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【小説】目が覚めたら夢の中 第42話 呼吸2

呼吸2

「人間ではない?」
天仕てんしです。」
言われたことが理解できなくて、私は動きを止めた。

天仕てんし。それは魔人と同じく、かつてこの世界に存在した種族。だが、天仕てんしはその存在の特殊さゆえに姿を消した。

「カミュスはお聞きになったことがございますか?天仕は『あたうるもの』。自分が持つ能力、魔力、血などを、自分の意志で他者に与えることができるのです。ですから、私は、自分が持っていた、元は貴方の色を、カミュスに与えました。」

私は茫然ぼうぜんと彼女の言葉を聞いていた。だが、その脳裏になぜか一人の男性が浮かぶ。
水色の髪、金色の瞳、そして背中を覆う白い羽。あれは誰だったか・・。

「そして、カミュスは魔人の血を引いていますよね?」
彼女の問いかけに、私の意識が引き戻された。身体が固まる。
「私が魔王に襲われた時、魔王はカミュスと、うり二つの容姿でした。そして、カミュスを我が弟と言ったのです。」
彼女にはすべてわかっていたのだ。

「カミュス!」
自分の身体が彼女から遠ざかろうと動く。彼女はそれを見とがめて、強い口調で私の名を呼んだ。
「すまない。テラスティーネ。私のせいで君は魔王に襲われたのだ。私がここにいなければ・・。」
「いいえ!カミュスがここにいなければ、私は疫病えきびょうで死んでいます。」
テラスティーネが席を立ち、私の方に歩み寄ってくる。
なぜ、私に近づこうとする。私はきっと君を傷つけてしまうのに。

テラスティーネの手が私の身体に触れようと伸びてきて、私の身体は意図せずにビクッと跳ねた。テラスティーネから離れようとして、後ろにあった寝台の上に座り込んだ。テラスティーネは止まることなく、私の方に身を寄せてくる。
「テラ。触れるな。」
「カミュス。。」
テラスティーネの顔が悲しそうにゆがむ。伸ばされていた手がためらった後、私の頭に触れた。優しく頭を撫でられる。でも自分の身体の震えは収まらない。

息が苦しい。
荒い息をついている私を、テラスティーネは心配そうに見つめている。
「ゆっくり息を吐いてください。」
テラスティーネが優しく告げた。意識して息を吐く。
「今度は息を吸ってください。ゆっくりと。」
テラスティーネの言葉に従ってゆっくりと呼吸をしていると、少しずつ息苦しさと身体の震えが収まってきた。
頭を撫でていた手が、私の頬に触れて、いつの間にか流れていたしずくをぬぐう。

そのまま後頭部に腕が回されると、私の頭は彼女の胸の中に抱き込まれた。
あぁ、前にテラスティーネから告白された時と同じだ。と思った。
テラスティーネの身体の温かさと鼓動を感じる。その感覚に安堵あんどしたのか、再び目尻に涙がにじんだ。

何かテラスティーネに声をかけたいのに、言葉にならない。
かろうじて、彼女の背中に手をまわして引き寄せる。
まるですがり付いているかのようで、情けない。

彼女も何も言わなかった。

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