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第3部 南西部への旅 [21] Arizona を旅する

21-6 Monument Valley へ

「Rattlesnake Canyon」を出発する。「Adventurous Antelope Canyon」に戻り、ラリーとスーザンに別れを告げる。

「Monument Valley」に向かって、AZ-98 を南下し US-160 に乗り換え北上する。
 赤い砂漠道を1時間半、高速脇にそそり立つ異様な尖がり岩を過ぎ「Kayenta」の町を抜け、US-163 を北上し「Monument Valley」を目指す。
 アリゾナ州北部からユタ州南部の砂漠平原に赤砂岩の山々が連なっている。2時間半後「Monument Valley Navajo Tribal Park」に到着する。
「Navajo Tribal Park」のゲートに隣接する案内所に立ち寄るように促される。

 案内所内に入ると、順番待ちの長い列が出来ていた。
 カウンター前に進む……。
「Hello, Do you want to drive on your own or join the tour?」
「We will drive ourselves.」
「Do you have a 4WD car?」
「Yes. A Jeep.」
「Okay, here's the driving map. Don't forget to buy a mask as a necessity for desert driving......砂漠ドライブの必需品マスクを購入するのを忘れないでね」
「Is the sand dust so bad that we need a mask?……そんなに砂埃がひどいのですか?」
「Yes. And please remember to respect the privacy of the Navajo Nation as you drive through the park......それと、公園内をドライブする際にはナバホ族のプライバシーを遵守するように......」と、注意される。

 モニュメント・バレーはナバホの居留地内にあり、ナバホ族は水道も電気も無い伝統的な暮らしを営んでいるのだそうだ。

 4WD の『鷹』を広大な大地に広がる赤い砂漠「The Valley Drive」に踏み入れる。後輪が滑り、一瞬、車体が沈み込む。
「The Valley Drive」には11のポイントを巡るルートが示されている。全長17マイルの周遊に、2~4時間の所要時間が掛かるとある。表面の固い砂漠道は時速40マイル位で走れるが、デコボコ道や岩場は15マイル以上のスピードでは走れないとある。

 ビジターセンターを出発し、岩だらけの急な斜面をスイッチバックしながら横切る。
 渓谷の砂漠道が平坦になると、真正面に1,000フィートを超える岩山が見える。
 ホーリーがガイドマップを見ながら.....。

「They are oddly shaped rock formations. East Mitten is 1,023 feet high and West Mitten is 978 feet high....... 奇妙な形をした岩山ね。イーストミトンは1,023フィート、ウエストミトンは978フィートの高さがあるわ」
「The height of 300 meters feels even higher.」
「in addition, The East and West Mittens's adjacent are Navajo spiritual entities....イーストミトンとウエストミトンは、ナバホ族の霊的な存在を表しているそうよ......」

 赤褐色の不毛地帯の悪路を右に大きくカーブすると上り坂の天辺に「Elephant Butte」がそびえていた。
(どこが象をイメージさせるのか?良く分からない......)
 
 尾根の西端を回り込むと、見覚えのある岩山が迫ってきた。映画「駅馬車」の象徴的な岩山「John Ford's Point」が現れる。
(正に、西部劇の風景だなぁ)
 この岩山の不思議な形に、ナバホ族がスピリチュアルな神秘性を見いだしたのは頷ける。(大自然のどんな意志が働き、創り出したのだろう) ダイナミックな Grand canyon の「自然の造形美」やナバホ族の神秘的なエネルギーを感じさせる「 Antelope Canyon」の景観にも驚嘆したが......。

「Ryu, Ryu, though the scenery continues to be amazing......凄い景色が続いているけど..... But I'm getting tired of the sight of this reddish-brown barrenness. It's time to go back...... 私、赤褐色の不毛地帯の光景に疲れてしまったわ。そろそろ戻りましょう」
「Sure thing. It's the same scenery almost every day. I'm tired of this bumpy road.」
「Let's do it.」
(確かに、この自然に抱かれ暮らしてきたナバホ族に敬意を払うが、この荒涼とした風景に疲労感を覚え無かったのだろうか.......)

 午後の陽射しの中、荒涼とした「Monument Valley」を抜け走り出す。ホーリーは地図を見ながら......。
「Ryu, if we take a northerly course, we'll end up going through the Utah desert...... 北に向かうとユタ砂漠を抜けることになるから...... so it's better to take the route across Colorado, even though it's a bit of a detour, right?.....少し遠回りになるけどコロラドを横断するルートで良いかしら?」
「That's a good idea. If we go through Colorado, I would like to stop at Mesa Verde National Park.」

 赤褐色の砂漠地帯を走り続け約2時間。やっと前方に緑の草原と山並みが現われた。
 砂漠色が黄色く乾いた草原色に、そして緑の草原風景に変わった。
 微かにロッキーの山影が高速道路の遠方に見えた時、何故かホッとする。芝生の緑に囲まれてた原色の家々が輝いて見える。

