
東京都は昨年度、「ICT職」という新しい職種を設置して採用を始めました。ICT職のコンセプトは「都政とICTをつなぎ、課題解決を図る人材」です。DXの推進を支える人材として、新たな職種を設置したというのは、都庁としても画期的なことと思います。

こうして確保したデジタル人材の力を、デジタルサービス局だけでなく、都庁内のあらゆる職場にうまく広げていくことができればと、「ICT職人材プール」という仕組みも新たに取り入れ、プロジェクトに応じて機動的に対応できるようにしました。

デジタル人材が十分に力を発揮できるよう、この基本方針を具体化させ、様々な取組を進めていきます。

【長岡さん】
ありがたいことに、この基本方針を公表してから、国や自治体、民間企業等いろんな方からお声をいただくようになりました。

ただ、方針は作って終わりではなく、実践してこそ実のあるものになります。全国の自治体にとって、先進的な事例、成功モデルとなれるよう、この「基本方針」を着実に実行していきたいと考えています。

―――星埜さん、長岡さんありがとうございました。「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」の本文はこちらからご覧ください。

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