見出し画像

【小説】目が覚めたら夢の中 第41話 呼吸1

呼吸1

目を開くと、薄暗い部屋の中だった。
目が慣れなくて、何度もまたたきを繰り返してみる。
どうやら工房の中の寝台に寝かされているらしい。
身体を起こそうとして、私は誰かにしがみつかれていることに気づいた。
顔を下に向けると、水色の頭が見える。

「テラ。。」
「カミュスヤーナ様。。」
テラスティーネが私の腰に回している腕に力を入れた。胸に当てられた彼女の前髪をかき上げて顔を覗き込む。まぶたは閉じられ、口の中では、もごもごと何かを言っている。
どうやら寝ぼけているようだ。
テラスティーネが一緒に寝ており、部屋の中が薄暗いことから考えて、今は夜のようだ。

折角せっかく寝ているところを起こすのも悪いが、現在の状況を聞きたいので、身体をゆすってテラスティーネを起こす。
「テラ。起きてくれ。」
「カミュス・・?」
テラスティーネが青い瞳をぽやんとさせながら、私を見上げてくる。青い瞳。眠る前に見た彼女の瞳も青い瞳だった。

「今の状況を教えてくれ。テラスティーネ。」
私の声にテラスティーネは、はっとしたように目を見開き、しばらくすると涙でその青い瞳をにじませた。
「・・テラ?」
「やっと、目が覚めたのですね。。カミュス。」
胸の中でしゃくりあげ始めたテラスティーネの背中を優しくなでてやる。

「テラ。あれからどれだけたっている?」
「・・4月です。」
「・・。」
私はこめかみに手をやった。4月。もう彼女の婚姻は済んでいるではないか。
「私の婚姻は延期してもらいました。」
私の考えを読んだかのように彼女は言った。

「一旦、起きましょうか。お腹が空いているかもしれませんが、今は夜なので、明日の朝までお待ちくださいね。」
彼女は私の腕の中から寝台の外にでると、机に灯っていた明かりの光量を上げた。中央にある円卓に水を汲んだグラスを2つ置く。
私は寝台の上で起き上がる。ひとまずめまいはしない。

寝台の脇に立ち上がってみたが、4月もたって筋肉が弱っているかと思いきや、問題はなさそうだ。
「寝ている間も、腕や足は動かしていましたから。」
私が自分の身体を確認しているのを見て、彼女から声がかかる。
「ちなみに、結界もカミュス個人に張っていたので、必要最低限の生命活動しか、していなかったと思います。」
私は彼女の正面の椅子に腰を下ろした。汲んでもらった水を口に含む。

「なぜ、私を眠らせたのだ。」
「いろいろ限界な様子に見受けられましたので。」
「君はあの時には意識が移っていたのだな。」
「急に意識が貴方の夢の中からこの身体に吸い寄せられました。気づいた時にはカミュスが手を握ってくださっていたので、多分魔力をこの身体に流されたのではないですか?」
「魔力を流したのがきっかけで、意識が移行したのか?」
「おそらくは。」
彼女がうなずく。

「以前、貴方の夢の中に退避した時と同じような現象かもしれません。」
「君の瞳と髪の色も元の色に戻っているが。」
「カミュスが眠られた後に、私が戻しました。」
「君にそんなことができたのか?」
魔法士だからか?私は魔人だから、魔力等を奪ったり与えたりできるものと思っていたが、実は人間でも可能なのだろうか。
私が思いにふけっていると、彼女は言いにくそうに口を開いた。

「・・私の父親が人間ではありません。」

サポートしてくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。