「Monument Valley」を出発し約4時間。Mesa Verde National Parkに近づくと、鮮やかな夕焼け空が迎えてくれた。
 暮れなずむ群青色に、ぼかし摺の技法を駆使したようにオレンジ色から紫色に染まる空に金色の雲が折り重なっている。柔らかく鮮やかな色彩の夕暮れ空が山影の上に輝いている。

「Wow Holly, I've never seen a brilliant sunset sky like this before......凄い。こんな夕焼け空を見たのは初めてだ......My grandfather used to tell me that the purple cloud was a good omen cloud that would manifest when the highly virtuous Heavenly Kings and Princes would come to the throne.....僕のおじいさんは、紫雲は徳の高い天子・君子が在位する時に現れる吉兆を示す雲だと話していたよ」

「Indeed, purple and golden clouds seem very virtuous to me......確かに、紫色の 雲と金色に輝く雲は高貴な感じがするわ......」
「The sunset colors of turquoise blue, gold, orange, and purple will make driving exhaustion disappear in one fell swoop......ターコイズブルー、ゴールド、オレンジ、紫に輝く夕焼け色は、運転の疲れを一気に吹き飛ぶしてくれる」
「It's amazing. Why are they glowing gold?」

「Maybe it's the sunlight being refracted and diffused.......太陽光が屈折し乱反射したのだろうが...... the colors are so vivid because the air is so crisp and clear in Colorado......これだけ鮮やかに色彩を感じるのは空気が澄んでいるコロラドだからだろうね」

 メサ・ヴェルデ国立公園に繋がる US-160 を左折し Mesa Top Loop Roard に入る。
 国立公園入口のゲートを抜けて、ホーリーの指示するキャンプ場に向かってゆっくりと走る。ゲートから南に2マイル 走ると、山頂に要塞のような岩山がそびえている。

「Holly, that is one amazing-shaped rocky mountain!」
「That's Point Lookout Mountain. It is a sandstone peak at 2,569 meters above sea level.....標高2,569mの Point Lookout 岩山だそうよ.....Turn left at that point and you will find the campground.」と地図を見ながら、ホーリーの指示する道を曲がる。

「Morefield Campground」に到着したが、キャンプ場は閉鎖されていた。ホーリーが慌てて、メサ・ヴェルデ国立公園の地図を確認する。
「Ryu, Campground doesn't open until late April. The lodge is in the national park, so why don't we go there and check it out?......ロッジが国立公園内にあるから、行って確かめてみようか?」
「Okay.」

 メサ・ヴェルデ遺跡に向かって、 Mesa Top Loop Roard を20分程走る。眺望の展けた一角に「Far View Lodge」が建っていた。 国立公園内の頂上の素晴らしい眺望と風景の中に建つロッジは、素っ気ない程に味気ない木造の建物だった。
(メサ・ヴェルデの風景を反映した素朴さだ)

 チェックインした部屋のバルコニーから、メサ・ヴェルデの地平線が一望できる眺望が広がっている。陽が沈み始めると、一気に闇に包まれ、驚くべき星空ショーが開幕した。
 ホーリーがパンフレットを見ながら.......。
「Ryu, Mesa Verde National Park is one of the best Dark-Sky parks in the U.S.....メサ・ヴェルデ国立公園は、全米屈指の Dark-Sky だそうよ」
「Yeah, I guess so. There are no streetlights or highways here...... 周りに街灯や高速道路もないからね.....Holly, look at that. The Milky Way is shining over Point Lookout's rocks.....見てごらん。天の川が Point Lookout の岩山の上に輝いているよ」

 メサ・ヴェルデ国立公園 は1906年に国立公園に制定され「夜空」が重要な文化資源としてオーガニック法に基づき保護されている。1000年前の古代プエブロ人が仰ぎ見た「星空」と変わらぬ天空の壮大な眺めがある。標高が高く、空気が澄んだ乾燥気候が「星空」を重要な文化資源にしたのだろうか。

 翌朝、「メサ・ヴェルデ遺跡」に出掛ける。遺跡は広大な国立公園に点在している。
最初の目的地「Mesa Top 史跡」を目指し『鷹』を走らす。
 全長2.25マイルのトレイルは、600年前の先史時代の史跡を巡る旅の始まりとなった。
 トレイルは「Wetherill Mesa Kiosk」から始まり、砂利敷きのトレイルに沿った4つのサイトから構成された「The Badger House Community」に到着する。 

「Balcony House」ツアーに参加する。ハシゴやチェーンを掴まりながら崖を登り、狭いトンネルを通り抜け、800年以上前に使われていたとされる路を行く、かなり冒険的なツワーだ。日干しれんがの集落の中心に「キヴァ」があった。ニューメキシコの「Pueblo 古代遺跡」で観た「キヴァ」の原型なのだろうか。

「Pueblo village/ Badger House/ Two Raven House」の史跡を巡り、山頂の開けた地域に到着する。赤土の大地に、建造物の痕跡のような石垣が幾何学的に並んでいる。石積みの赤壁に囲まれた区画が、幾つも点在している。壁の高さは4〜14フィート。石壁は強固な二重構造で造られていた。
 赤土の広場に立つ。赤い大地と石壁の向こうに、抜けるような青空と稜線の緑の樹々。太古から変わらぬ光景なのだろう。

 史跡の前で、ボランティアのガイドが熱心に説明をしている。二人は思わず歩み寄り、説明に耳を傾ける。
「古代プエブロのアナサジ族は、「断崖の住人」として知られています。アナサジの典型的な集落は、文字通り峡谷の岩棚の上に築かれている。これらの遺跡は、数百人を収容するコミュニティが構成され、何世紀にも渡り生活と文化が営まれてきた。夏涼しく冬は暖かいことと、外敵の襲来に備えるために、徐々に岩窟へと住まいを移したと考えられています。崖上から竪穴、そして岩窟住居と、住まいの形を変えていったアナサジ族のさまざまな遺跡が残されています。高さ530mほどの弓状の絶壁の最上部に、洞窟を穿ち、中に切石や日干し煉瓦を積み上げて住居を築いてきた。アナサジ族は800年頃から数世紀に渡り、1/2平方マイルの範囲に少なくとも35の居住地区と集会所や「キヴァ」のある本格的な農場集落を営んできた」と話している。

ホーリーが突然......「Ryu, I remember studying about the ancient Pueblo culture in history class when I was in middle school..... 古代プエブロ文化について、確か中学生の時、歴史の時間で学んだのを思い出したわ」

「 Did America have an Ancient Civilization culture?..... アメリカに古代文明の文化があったの?」
「Yes, The Ancient Puebloans were a settled, agriculturally based culture........古代プエブロ人は定住生活する農耕文化を形成していた......I believe Navajo and Apache hunter-gatherers migrated from the north to the south........ ナバホ族やアパッチ族の狩猟民族は、北から南下して来たのだと思うけど......」
「That's it. Are you saying that there were ancient Puebloan cultures in this area before the American Indian Navajo people established their culture?.....この辺りにはアメリカン・インデイアンのナバホ族が文化を築く前に古代プエブロ人が文化を築いた文化があったと言うことなのか?」

「Wait a minute. I'll check the pamphlet......The Anasazi, an ancient Puebloan tribe, began to live here in the 1st century and farmed the land......やっぱり,そう見たいよ。古代プエブロ人のアナサジ族は1世紀ごろに住み始めて農耕を始めた..... The Anasazi people began to build rock dwellings in earnest from around the 12th century......農耕地の側の崖の上に住居を構え、12世紀ごろから本格的に岩窟住居を作り始めた......とあるわ」

「Holly, so you're telling me that the Ancient Puebloans are not Navajo ancestors?.....古代プエブロ人はナバホ族の祖先ではないと言うこと?」
「Seems like it. There are records of ancient Puebloan contact with the Aztec culture of Mexico,.....古代プエブロ人はメキシコのアステカ文化と交流していた記録が残って......、 and the Navajo hunting culture seems to have an Alaskan ancestry......ナバホ族の狩猟文化はアラスカを祖先とする文化らしいわ...... It is still being researched and not all of it is known yet.」

「Holly, the Navajo culture we've seen in New Mexico which influenced the Navajo culture,......ニューメキシコのナバホ族の文化を見てきたが、その文化に影響を与えた原点が...... had its origins here at the Mesa Verde site in Colorado, didn't it?......このコロラドのメサ・ヴェルデ遺跡にあったと言うことになるね」
「I agree. It's like we went around in a circle and came to Colorado......ぐるっと回ってコロラドに来た感じね」

 古代プエブロ人のアナサジ族の文化を特徴づける陶器や宝石類や織物は、ナバホ族の工芸品に良く似ていた。また、自然との調和を保つアナサジ族の宗教感や「キヴァ」のスピリチュアルな精神性も、アメリカン・インディアンに影響を与えた痕跡が溢れていた。

  岩窟部屋にマグカップが吊るされた「Mug Hous」の4.8kmのこのハイキングコースを歩く。未舗装の急な下り坂をスイッチバックしながら、岩をよじ登り、デコボコトレイルを30m以上も下るタフなトレイルを45分掛けて到着する。

 流雲は「Basketmaker Pithous/バスケットメーカー石室」と呼ばれる「竪穴式住居」に驚かされた。石室は地下1mに掘られ、主室の床には4本の頑丈な柱が立てられ、屋根を支える構造になっていた。その住居構造は縄文遺跡の構造に類似していた。
 外壁全体は厚い土壁で塞がれ、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせる工夫がなされており、縄文住居の藁ぶき屋根とは異なるが「竪穴式住居」の類似文化に接した驚きだった。

 日本人の文化の精神性に影響を与えたと言われる縄文人に通じるアメリカ文化を感じる旅になった。


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